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組み込みエンジニアは何を見るか

第5回 組み込み開発にオブジェクト指向を

三浦優子
2007/7/27

足りないのはプロジェクト管理

 その後、福富氏は豆蔵に転職した。オブジェクト指向技術を組み込みソフト開発に応用することに、さらにまい進していくことになる。

 「私が現在所属するエンジニアリングソリューション事業部というのは、組み込みソフトを開発しているユーザーに技術支援をする仕事をしています。技術支援というのは、具体的にいえば『どうやって仕様を定義するのか』『どうやって設計するのか』『どうやってプロジェクトをマネジメントするのか』といった、開発の方法を支援していくことが業務となっています」

 しかし、豆蔵に転職した当初は、組み込みソフトを開発した経験者は社内には少なく、顧客の増加とともに人員を補強、増強していった。

 組み込みソフトでは、品質の向上、生産性の向上、納期の短縮、仕様変更要求への迅速な対応といったことが大きな課題となっている。オブジェクト指向は、こうした問題点を解決するのに適しているとして評価されている。

 しかし、福富氏は改善が必要なのはオブジェクト指向のような開発の方法だけでなく、開発プロジェクトの管理体制にも必要だと指摘する。

 「どんなに再利用性のある、あるいは拡張性のあるソフトウェア部品を開発したとしても、仕様変更をうまくコントロールする力がなければ、徐々にソフトウェアは壊れていくでしょう。あるいは、作ったソフトウェア部品そのものを組織として再利用していくのは難しいでしょう。そのためには、プロジェクトを管理するための改善も実施していかなければ、今後も開発は良くならないでしょう」

 「どんなに良いプログラムでも、何回も仕様変更しているようだとミスを誘発してしまいます。組織的に開発を行う体制をつくり、プロジェクトを管理していく体制を整えていかなければ、今後もトラブルは減らないでしょう」

 自動車や家電製品などのハードウェアについては、体制を整えて品質管理を徹底的に行うというのは日本企業のお家芸だ。が、ことソフト開発となると、組み込みソフトに限らず、管理体制が十分整っていないといわれる。

 「ハードウェア開発は、複数の人間が、何回もチェックを行う体制が出来上がっている。しかし、ソフトウェアについては、対象としているソフトウェアが目に見えないので、完成するまでに品質が確認し難く、チェック体制が不十分。開発途中でハードウェアのようにいろんな人の目を通す体制が出来上がっていないからこそ、最後の最後になってうまくいかないことが発覚する悪循環に陥っている」

プロジェクト管理は数人規模の時代とほぼ同じ

 そうした問題点の要因となっているのが、あまりにも短期間に組み込みソフトの規模が拡大したことだ。

 先ほど紹介したように福富氏が組み込みソフト開発を始めたころは、かかわっているエンジニアの数はほんの2、3人が当たり前であった。現在は数百人規模のエンジニアがかかわって開発を行うことも少なくない。にもかかわらず、プロジェクトの管理方法は数人で開発を行っていた時代とさほど変わらないままのケースもいまだにある。

 「私たちは、そういう日本メーカーの状況を変えたいと思っています。そのためには、豆蔵のメーカーへの支援体制は小規模すぎる。もっと人数を増やして、日本の組み込みソフト開発を変革するぐらいのパワーが欲しいですね。まぁ、どこまでできるか分からないけれど(笑)」

 日本はプロジェクトをマネジメントし、プロセスをコントロールして開発することが不得意とされている。それに対し福富氏は、「確かにそれはあると思いますが、逆に日本ならではのよいところもたくさんあると思っています。例えば、みんなで集まって物事を決めていく、誰かが困っていたら自分の役割以外のところも支援するというのは、日本人の良い文化だと自信を持ってもいいと思いますよ。その良さを残しつつ、全体を見通して管理する体制がそろえばいいのでは」と提言する。

もっと“ものづくり”をしたいという気持ちも

 現在は豆蔵で部下のエンジニアをマネジメントする立場に立ち、「何とか、日本のものづくり向上のための力となりたい」と考える福富氏だが、エンジニアとしてはいまでも、現場でものづくりに携わっていきたいという気持ちもあるそうだ。

 「5年くらい、マネジメントなんて一切考えず、ものづくりに没頭したいという気持ちはいまでもありますよ。根は技術者ですから。最初に作ったソフトウェアはいまでも忘れられないですね。そのソフトウェアが組み込まれた製品が市場に出たときには感動しましたから」と笑う。

 だが、その一方で組み込みソフトは、日本の産業振興という点ですぐにでも強化していく必要がある重要なものだという意識も強い。

 「ソフトウェア技術者に対する教育は、ハードウェア技術者に実施している教育と比較すると不十分です。趣味でプログラムを作っていた延長線でソフトウェア作りのプロになった人も多く、ソフトウェアを開発するために必要なソフトウェアエンジニアリングの基礎・基本が理解できていないという点では、もっと教育を強化すべきだと思います」

 福富氏は、こんなことも話してくれた。

 「われわれが提供しているコンサルティングはコミュニケーション能力が重要ですし、エンジニアにとって、コミュニケーション能力は必須のものだと思うが、実は人とコミュニケーションを取るのは、自分はあんまり得意じゃないのです」

 そういいながらエンジニアとして経験を積み、評価されてきたのは、福富氏が仕事に責任を持って対応してきたからではないのだろうか。

 現在のソフトウェアにかかわるエンジニアは、日常の業務に追われ、また開発規模が大きくなったため、直接かかわる開発担当業務以外の部分まで認識する機会が少なくなってきている。そのため、システム・製品全体が理解できなくなってきていることを、福富氏は「気の毒に感じる部分もある」という。

 「そうした部分をカバーするために、われわれも研究開発にもっと力を入れる必要があるかもしれません」とも話す。

エンジニアに贈るアドバイス

 最後に福富氏は、「マネジメントをする立場としてはいいにくいところもあるが、やはりエンジニアはいろいろな企業で働いてみるというのはいいことだと思います。ただ、1年おきにさまざまな会社に移るというのでは、何も身に付きません。5年、10年は1つのところにいなければ、うまくいきません。実力を認めてもらうのにまず、2、3年。さらに何かしようと思ったら、5年くらいはかかる。それだけ時間をかけて、自分のやりたいことを・目標を達成したら、転職して新しい環境で仕事をするというのもありだと思う」と、エンジニアの先輩として若きエンジニアにアドバイスする。

 

 

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