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第2回 和蓮和尚――ブログと勉強会で「キャズムを超えろ!」

岑康貴
2008/7/8

ブログやSNSなどの「オンライン・コミュニティ」と、勉強会やセミナーなどの「リアル・コミュニティ」。現代のエンジニアの「コミュニティ活動」は、双方が密接に連動している。オンラインとリアルの境界を越えて活動する人々に、これからのコミュニティ活動のヒントを聞く。

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 前回、仕事での失敗から「RTCカンファレンス」の主催や「newsing」の開発へと至ったマイネット・ジャパンの上原仁氏に、コミュニティについて話を聞いた(上原仁――絶望を救ったSNSとオフ会)。今回は、そのRTCカンファレンスをきっかけとして、一流企業を飛び出しベンチャー企業を立ち上げた人物を取り上げる。「和蓮和尚」という不思議なハンドルネームを持つ、Cerevo 代表取締役の岩佐琢磨氏だ。

ネット家電を作るために松下へ

 
 
Cerevo 岩佐琢磨氏

 「大学時代はプログラミングをやっていたんです。でも、仕事では商品企画をやろうと思いまして」

 ネット家電という、まだ確立していない分野の記事を書き、特異な存在となっているブログがある。「キャズムを超えろ!」という名のブログだ。運営しているのは「和蓮和尚」という不思議な名前の人物。インターネットや家電、ユーザーインターフェイスの話題を扱い、人気がある。この取材の翌日に、アジャイルメディア・ネットワークのパートナーブログにも追加された。

 時期を同じくして、あるネット家電のベンチャー企業が本格的に活動を始めた。Cerevoという名の不思議な会社だ。代表は「岩佐琢磨」という人物。彼が「和蓮和尚」だ。

 ブログの内容から、間違いなく家電メーカーに勤める人間だろうと思われていたという。事実、松下電器産業の社員だった。しかし2007年末に退職、ネット家電のベンチャーを立ち上げることになる。

 その経緯で大きく影響しているのが「ブログ」と「勉強会、カンファレンス」であるという。岩佐氏はいかにして起業へと至ったのか。

 「インターネットは好きだったんですけど、普通のネット系企業はもうプレーヤーが出そろってしまっていた。ヤフーさんも楽天さんもいた。インターネットの中だけで完結するビジネスはあったけど、そこから拡張していく部分は、まだこれから、というところだったんです。何がいいかなと考えて、家電に決めました」

 ネット家電の商品企画がしたい、という岩佐氏の思いに答えてくれた唯一の企業が、松下だったのだという。2003年、ネット家電という言葉だけが先走っていた時代だった。

RTCカンファレンスとの出合い

 それからしばらくは、ネット家電の企画を続けていた岩佐氏。しかし、ある限界が見えてきたという。

 「大企業の社員というのは、社内でコミュニケーションを完結させてしまうんです。外に聞くより中に聞いた方が、蓄積もあるし、機密情報もある。でも、ネット家電を作ろうと思ったときに、家電メーカーの中に、ネットコミュニケーションやWebの最新技術の情報はまったくなかったんです。本に書いてあることの方がよほど進んでいる。これはまずいなと思いましたね。外に情報を求める必要が出てきたんです」

 かくして岩佐氏は、Web系のさまざまなセミナーやイベントに顔を出すようになる。当初は有料のセミナーが多かったが、あるとき、RTCカンファレンスの存在を知った。

 「ネットコミュニケーション系のテーマだったと思います。これは面白そうだと思って行ってみたら、雰囲気は軽いし、みんな笑いながら参加している。それまでの有料のセミナーとはまるで違いました。グループワークもありましたし、終わった後には飲み会もある。参加者同士の交流の場があるというのが新鮮でしたね」

 そこでは、あるテーマに興味のある、多種多様な人間が集まっていた。しかも、実際にカンファレンスに来ているということは、それだけ意欲の高い人が集まっているということだ。そこで岩佐氏は不思議な光景を目の当たりにする。

 「やけに顔の広い人がいるし、誰も彼も、なんとなく顔見知りみたいな雰囲気。みんな会社は違うのに。これはどういうことだろうと、最初は横から見ていました。特にハブになっていた人たち――主催者の上原(仁)さんや保田(隆明)さんと話をしてみると、どうやらみんなブログを持っている。カンファレンスは月に1回しかないけど、みんなブログ上でコミュニケーションをしているようでした。ブログがきっかけで別のイベントに誘われたり、飲みに行ったりしているらしいということが分かってきたんです。それなら自分も始めてみようと考えました」

 かくして2006年初頭、ブログ「キャズムを超えろ!」はスタートした。

ブログが名刺代わりに

 「最初のころは特にネット家電の話と意識をしていたわけではないです。ただ、いまやっている仕事に関することを書いていこうと思っていました」

 しかし、松下という大きな企業の社員である傍ら、仕事に関係したことを書くのに抵抗はなかったのだろうか。

 「そこは苦労しました。書けないことというのは、実はないんです。なぜなら、(会社でブログに関する規則が)決まっていないから。どこにも明文化されていなかったんです。だからすごく困っていて。どこまでが書いてよくて、どこからは駄目なのかが分からない、っていうのが結構つらかったですね」

 和蓮和尚というハンドルネームで始めた理由の1つも、そこにあるという。会社の同僚には誰にも教えていなかったという。もっとも、何人かには「もしかしたら」という程度には気付かれていたらしい。

 そんな中で次第に認知され始めていく岩佐氏のブログ。あるとき、「家電メーカーの人間が書いた家電の話はネット上にはほとんどない」ということに気付いたという。その分野のことを書けば、確実に「その分野のことが知りたい人」の目を集めることができる、と確信した岩佐氏は、次第にブログの内容を特化させていく。

 同時に、岩佐氏のブログは「名刺代わり」として作用するようになっていったという。ブログを持っていることで勉強会などでの出会いが後につながるようになり、人脈が広がり始めた。「わりと戦略的にやっていた」と岩佐氏は語る。

 周りにこれだけいろいろな人がいてくれれば、自分でもできるかもしれない――そんなふうに岩佐氏は考えるようになった。たとえ家電メーカーにいても、先進的なネット家電の開発は実現できないのではないか。Webに関する情報の蓄積や手法の追求がないからだ。かといって、Web系の企業に行っても家電は作れない。選択肢は「起業」しかなかった。

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