第12回 原理・原則を見抜けるITエンジニアを目指せ
三浦優子
2007/10/10
企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。 |
「コンサルタントにとって、プログラミング知識・経験は必要なものだと思っています」。こう断言するのは、アビーム コンサルティング テクノロジーインテグレーション事業部 事業部長の間所徹氏だ。
ITが経営改革を行う際に不可欠なものとなるに従い、コンサルタントに限らずITエンジニアにもコミュニケーション能力、経営的な視点を持つことの必要性が叫ばれている。その影響か、ITの基本ともいうべきプログラミングに対しては言及されることが少なくなった。
しかし間所氏は、「コンサルタントとして論理的に物事をとらえる際、プログラミング経験というのは大きな力になるものだと思っています」という。コンサルタントの業務とは異なるものに見えるプログラミング能力だが、「思考」を行う際にプログラマとしての経験が役立っているのだという。
■技術を見極める際に役立つシステム保守や運用経験
間所氏が管轄するテクノロジーインテグレーション事業部は、主にパッケージなどを利用せず、オリジナルプログラム、つまりスクラッチでシステムを構築するような企業を対象にコンサルティングを行っている。
アビーム コンサルティング テクノロジーインテグレーション事業部 事業部長 間所徹氏 |
大企業でもERPなどを中心にパッケージ利用が増えるに従い、プログラムを書いた経験がないITエンジニアも存在する時代となった。だが、アビーム コンサルティングでは、新卒者であれば入社後に一度はプログラムを書く経験をさせている。
「パッケージソフトしか触ったことがないエンジニアは、そのシステムがどう出来上がっているのか、原理・原則がきちんと理解できなくなりがちです。そこで当社としては、最初はプログラムを書く経験をさせるようにしています。まずプログラミングを、その後にパッケージ導入を経験しても決して遅くはありません。私自身も、最初はプログラムを書く業務からスタートし、その後、ERP活用のプロジェクトを担当するようになりました。ところが、その逆というのはなかなか難しいのです」
確かにIT業界全体を見ても、プログラミング能力が俎上に上がることは以前より少なくなった。これは冒頭で紹介したように、システム構築の際には経営的な視点といったものが重視されるようになったことと、パッケージの活用が多くなるに従って、カスタムメイドプログラムの利用割合が以前よりも少なくなっていることが影響していると思われる。
特にコンサルタントにとっては、プログラミング知識や経験は必要ないと思われているようだ。
「しかし、実際はそうではないんです。残念ながら最近のコンサルタント志望者と話をしていると、プログラムを書くといった地道な仕事を軽視する傾向が強くなっているように思います。コンサルタント指向というのか、業務指向というのか、コンサルタントはプログラミング的なことはやらなくていいと考える人も多いですね。でも、当社が行っているコンサルティングには、やはりプログラミング経験があった方がプラスになると思います」
コンサルティングを行う際、例えば利用する技術が本当に目標とする成果を出すことができるのかどうかを見極めるといった場合、「実はシステム保守、運用といった仕事を経験していると、その見極めがしやすいといったプラス効果があります」という。
アビーム コンサルティングの場合、中途採用にも前職が技術者であることは優位に働く。
「コンサルタントへの転職ということで、前職は技術職よりも生産管理を10年担当したとか、経理部門で10年働いたといった、現場業務経験が大切なのではないかと考えられる方もいます。しかし、現場業務は、企業ごとにやり方などが大きく異なる場合が多いのです。ほかのコンサルティング会社は分かりませんが、当社の場合は技術業務の後、現場業務などの経験を積んでいくというのが基本です」
間所氏は次のように指摘する。「ITエンジニアからコンサルタントへの転身は向いている」という意見はほかのコンサルティングファームからも上がっている。経営改革などにITを活用することが不可欠となっていることから、ITエンジニアとしての経験がプラスになるという。
ITエンジニアとして経験を積んでいくことは、コンサルタントとなるための道筋の1つといえそうだ。
■物事の原理・原則をとらえるから見えるもの
ITエンジニアとしての経験は、ITコンサルタントにもう1つのプラス効果をもたらすと間所氏は考えている。
「コンサルティングを行ううえで、お客さまのビジネス、経営者の考え方、その会社のカルチャーといったものをよく理解することは非常に重要ですが、お客さまが漠然と認識している経営課題をさまざまな事象の分析によって整理し、本質を特定して、その解決を実現させていくのがコンサルタントの本来の役割です。その際、ロジカルに問題をとらえ、解決していくという技術者としての経験は大きな力になると思います」
顧客自身においても漠然としている物事を具現化するためには、コミュニケーションによって相手の考えていることを引き出すことも必要となる。このコミュニケーション能力を支えるのは、ロジカルに物事をとらえる視点だと間所氏は考える。
「コミュニケーション能力はもちろん重要です。しかし、お客さまにはいろいろな方がいらっしゃいます。自分が考えていることを表現するのが苦手な方もいますし、外部からやってきたコンサルタントに対し、警戒心を持つお客さまだっていらっしゃいます。どんなお客さまとも適切なコミュニケーションを取っていくためには、現場で経験を積むことが必要だという意見があります。それはそのとおりですが、漫然と経験を積むだけでは駄目だと私は思います。現場の状況を把握し、ベースとなる理論に基づいて分析するからこそ、経験を蓄積させていくことができるのではないでしょうか」
間所氏自身は、自分が担当する仕事については関連書籍などを読み、周囲からヒアリングを行うことで、原理・原則をある程度理解したうえで仕事をすることを心掛けているという。
「例えば、自分が担当するプロジェクトが営業部門にかかわるものであるとすれば、営業という仕事がどういうものなのか、基本の理屈を理解しておきたいと考えます。それは実際に仕事を進める中で基本を理解していると、相手とのコミュニケーションもスムーズに進むし、的確な指摘もできるようになるからです。営業部門のプロジェクトを10個経験したといっても、漫然と仕事をしているだけでは営業という仕事がどんなものか理解できない場合だってあります。どれだけ経験を積んだかよりも、その仕事がどんなものかきちんと理解しようとする姿勢の方が大切だと思います」
コンサルタントの仕事というと、技術者とは異なり、経験やひらめきといった感覚的な能力が必要な職種に思える。しかし、間所氏が指摘するように、相手に適切なアドバイスを行うためには、冷静に状況・物事を分析する力……一種の技術が必要となる。
「物事を正確かつ網羅的に分析し、ロジカルに考えていくというのは、コンサルタントの仕事をしていくうちに身に付いたことだと思います。自分がプレゼンテーションをするのが下手だと思ったら、関連する本を何冊も読みます。本を見比べていくと、プレゼンテーションを行うにも原理・原則があることが分かってくるんです。それを理解したうえで、自分に一番合うやり方を書いた本を参考にすればいいんだと思います」
■物事を見極める「目」こそコンサルタントの本分
それでは、物事の原理・原則を見極めていく力を養うためには、どうすればいいのだろうか。
「私自身が有効だと思ったものの1つは、資格を取得するために勉強した経験です。コンサルタントの仕事をするうえで資格を持っているか否かというのは実際にはあまり意味がありません。資格を名刺に刷り込んでおいても、お客さまと名刺交換をする際、話題の1つになるくらいです。ただ、その資格を取得するための勉強をすることで、物事の原理・原則、本質が理解できるようになると思います」
間所氏は、公認会計士の資格を持っている。この資格は社会人になって7年目に取得したそうだ。仕事と無関係なものではないが、この資格を持っていることは必須ではなかったそうだ。むしろ、資格取得のために勉強していく中で得た理論が仕事に生きているという。
コンサルティングに活用する技術は、時とともに移り変わっていく。コンサルタントとして仕事をしていくと、技術進化を追いかけてばかりはいられないが、プロジェクトに使われている技術が適切かどうか、見極めなければならない場面も出てくる。
「その判断は容易ではありません。が、その際にも技術の本質を理解していく力というのが、1つの指針になると思います」
表面に惑わされず、本質を見極めようとする視点を持つことこそ、どんな仕事をしていくうえでも大きな力となっていくのである。
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