ヴォルテックス 竹内基泰
2006/10/5
■外資系企業の転職市場、異変あり
私は、約20年近く外資系企業を中心に人材紹介業に携わってきました。そこで、外資系企業を中心とした転職市場の状況を紹介したいと思います。
外資系企業の転職市場は、2000年ごろのITバブルを思い出すほどの活況を呈しています。というのは、各社とも軒並み採用意欲が高く、求人希望数が大幅に求職希望者数を上回っているためです。この活況は景気の良さを反映したものでしょう。ただし転職市場の活況は外資系企業に限ったものではなく、国内の転職市場全体の状況です。
■人材紹介会社と外資系企業
以前から四半期ベース(決算)で業績を判断することが多かった外資系企業では、人材の採用なども四半期ごとに見直すところが多くあります。また、日本企業が利用するよりもずっと前から人材紹介会社を活用してきました。
ただ、最近の外資系企業の傾向は、日本の成熟した分野から撤退や縮小をし、その分成長余力が大きい中国の拠点を拡充する動きが加速しています。
個人的には、マーケットの新規開拓が人口に比例して行いやすいスタートアップ企業の日本進出が少なくなっていて、そうした人材採用に関する人材紹介会社への問い合わせがめっきり少なくなったことを実感しています。
■外資系企業への転職はまれだった
少し前までは、外資系企業に転職するITエンジニアを揶揄(やゆ)する向きがありました。
なぜかというと、海外で製品を開発し、日本でその製品、ソリューションを展開する、という企業ですと、日本でのキャリアパスが限られてしまうところが多かったためです。ITエンジニアとして入社しても、ITエンジニアを極めていくキャリアパスはさほどなく、マネジメントやほかの職種に転換するしかないことが多かったのです。これがITエンジニアの道を極めたいという方には不評だったようです。ITエンジニアが企業を引っ張っていくようなイメージがある企業、例えばグーグルのような企業は、そう多いわけではありません。
ただ、このキャリアパスの問題は、一般の日本企業も同じ課題を抱えています。日本企業の場合は、長い間プログラマ→SE→上級SEなりプロジェクトマネージャといった、先になるほど細くなる直線的なキャリアパスしかありませんでした。
しかし雰囲気として、外資系企業ではITエンジニアの道は厳しそうだ、と思われているようです。こうしたイメージが強かったためか、以前は外資系企業に転職するITエンジニアはまれな存在でした。ただし一度外資系企業に転職すると、日本企業に戻る人は少なく、再度転職するとしてもまた外資系企業に、という人が比較的多かったようです。
■外資系企業より日本のベンチャー企業
次第に外資系企業への転職も多くなってきたと思います。それが一服したのは先ほども少し触れた2000年前後のITバブルの後でしょう。ITバブル崩壊後、2001年以降にリストラを行う外資系企業が多くなりました。それによって転職市場では、外資系企業から日本の企業、特にベンチャー企業へ転職する人が目立つようになりました。
ベンチャー企業は、ある特定の技術に詳しい人よりもいろんなことができる人を求める傾向があります。そのため、1人で何役もこなせるITエンジニアが向いています。ベンチャー企業の業務の多くは不定形です。決まったことをこなすよりも、日々新しいことに挑戦することが普通であり、それを自ら率先して行うような人材が求められるわけです。
ただ最近、ベンチャー企業への転職ブームも落ち着いたように思います。それは、日本の景気がよくなり、大手の日本企業が人材採用に積極的になったことから、転職希望者も大手企業を見直そうという動きが出てきたこともあるのでしょう。
外資系企業への転職も、景気の回復とともに増えています。外資系企業のいいところを挙げるとしたら、人事制度ではないでしょうか。外資系企業(特に米国企業)は、日本のルール(日本の法令)に準拠する部分もありますが、基本はグローバルな基準、ルールで運用しているところが多いです。もちろん、フレンドリーな雰囲気を持つ企業は多いですが、日本企業ほど意味のない飲み会のお誘いや、ラインでもない上司からの指示はありません。
■外資系企業への転職相談で多いこと
最後にITエンジニアの方々から外資系企業への転職相談(相談されるのは、圧倒的に日本企業に所属している方が多いですが)で多いものを紹介したいと思います。
最も多い相談は、仕事内容(指揮形態・責任範囲・残業時間・人間関係など)についてです。これは、日本企業でも同じかもしれません。
そのほか多くて目に付くのは、やはり英語についてでしょう。よく日本では、TOEICは600点や700点ぐらい取らないと(外資系への)転職は難しい、といったことを耳にします。
しかし実際は、企業のWebサイトなどでTOEICのスコアが500点程度でも問題ないと記載されているところもあるのです。金融や海運、空運といった業界は別ですが、それほどの英語力を要求されない企業も多いのです。ですから、外資系のIT企業も転職候補として考えてみるのはどうでしょうか。
外資系企業は一般的に、採用基準を引き下げるようなことはしません。しかし最近の採用競争の激化によって、採用基準の見直しを図る企業が続出しています。そのことから、外資系企業に転職するならいまがいいチャンスかもしれません。
筆者プロフィール |
ヴォルテックス 竹内基泰 大学卒業後、日本の大手流通業とベンチャー企業に6年勤めた後、外資系コンピュータベンダの営業職に5年半従事。その後人材紹介会社を設立し、当初から外資系IT企業に絞った活動をしてきた。主にシステムエンジニア、組み込み系、ERP関係に力を入れているという。 |
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