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なぜ、彼らは転職を考えたのか

第10回 あこがれの先輩につられて転職。しかし……

アデコ
大田耕平

2008/2/19

尊敬する先輩に誘われての転職。しかし本人の考えは

 転職後、任された業務は会計パッケージの保守・カスタマイズでした。使い勝手の悪いパッケージのため、遅くまでトラブルの修復に努める日々が続きました。

 企業のWebサイトに掲載されていた導入先企業数には過去の導入実績も含まれており、現在も契約が続いている企業はその中の数社のみでした。入社前に聞いていた100人月のプロジェクトなど、絵に描いたもちです。

 また、実際の売り上げと事業計画との間に大きな乖離(かいり)があることも分かりました。最近は協力会社への支払いが遅延しているなど、事業の存続さえも危ない状況にあるとのことでした。

 状況を把握した後、私は小杉さんに、過去の転職に対しての考え方と今後のビジョンを聞いてみることにしました。

大田(筆者) 1年前に、8年勤めた会社を辞めて転職されたのですね。理由をもう少し詳しく教えていただけますか。

小杉 お世話になった先輩から誘われたことはとてもうれしかったですね。また、最初に勤めていたソフトハウスでは、携わる業務はどうしても下流工程が多かったのです。年齢的にも、そろそろプロジェクトを丸ごと担当できるシステムインテグレータに移りたいとは考えていました。

大田 そして半年前、また先輩が転職をしたのですね。先輩はどのような方なのでしょうか。

小杉 会計業務に非常に強みを持っているITエンジニアです。簿記1級を取得していますし、税理士や会計士の知り合いもたくさんいるようです。「いずれ絶対に独立する!」「そのためにはいまこの経験が必要なんだ!」、これがいつもの口癖ですね。年齢は3つしか違わないのですが、その独立志向と職業意識の高さにはいつも頭が下がります。

大田 ベンチャースピリットを持った優秀な方なのですね。そういう方と一緒に働いているととても刺激的ですよね。小杉さんもいずれは独立をお考えなのですか。

小杉 それは……。私は結婚しておりますし、来年には子どもが生まれる予定です。漠然としたあこがれはありますが、具体的には考えられていません。先輩のようにハッキリしたキャリアパスをまだイメージできていないことは、自分でも良くないと思っているのですが……。いまはもう少し、体系的に幅広く業務知識、技術を身に付けたいと考えています。

大田 まだお若いことですし、今後どのような分野を伸ばしたいのか模索していらっしゃる最中なのですね。それならば、安定していて比較的大規模なシステムインテグレータでスキルを磨かれてもいいと思いますよ。

 尊敬する先輩に誘われて転職を重ねた小杉さん。しかし本人の考えや希望のキャリアパスは、先輩のものとは大きく異なっていたのです。

再び、短期間での転職にチャレンジ

小杉 短期で転職を繰り返すと、企業からのイメージは良くないんですよね?

大田 確かに企業によっては、定着性を懸念して書類選考段階で見送るところも出てくるでしょう。ただ、次は少し安定した企業に入りたいとお考えなのですよね。

小杉 はい、そうです。現在の会社には経営の危機も感じておりますし、目の前の仕事に集中できないのです。実は社風にもなじめていません。やはりベンチャー企業は文化が違うと思いました。

大田 そうですね。逆にいえば、安定している企業では小杉さんのように会社の経営に危機感を持っている人は少ないと思います。短い期間でもそのような経験ができた小杉さんは、次に行く企業のカンフル剤的な役割ができるかもしれませんよ! 今回の転職活動は少し難航するかもしれませんが、粘り強くやることがポイントになると思います。

 こうして、小杉さんのチャレンジングな転職活動が始まったのです。

 1年間で2度の転職をしている小杉さん。企業に与える印象は決して良いとはいえません。ですので私からも、短期間に2度転職している理由、本来ならばまじめで中長期的に活躍することができる人であるなど詳細な説明を加え、教育制度がしっかりしているシステムインテグレータ複数社に書類を提出しました。

 7社ほどに書類を提出し、その中から3社、面接に来てほしいという連絡をもらうことができました。

 面接での小杉さんは、短期に転職を重ねてしまったことへの反省を伝えつつ、そこで学べたことを思う存分にアピール。短い期間とはいえベンチャー企業で仕事をした経験、以前の会社に8年間勤めたことなどは好意的に受け取られたようでした。そして小杉さんは、希望の企業から採用内定通知書を獲得することができたのです。

 私は小杉さんに「もう一度、人事担当者や配属される部署の上司と面談の場を持ち、打ち合わせをしてみてはどうですか」と提案してみました。入社後のイメージ、会社が求めている人物像などを互いに話し合うことで、次こそは入社後のギャップを回避してもらいたいと思ったためです。

 未来の上司、人事担当者に、会社の事業方針や業務内容、アサインされるプロジェクト、今後のキャリアパスについてじっくり話を聞き、不安をすべて取り除けた小杉さん。今度こそ、心の底から納得できる転職をすることができました。しかも通勤時間を40分も短縮できるというおまけ付きで……。

 今回は、尊敬する先輩の誘いで転職を重ねた小杉さんの例をお話ししました。

 2回の転職のきっかけをつくった先輩も、決して悪気があって誘ったわけではないのでしょう。しかしあこがれの先輩と一緒に働くことと、キャリアパスの形成とは別の軸のことかと思います。

 「一緒に働こう!」。そのような誘いを受けるのはうれしいことでしょう。しかし、世の中そんなにうまい話ばかりではありません。良いオファーがあったときほど、いま一度、冷静に考えてみることが必要なのかもしれませんね。

 

今回のインデックス
先輩に誘われて、2度の転職。しかし、そこには落とし穴が
自分が本当に望んでいたのは「安定」だった

筆者プロフィール
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
大田耕平

神奈川県出身。大学卒業後、大手独立系システムインテグレータに入社。システムエンジニアとして大手生命保険会社のシステム開発に携わる。アデコではIT業界のエンジニアの紹介を中心に幅広く担当。Webや紙媒体の求人情報では伝わりにくい部分をITエンジニア視点で求職者に伝えられるよう心掛けているという。

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