第8回 末永匡――Sennaとニコニコ大百科を作る偽プログラマ
岑康貴
2008/11/10
エンジニアにとって仲間とはどういう存在なのだろうか。極端なことをいえば、自分1人で作業が完結できてしまうエンジニアにとって、仲間とのコミュニケーションにはどんな意味があるのか。エンジニア同士のネットワークを通じて、エンジニアにとっての仲間とは何かを探る。 |
コミュニティで活躍するエンジニアたちの輪。8人目は、前回の溝口浩二氏(参考:溝口浩二――コードを愛する「動画中継職人」)から紹介された、未来検索ブラジルの末永匡(たすく)氏だ。
「グニャラくん」の相性で親しまれている末永氏。「ニコニコ動画版Wikipedia」「ニコニコ大百科」の開発者としての顔が最も有名だろう。
オープンソースの全文検索エンジン「Senna」(セナ)の開発に携わる末永氏。彼にとって、コミュニティとはどんな存在なのだろうか。
■オープンソース活動が生んだ転職
末永氏が開発を担当するニコニコ大百科には、ユーザーが制作した、彼自身に関する記事が存在する。引用してみよう。
有限会社未来検索ブラジルに勤務する偽プログラマ(本人談)。 (中略) ニコニコ大百科の要望板、不具合板等でユーザーの報告を受けて修正、追加する作業を行っている…っぽい。 非常にユーザーとフランクに(しかし丁寧に)接してくれる。 仕事が速く、時には不具合板の報告があってからものの数分で「修正しました!」と返してくる。 書き込み日時を見ると結構夜遅くまで頑張ってくれているようである。 おまけに土日でも普通に掲示板にいる。(ちゃんと休んでいるのか心配である) ニコニコ大百科の縁の下の力持ち的存在 というか現状なくてはならない存在と言える。 |
なんとユーザーに愛される開発者か。だが、末永氏はこう発言する。
「ニコニコ大百科は副業なんです」
そう。未来検索ブラジルにおける彼のメイン業務は、オープンソースの全文検索エンジンSennaの開発である。
「(未来検索ブラジルに入る)前の会社でも、Web系の仕事をしていました。そこでSennaを使おうと思ったのですが、当時MySQL5に対応していなかったんです。これは困ったということで、対応パッチを作りました」
それがきっかけで、「mixi」経由で「未来検索ブラジルに入らないか」と誘われた。オープンソースが生んだ転職である。
■仕事としてオープンソースにかかわる
未来検索ブラジル 末永匡氏 (名刺には「a.k.a.グニャラくん」と書かれている) |
繰り返すが、Sennaはオープンソースソフトウェアだ。未来検索ブラジルは、企業としてオープンソースに取り組んでいる。会社勤めのエンジニアの多くは、通常業務とは別にオープンソース活動に取り組むことが多い。だが末永氏にとっては、オープンソースが仕事なのだ。
「すごくありがたいことだと思っています。オープンソースって、普通のエンジニアさんにとっては仕事とは別の、趣味のようなところがある。それが業務中に堂々とできてしまうのですから」
ちなみに、Sennaは「2ちゃんねる検索」にも利用されている。「2ちゃんねるも、仕事中に見られるんです。仕事ですからね」と笑う。
中学生のころから長崎でパソコン通信に慣れ親しみ、BASICやC言語でプログラムを書いていたという末永氏。相当の「プログラミング大好き人間」かと思いきや、「いえ、プログラミングは苦手です」と笑う。不思議な人物だ。
■副業「ニコニコ大百科」は忙しい
メインがSennaの開発で、ニコニコ大百科の開発は副業。では、毎日の仕事の比率はどのくらいなのだろうか。
「2対8で、副業の方が多いですね」
2007年11月ごろ、未来検索ブラジルの取締役で、ニコニコ動画の仕掛け人でもある西村博之氏に、ニコニコ大百科の企画を紹介された。「末永くん、やってよ」と、白羽の矢が立ったのだという。
システムを一から開発したため、思ったより時間がかかった。2008年5月にリリースした後も、機能の追加はもちろん、ユーザーサポートも行っている。「2対8」の真相である。
「ユーザーサポートもやっていると、大変です。でも、ユーザーからの声が直接聞けるので、それはすごく良いことだし、楽しいですね」
こうした姿勢が、ユーザーからの評価にもつながっているのだろう。エンドユーザー向けのサービス開発者ならではのモチベーション向上の秘けつといえる。
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