スクラムの祖父語る「開発者は知的体育会系であれ」
金武明日香(@IT自分戦略研究所)
2010/4/21
■物理的な「場」をチームで共有
6つの能力のうち、最も重要なのは「場をタイムリーに作る――知が生まれる空間や環境を作り出す」能力だ。
「組織」という抽象的なものではなく、 「物理的な場」が個人の相互作用を生み出す |
「場」とは、いわゆる「組織体制」ではなく「いま、ここ」を共有する「物理的な場所」である。経験の共有が、知識を創造する「場」の基盤となる。場にいる人々1人ひとりが「主観」を持ち、その主観をチーム内で共有する。「場は、バーでも会議でも何でもよろしい。個人の主観が影響しあう『相互主観』によって、知識はスパイラルアップするのです」と、野中氏は説明した。
「いま・ここ」の経験を共有し、知を創造する |
例えば、ホンダには「ワイガヤ」という制度がある。「ワイガヤ」では、チームメンバーは温泉宿に宿泊し、3日3晩同じものを食べ、同じ場所で寝泊りする。初日は個と個のぶつかり合いだ。上司の悪口でウォーミングアップし、徹底的に話し合う。喧嘩が起きるが、会社と違って逃げ場がない。徹底的にぶつかり合うと、やがてお互いの内面に踏み込むようになるという。「なぜ自分はこの会社にいるのか?」「何を成し遂げたいのか?」といった、個人の思いを皆で共有する。このような「思いを共有する場」から、新しいアイデアやコンセプトが生まれるのである。
「場の共有」を重視する企業家は多い。ホンダの創業者 本田宗一郎氏は、「現場・現物・現実」を重視する「三現主義」を貫いた。「分からないといっている暇があれば現場に行け」といい、常に開発現場でバイクに乗り、ユーザーとしての意見をフィードバックしたという。
■ソフトウェア開発の現場では?
上記の方法を、ソフトウェア開発で考えてみよう。スクラム開発では、チームメンバーは同じゴールを共有し、自律的に開発を行う。日々の進ちょく状況を会議で共有し、小さなサイクルで開発をどんどん進めていく。「目的」「知識」「場」の共有が肝心だ。「知は関係性です。1人よりは2人、2人よりはチームで仕事をすることにより、新たな知が生まれてくるのです」と、野中氏は語る。
スクラム開発で必要なこと |
■開発リーダーは「知的体育会系」であれ
では、開発現場においてリーダーはどうあるべきか。リーダーは、トップの壮大な「あるべき論」と現場の「現実はこうである」という意見をつなぐ役割を果たすとよい。トップと現場の知識がめぐる「ミドル・アップ・ダウン」の流れを作り出すのである。
組織的に知識を生み出す「ミドル・アップ・ダウン」 |
実践知のリーダーは「動きながら考え抜く」人である。そして、この実践知は「徒弟制度」によって受け継がれる。
「目的を決めて実行するだけでは体育会系に過ぎません。動きながら徹底的に考える『知的体育会系』を目指してほしい。人の思いが社会を豊かにするのです。ソフトウェア開発は、非常にクリエイティブな仕事であると思います」という野中氏の言葉に、会場からは万雷の拍手がわき起こった。
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