自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |

フリーエンジニアへの第一歩
ITエンジニアのための起業実践ポイント解説

田中利征(税理士)
2003/11/14

あなたが「よし、フリーになろう!」と決断したとしよう。しかし、個人事業主となるのか、会社を設立するのか。その後、どのような手続きがあり、どのようなことを行えばいいのだろうか。知り合いに聞くこともいいが、まずは自分で概観ぐらいは把握したい。今回は、起業を決断したときのためのポイントを解説する。

 起業を決心されたあなたがどのような形態で事業を行うかによって、次のような差が生じます。

1)取引先の開拓にも影響が出る
2)利益にかかる税金も大きく変わる
3)優秀な従業員の確保にも断然の差が出る
4)何か問題を起こしてしまったときに、あなたに降りかかってくる責任も全然違う

 ですから、まずは事業形態は法人なのか個人なのかをじっくりと考え、事業形態が決まったら、法律に従って必要な手続きを進めていくのが賢明でしょう。

 本稿は、起業される方皆さんが迷われる、法人または個人形態のいずれを選択したらいいのか、その決定の際に重要と思われるポイントを解説していきます。

第1章
個人事業と法人はどう違うの?

両者の相違点

 まずは個人事業でスタートするのか、法人を設立するのか、誰でも迷うところです。事業を始めるには、個人事業、法人のいずれで開業することも可能なのですから。

 では、個人事業と法人の相違は何かといえば、それは資金規模(事業規模)と事業継続性にあるといえるでしょう。法人を設立すると多くの人から出資を受けることが可能となりますし、法人の行う事業は創業者個人の事業ではなく会社の事業となるため、個人一代限りではなく、永続的に事業活動が行われていくことになります。

 一般によくいわれる個人事業と会社組織それぞれのメリット/デメリットを挙げてみます(表1)。

個人 法人
設立手続き(登記) 設立登記は不要 設立登記が必要
開業のタイミング いつでも開業可能 設立手続き完了後
開業時の資金
(資本金)
自由に決められる 法律の定めによる
経理の処理 簡易帳簿での記帳も認められる 複式帳簿での帳簿作成
経費の取り扱い 事業関連交際費に制限なし 事業関連交際費に制限あり
社会的な信用 法人より低い 個人より高い
負債に対する責任 すべて個人が責任を負う 出資者の責任に限度がある
事業内容の選択・変更 自由にできる 法的手続き(登記)が必要
確定申告 比較的簡単 複雑で面倒
税金の負担 利益に応じて税負担も上がる 原則一定
表1 個人事業と会社経営のメリット/デメリット

 以上のように、個人事業の方が設立時の法的手続きが不要であるなど、事業開始に関するハードルが低く、しかも記帳や経費などの面では、法人に比して有利な面があることが分かります。

こんなケースは個人事業で

 取りあえずは手軽な個人で開業してみたい、という相談は、筆者もよく受けます。次の項目に当てはまるなら個人事業での開業もお勧めです。

(1)少額の事業資金でスタートしたい
(2)事業活動をするに当たって法人格はいらない(個人事業であることが信用などでマイナスになることはない)
(3)従業員を多人数採用することはない
(4)管理業務(経理処理、労務など)の負担をできるだけ軽くしたい
(5)多額の事業資金が必要になることはない
(6)事業内容の変更をすることが多いかもしれない
(7)確定申告などの税務も自分でやりたい
(8)毎年そこそこの利益は期待できるが、多額の利益が出ることはない

 エンジニアの方の起業では比較的上記の項目を満たしている場合が多く、個人事業での独立に適しているといえます。また、最初は個人事業からスタートし、事業が順調に成長してきたらその時点で法人化(法人成り)、つまり会社組織にするというのも合理的です。

第2章
主な法人の種類とその特徴

 本章では、主な法人の種類とその特徴を見ていきますが、その前に「無限責任」と「有限責任」という言葉を理解する必要があります。

 無限責任とは、会社債務(借金など)に対して、株主や社員(=出資者のこと、いわゆる従業員ではありません)が無限にこれを弁済すべき責任を負うということです。ですから、会社が倒産などをした場合は、私財をすべてなげうってでも借金などの返済をしなければならなくなります。

 有限責任とは、会社債務に対して、株主や社員が一定限度においてのみこれを弁済すべき責任を負うということです。有限会社や株式会社の出資者がこれに該当します。この2つの言葉はとても重要なのでその違いを押さえておいてください。

合資・合名会社

 合資会社は、無限責任社員1名以上、有限責任社員1名以上の合計2名以上で構成され、合名会社は無限責任社員のみで2名以上で構成されることになります。社員(=出資者)が2名以上いなければならないため、オーナーが1人で出資して会社をつくるということはできません。また、無限責任社員となる方の負担は相当に大きいものであり、現実には非常に少ない組織形態となっています。

有限会社

 有限会社は、1人以上の有限責任社員のみによって構成されることになります。

 有限会社の大きな魅力は、この「有限責任社員」という点にあります。また、原則として設立最低資本金300万円と比較的少額の資本金で済むため、世間の多くの企業が有限会社の組織形態を採用しているのです。また、取りあえず法人格を取得して信用を得て開業したい、とお考えの方に好まれているようです。

株式会社

 有限会社と同様に、1人以上の有限責任社員のみによって構成されることになります。

 では、株式会社と有限会社の最も大きな相違は何か、それは設立最低資本金にあります。株式会社は原則として1000万円が最低資本金となるのです。世間には1000万円の最低資本金をクリアできずに有限会社でスタートした会社も多くあります。株式会社であれば相当額の資本金を有しているわけで、そのため社会的な信用が最も高い法人といわれるのです。

第3章
個人事業の開業手続きと法人の設立手続き

個人事業の開業手続き

 個人事業の開業はとても簡単にできます。設立登記に時間とお金がかかる法人と違い、個人事業では設立登記が不要となるからです。ですから、思い立ったその日から即事業をスタートすることも可能です。

(1)屋号を決める

 事業に必要でしたら屋号を決めましょう。屋号を決める際には、有名な企業の社名をまねるなど、ほかの事業者の権利を侵害したりすることのないように注意してください。

(2)事務所(店舗)の確保

 個人事業では自宅が事業所という場合も多く、必要なければ無理に借りて経費を増やす必要はありません。小売業でもネット販売専門のお店は、自宅=事業所ということがよくあるようです。

(3)税務署への提出書類

 必要な書類は、実際に税務署に行けば置いてありますが、国税庁のWebページ「タックスアンサー」よりファイルをダウンロードして提出することもできます。各書類には提出期限が定められており、それを守らないと税務上のメリットが得られなくなる場合もあります。必ず期限は守りましょう。

 税務署に提出する必要のある主な書類は、次のようなものがあります。

 (A)開業に関するもの

  • 個人事業の改廃業等の届出書」:開業の事実を届け出ます。

 (B)従業員を雇うと必要なもの

  • 青色事業専従者給与に関する届出(変更届出)書」:自分の妻など、家族従業員に給与を支払う場合に必要となる届け出です
  • 給与支払事務所等の開設(移転・廃止)届出書」:給与の支払事務所などを開設した場合に必要となる届け出です
  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書兼納期の特例適用者に係わる納期限の特例に関する届出書」:給与から徴収した源泉所得税の納付の時期を年2回とすることができるなどのメリットがある届け出です

 (C)青色申告のためのもの

  • 所得税の青色申告承認申請書」:確定申告書を青色の申告書で行う場合に必要となる届け出です。青色申告は大きな節税効果があり、多くの方が青色申告の承認を受けています

 (D)商品・製品の評価、固定資産の償却のためのもの

  • 所得税の【棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法】の届出書」:商品・製品などの棚卸資産の評価方法、固定資産の減価償却方法を届け出るための書類です。届け出をしなければ、税法が定める評価方法・償却方法となります

(4)県税事務所・市役所(東京23区内は都税事務所)への提出書類

 (A)開業に関するもの

  • 個人事業税の事業開始等申請書」:開業の事実を届け出ます。様式は都道府県により相違します

(5)労働基準監督署・公共職業安定所(・社会保険事務所)への提出書類

 (A)労働基準監督署

  • 労働保険 保険関係成立届

 (B)公共職業安定所

  • 雇用保険被保険者資格取得届・区分変更届」:社会保険事務所へは、「健康保険と厚生年金」に関する届けを行いますが、個人事業では従業員の人数が少ない場合、加入義務がありません

法人の設立手続き

 法人はその設立に関して法令に定めがあり、その規定に従い一定の手順で設立手続きを進めていかなければなりません。

 さらに、この設立手順は法人の種類により異なるため、設立するタイプの法人に合った設立手続きを取ることが必要です。ここでは、代表的な法人である有限会社と株式会社の2つを見ていきます。

(1)有限会社

A)基本事項の決定:目的、商号、本店所在地、社員構成を決めます
B)定款の作成・認証:定款の作成、定款認証(公証人役場)を行います
C)出資金の払い込み:銀行などの金融機関へ出資金の払い込みを行います
D)役員による調査書作成
E)設立登記申請:法務局へ法人設立登記申請を行います

(2)株式会社

 株式会社の設立方法は、「発起設立」()と「募集設立」の2つがあります。ここでは、一般の起業の際に多い発起設立の手順を見ておきます。

)発起設立とは:会社設立に際して発行する株式をすべて発起人が引き受ける設立方法のことです。

 (A)発起人会開催:発起人会を開催し、次の事項を決定

  • 商号、事業目的
  • 株式についての取り決め
  • 発起人の人数、発起人総代者名
  • 現物出資の有無
  • 株式払込み金融機関名

 (B)定款の作成・認証:定款の作成、定款認証(公証人役場)

 (C)株式の払い込み:銀行などの金融機関へ株式の払い込み

 (D)取締役会開催

 (E)取締役・監査役による調査書作成

 (F)設立登記申請:法務局へ法人設立登記申請

資本金1円でできる株式・有限会社とは

 株式会社1000万円、有限会社300万円の設立時の最低資本金が緩和され、1円で株式会社や有限会社を設立できるようになりました。ただし、設立後5年経過時点で増資により株式会社は1000万円以上、有限会社は300万円以上の資本金にできない場合、原則として解散することになります。

 最低資本金に達しない期間は、株主への配当が認められず、債権者保護などの面から財務状況の開示、配当制限も義務付けられています。財務上の健全性が低い会社ですから、監視の目(法律)も厳しいものとなるわけで、積極的にはお勧めできません。

第4章
事業にかかる税金は

 個人事業か法人組織かに関係なく、事業活動の成果である「もうけ(利益、所得)」を中心に、主に次のような税金がかかります。

個人事業の場合

(1)所得税
(2)個人住民税:都道府県が所得に応じて住民に課すおなじみの税金です
(3)個人事業税:都道府県が事業のもうけ(所得≒利益)に対してかける税金です
(4)消費税:仕入105円(うち消費税5円)の商品を315円(うち消費税15円)で販売すると、10円の消費税を納税(預かった消費税15円−支払った消費税5円)することになります。ただし、個人事業主は事業開始から2年間は、売り上げにかかわらず消費税の納税義務が免除されます
(5)固定資産税:建物、土地、設備などにかかる税金です

法人組織の場合

1)法人税:国が会社のもうけ(所得≒利益)に対してかける税金です。所得に対して一定の割合で課税されます
2)法人事業税:都道府県が会社のもうけ(所得≒利益)に対してかける税金です
3)法人住民税:都道府県が会社へ課す税金で、A)均等割(資本金などの大きさで税額が決まる)とB)法人税割(法人税額を基に税額が決まる)の合計から成ります
4)消費税:仕入105円(うち消費税5円)の商品を315円(うち消費税15円)で販売すると、10円の消費税を納税(預かった消費税15円−支払った消費税5円)することになります。ただし、資本金1000万円未満の会社は、事業開始から2年間は売り上げにかかわらず消費税の納税義務が免除されます
5)固定資産税:建物、土地、設備などにかかる税金です

事例で見る個人事業・法人組織の税金計算

 個人事業か法人かの形態によって、税金の負担は異なります。ここでは、実際に数値を動かしてみて、どのようにそれぞれの税金が決まるのかを見ていきます。

 シミュレーションの前提となる金額を下記のように想定します(表2)。

諸経費控除後の予想利益
8,000,000
利益から配分する給与金額
  経営者本人への配分額
-6,000,000
  配偶者への給与
-2,000,000
  合計
-8,000,000
給与配分後の利益額
0
表2 シミュレーションの前提条件。単位:円
 
  表2を前提条件とした場合は、次の表3のように法人で経営した方が有利という結論になります。

納税者
納税合
計額
経営者
本人
配偶者
法人
(会社)
個人事業
所得税
794,000
84,000
878,000
住民税
467,000
44,500
511,500
事業税
155.000
155,000
合計
1,416,000
128,500
(1)1,544,500
法人組織
所得税
446,000
84,000
530,000
住民税
293,000
44,500
70,000
407,500
事業税
 −
法人税
合計
739,000
128,500
70,000
(2)937,500
納税差額
(1)−(2)
607,000
表3 この場合は、法人経営が有利という結論になる。単位:円

第5章
「助成金」や「起業家向け融資」の活用

 事業には想像以上のお金が必要となるものです。自己資金で足りない分は融資などで調達するケースが一般的ですが、その前に助成金の給付が受けられないかをまず検討してみましょう。

助成金

 開業者向けの助成金としては、次のものがあります。

(1)「中小企業雇用創出人材確保助成金」

 本助成金は、都道府県知事から事業計画について一定の認定を受けた開業者または新設法人が、その計画に基づき労働者を雇用した場合に、8人を上限とし、その労働者の賃金の4分の1を最大で6カ月間助成するものです。創業間もない場合で、特定の条件に該当すると支給額は労働者1人当たり一律40万円となります。

(2)「受給資格者創業特別助成金」

 本助成金では、事業開始の前日において雇用保険の受給資格者であり、「中小企業雇用創出人材確保助成金」の支給を受ける個人事業主が、労働者を雇用する場合に、雇用管理に要する費用の一部を助成してくれます。助成額は最大で1人雇用時80万円、2人雇用時100万円、3人以上雇用時120万円となります。

(3)「都道府県・市区町村の起業家支援補助制度」

 都道府県・市区町村が独自に起業家支援補助制度を設けている場合があります。起業する際には、一度は問い合わせをすることをお勧めします。

起業家向け融資

 起業家向けの融資としては、次のものがあります。

(1)国民生活金融公庫

  • 「新規開業特別貸付」(運転資金)/借入限度額4800万円
  • 「女性・中高年起業家貸付」(運転資金)/借入限度額4800万円
  • 「新規開業者経営改善貸付」(運転資金・設備資金)/借入限度額550万円

(2)銀行・信用金庫など

  • 「新規事業創出資金貸付」(運転資金・設備資金)/借入限度額1000万円

(3)「都道府県・市区町村の起業家支援融資制度」

 都道府県・市区町村が独自に起業家支援融資制度を設けている場合がありますので、一度問い合わせをしてみることをお勧めします。

筆者プロフィール
田中利征(たなかとしゆき)●税理士として経理、税務の専門分野はもとより、中小企業に対してコンサルティング活動を行うとともに、東京都、埼玉県、商工会議所、税理士会、中小企業家同友会等の依頼により、数多くの講演を意欲的にこなす。また、中小企業における積極的なコンピュータ活用やIT武装の支援活動を行っており、人気の財務会計ソフト「ピクシスわくわく・らんらん財務会計」、CRMソフト「ピクシスCRM(SFA)コンポーネント」の開発中心者でもある。

フリー・独立・起業などの関連記事
実践! フリーエンジニアへの第一歩(本記事)
実録:私がフリーエンジニアになるまで
私が歩んだスーパーフリーエンジニアへの道
起業を目指し、修業を続けるエンジニア
フリーエンジニアが注目される理由
フリーエンジニアになれる人とは
技術者は“起業家マインド”で生き残る

 

自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。