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アジャイルジャパン2010レポート(後編)

スクラムの祖父語る「開発者は知的体育会系であれ」

金武明日香(@IT自分戦略研究所)
2010/4/21

アジャイル開発を行う技術者が集まるイベント「アジャイルジャパン2010」レポート。「体験しよう! 考えよう! 行動しよう!」をテーマに、さまざまな角度からアジャイルを考察したイベントの模様を、前後編に渡ってお届けする。

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 「開発者の皆さん、行動する中で考える『知的体育会系』であってください」

 4月9日の「アジャイルジャパン2010」で、「スクラム開発」の源流を生んだ一橋大学大学名誉教授 野中郁次郎氏が基調講演を行った。テーマは「実践知のリーダーシップ スクラムと知の場づくり」。

動きながら考える「実践知」のリーダーを目指せ
動きながら考える「実践知」のリーダーを目指せ

 ソフトウェア開発のリーダーは、考えるだけの思索家であってはならない。体を動かすだけの実践家でもいけない。実践しながら徹底的に考え抜く「知的体育会系」となって、「よりよいもの」をどこまでも追求してほしい。 「知識経営」の生みの親であり、「スクラム開発」の祖父でもある野中氏がITエンジニアへ向けたメッセージである。

「スクラム開発」の源流を生み出した野中氏

 「スクラム開発」は、アジャイル開発で最も使われる手法の1つだ。もともとラグビー用語である「スクラム」は、野中氏の論文がきっかけでソフトウェア開発現場において普及した。

スクラムアプローチ
スクラムアプローチ

 野中氏は、論文“The New New Product Development Game”(『ハーバード・ビジネス・レビュー』、1986年) で、「スクラム」という言葉とともに日本の開発手法を紹介。アメリカの ケン・シュエイバー氏がソフトウェア開発に応用し、「スクラム開発」が生まれた。野中氏はソフトウェア開発の現場で「スクラム」が普及している状況を最近まで知らず、「講演の話が来たときは驚いた」という。

「思いと信念」が「知識」を生み出す

一橋大学大学名誉教授 野中郁次郎氏
一橋大学大学名誉教授
野中郁次郎氏

 経営学者 ピーター・F・ドラッカーは、「知識だけが唯一意味のある資源」だと指摘した。面白いコンセプトや知識を作る人間が、新しい価値を生み、イノベーションを起こすことができる。

 ここでいう「知識」とは何か。西洋では、「知は神が与えるもの」「客観的な真理がある」という考えが主流である。しかし、野中氏は「知識が生まれる背景には、個人の“思い”がある」と指摘した。個人の「思い」を「真理」として社会的に正当化するプロセスにおいて、知識は生まれる。思いがなければ、そもそも知識は生まれないのである。

イノベーションは知識創造プロセスである
イノベーションは知識創造プロセスである

個人の知識を組織へ、そしてまた個人に。知の流れを高速で回す

 知識には2種類ある。「暗黙知」「形式知」だ。「形式知」は、フォーマットやマニュアルなど、言語化されている知識だ。一方、「暗黙知」は個人が持つ経験知であり、表には出てきていない。一般的に「知識」と見なされるのは「形式知」だが、それは氷山の一角に過ぎない。海面下には、膨大な量の暗黙知が眠っている。

 西洋は言語化された「形式知」を重視する文化を持つ。しかし、野中氏は「暗黙知」も「形式知」とともに重要であると説き、「形式知」と「暗黙知」がスパイラルアップするモデルを提示した。それが、「SECIモデル」である。

SECIモデル:個人の知識を組織のものへ、そしてまた個人に還す
SECIモデル:個人の知識を組織のものへ、そしてまた個人に還す

 これは、知識の循環モデルである。チームが知識を共有し、他の人が使えるよう形式化する。皆が使えるようになった「形式知」を個人が利用して、また新たな「暗黙知」が生まれる。

 1人の技術者が得たノウハウをチームで共有し、そのノウハウを文書化して保存する。新しく来た人が、文書を読んで知識を自分のものとし、新しいノウハウを生み出していく。この「個人⇒集団⇒組織⇒個人」というサイクルが、高速に循環することが望ましい。イノベーションは、創造性と効率性を両立させることによって生まれるのである。野中氏は、知識創造のプロセスを「知流」と呼ぶ。

「形式知」と「暗黙知」の相互作用を巻き起こす
「形式知」と「暗黙知」の相互作用を巻き起こす

ビジョンはできる限り大きく。働き手の元気が出るものに

 では、どのようにして「知流」を加速させればいいのか。必要なのは「リーダーシップ」である。「知識」を「知恵」に練磨するリーダーシップを発揮せよ、と野中氏は語る。

 このリーダーシップは、「フロネシス=実践知」によってもたらされる。「実践知リーダーシップ」を行うために必要な6つの能力は、下記のとおりである。

(1)「善い」目的を作る能力

(2)場をタイムリーに作る能力

(3)ありのままの現実を直観する能力

(4)直観の本質を概念に変換する能力

(5)概念を実現する能力

(6)実践知を組織化する能力

 組織には「善い」目的が不可欠である。目的とは、企業でいえばビジョンだ。ビジョンは、できる限り大きなものがいい。「ビジョンは、ホラでもいいのです。働き手の元気が出る、やる気が持続するすることが重要」と野中氏。個人が自己を超えるための努力を行うには、元気とやる気が欠かせない。そのために、ビジョンが必要なのだ。

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