第52回 会社が倒産してもめげない「流浪エンジニア」の遍歴
加山恵美
2009/11/20
転職が当たり前の時代になった。それでも、転職を決断するのは容易なことではない。スキルを上げるため、キャリアを磨くため、これまでと異なる職種にチャレンジしたり、給料アップを狙ったり――。多くのエンジニアが知りたいのは、転職で思ったとおりの仕事ができた、給料が上がった、といったことではなく、転職に至る思考プロセスや決断の理由なのかもしれない。本連載では、主に@ITジョブエージェントを利用して転職したエンジニアに、転職の決断理由を尋ねた。 |
今回の転職者:細野隆氏(仮名) |
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新卒で商社に入社し、その後、システム会社等を経て、会計のシステムプロジェクトに携わる。会計システムの知識や経験、そして簿記の資格を活かしたいと考え、会計コンサルタントとして転職。 |
この連載に登場するエンジニアにしては珍しく、細野隆氏は就職前にコンピュータとの接点が特になかったという。細野氏は自分についてこう話す。
「いまだに自分がエンジニアに向いているか、分からないです」
消極的のようだが、謙虚なのかもしれない。エンジニア歴は7年を超えている。決して短くはない経歴だ。3回もエンジニアとして転職した経験を持つ。向いていなかったら、ここまで続いていなかっただろう。消極的のように見えて行動力がある。彼のエンジニアとしての半生を追ってみよう。
■営業で就職するも、スタイルが性に合わず
商学部出身のせいか、新卒で入社した会社は商社。職種はエンジニアではなく、営業だった。学部から考えれば不思議はない。そこでSCM(Supply Chain Management)のパッケージを任された。
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営業をやりながら「もっと顧客と情報交換し、問題解決にじっくり取り組みたい」と考えるようになったが、会社はそうさせてくれなかった。古い体質というべきか、「とにかく顧客に密着し、接待し、できるだけ数多くの顧客を回るように」という営業スタイルだった。
そんな体質にすぐ嫌気がさした。次第に「自分のやりたかったこと、向いているものは営業ではなかったのではないか」と思うようになった。
間もなく転職フェアに足を運ぶ。第2新卒として就職先を探すためだ。もう営業をやるつもりはなかった。だからといって、特に目指す職種は定めていなかった。そこで、営業でSCMを扱っていた経験を足がかりにして、エンジニアとして再就職をした。
未経験なのに、エンジニアへキャリアチェンジしたことになるが、細野氏は特に意識しなかったようだ。一般的にはスキルが足りないことを不安に感じたり、未知なる世界に踏み込むことに二の足を踏んだりすることがあるのだが、彼は軽々と乗り越えてしまった。
■エンジニアとして再スタート、しかしカフェ経営に興味が移る
第2新卒のエンジニアとして再スタートを切った。さっそく、客先の開発現場に派遣された。7、8人のチームに所属し、先輩となるエンジニアから指示をもらいながら働いた。SAPを扱うことが多かった。エンジニアとして必要なスキルの多くは実践から学び、時には職場から講習を受講させてもらえた。半年から1年の単位でプロジェクトを渡り歩き、数年が過ぎた。
しかし、やがて気持ちが別の方向へ向くようになってきた。エンジニアに嫌気がさしたわけではない。ただ新しいことに挑戦してみたくなったのだ。少し恥ずかしがりながら細野氏はぼそっと打ち明けてくれた。
「お店をプロデュースしたかったのです。カフェを」
エンジニアとはまったく違う道である。働いているうちに飲食店を開業することに興味がわくようになったという。こんな雰囲気の店にしたい、BGMはこんな曲を使いたい――そんな想像が頭をめぐるようになった。
そして一念発起、4年8カ月勤めた会社を退職した。ただしすぐには開業できないので、まずはアルバイトから始めて現場の雰囲気をつかみつつ、開業のための講習会を受講するなど情報収集を始めた。
だが見切りを付けるのは早かった。1年後には「無理そうだ」と悟ってしまったという。実際にアルバイトを体験してみて目にした現実、講習で知った数々の責務や作業、これらをすべて自分1人でこなす重さは想像以上だった。カフェの開業はあきらめた。
遠い先、例えば20年後に再びチャレンジしてはどうかと水を向けると、「いや、それはないですね」と細野氏は笑っていた。さて、どうだろうか。
■夢を断念し、再びエンジニアに復帰
わずか1年と少し、いわばエンジニアの道から脱線した形になったが、この経験は細野氏の「価値観を変えた」という。細野氏は「飲食店に対する価値観」だというが、働くことについての考え方にも影響を与えたのかもしれない。
再び転職先を探す際、細野氏は「次の職場ではエンジニアとしての専門性を高めるようにしたい」と向上心を抱きながら臨んでいた。これまでプログラミングの経験が少なかったため、「プログラミングのスキルを高めたい」「下請けだけではなく上流から下流まで幅広く受け持つようになりたい」と思い、それが可能となるような会社を探した。仕事探しの目標や要件がより具体的になってきた。
最終的には10社ほど応募した。その中で、面接で「フィーリングが合ったところ」、直感的に好感を持てた会社を選んだ。入社後に与えられた仕事でも前の職場同様にSAPを扱うことが多かった。ただし最初は偶然だったという。
「入社直後にSAPのプロジェクトに欠員が出たため、急きょアサインされました。もしこれがなかったら違う仕事をしていたかもしれません」
与えられた仕事が会計システムの保守ということもあり、淡々と仕事をこなす日々が続く。面白味がないというと語弊があるが、本番稼働している業務システムなので間違いがあっては許されない。緊張感を持ちながら、安定かつ確実に業務システムの運営や管理をこなした。
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