第12回 プロマネになったら、その先は?
關口洸介(パソナキャリア)
2008/05/28
したいことをするため、条件のいい仕事に就くためなど、さまざまな理由で人は転職する。組み込み業界も例外ではない。組み込み業界を舞台にした転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教える。 |
■あこがれのプロジェクトマネージャ
日々、さまざまな業界のエンジニアに会う中で、20代の組み込みエンジニアがプロジェクトマネージャなど上流の職種を志望するケースが多いことを実感しています。
「より裁量の大きい仕事を求めて」「年収アップ」「上司にあこがれて」など理由は人それぞれですが、プロジェクトマネージャへの転職を成功させて目的を達成した人は大勢います。
ただ、ふと気になることがあります。それは、「プロジェクトマネージャは10年後、20年後にどんなキャリアを積んでいるのだろう」ということです。
■組み込みエンジニアのキャリアパス
組み込みエンジニアの転職サポートをする中で、キャリアパスについての相談が多くなっています。組み込みエンジニアの職種には、どのようなものがあるのでしょう。
組み込みエンジニアの業務は多岐にわたりますが、情報処理推進機構(IPA)が策定した「組み込みスキル標準(ETSS)キャリア基準 Version1.0」では、次のような職種に分類しています。
- プロダクトマネージャ:製品の企画・開発・製造・保守などの統括
- プロジェクトマネージャ:プロジェクトの構築・遂行、および計画・指揮・監督
- ドメインスペシャリスト:特定の分野における専門的な知識・技能を駆使した実作業・支援
- システムアーキテクト:システム構造ならびに開発プロセスの設計
- ソフトウェアエンジニア:ソフトウェアの開発・実装・テスト作業
- ブリッジSE:組織的・地理的に分散するプロジェクト組織間の調整作業
- 開発環境エンジニア:使用するツール・設備などの、開発環境の設計・構築、運用
- 開発プロセス改善スペシャリスト:開発プロセスのアセスメント、および改善の推進
- QAスペシャリスト:プロジェクトの全工程における品質確保・維持・向上の推進
- テストエンジニア:テスト設計、テスト実行などのテスト作業の実施
■年収とキャリアの関係
ここで、職種別の年齢層と年収について、「Tech-On!」の調査結果を見てみましょう。
年齢層別に職種を見ると、25歳以下ではソフトウェアエンジニアが大半を占めます。プロジェクトマネージャとして活躍するのは30代から。その後、40代から50代にかけて、プロダクトマネージャやQAスペシャリスト、開発プロセス改善スペシャリストなど、専門的な職種が徐々に増えてきます。
これは、年収と職種のバランスが1つの要因になっているようです。年収が高いのはプロジェクトマネージャといった管理職ですが、専門職の中でも、30代後半では開発プロセス改善スペシャリストの年収がより高くなります。40代になると開発環境エンジニアやQAスペシャリストなども高くなる傾向があるようです。
しかし、必ずしも年収が高ければハッピーというわけではないようです。例えば、職種の「やりがい」の方が年収よりも優先順位が高い、という人もいます。
■年収1200万円よりも大切なこと
ここで、あるシニアエンジニアの転職事例についてお話しします。
橋木さん(仮名、45歳)は、日本を代表する総合電機メーカーの出身でした。情報機器の研究開発プロジェトを経験し、ある家電製品の海外プロジェクトを取りまとめました。その後、30代で実績を見込まれ、携帯電話の新規開発プロジェクトマネージャとなりました。
誰もがあこがれるキャリアパスを歩んだ橋木さんでしたが、私が会ったときには、すでに総合電機メーカーを退職しており、あるシステムインテグレータ(SIer)で働いていました。カウンセリングのブースで聞いた橋木さんのプロジェクトマネージャ後の人生は、決して輝かしいものではありませんでした。多くの若い組み込みエンジニアがプロジェクトマネージャを目指す一方で、実際にプロジェクトマネージャになった「その後」に、別の問題があったのです。
橋木さんはプロジェクトマネージャとして成功した数年後、40歳でQAスペシャリストとして、全社横断プロジェクトを任されました。業務の権限とプロジェクトの規模は大きくなりましたが、開発畑を歩んできた橋木さんにとっては、「やりがい」が感じられなかったのかもしれません。
大きなきっかけがあったわけではありませんが、総合電機メーカーの肩書と年収1200万円の待遇を捨て、退職を決意しました。
■「ゴール」を見据えた転職活動を
充電期間の後、橋木さんは前述のSIerに入社しましたが、やはり満足できる仕事をすることができませんでした。そこでキャリアカウンセリングを受け、総合電機メーカーを退職した理由を振り返ることにしたのです。
漠然としたその理由の根元にあるものは何だったのでしょうか。プロジェクトマネージャから、ある意味で「キャリアアップ」し、開発の現場から離れてしまったことで、「やりがい」が感じられなくなったことが大きな理由でした。もともとメーカーでものづくりに携わっていた橋木さんは、やはり「ものづくりがしたい」という自分の気持ちに気付いたのです。
そこで、あるメーカーの情報機器開発の組み込みプロジェクトマネージャ職を紹介しました。中小企業ではありますが、開発の全体を指揮する重要なポジションです。橋木さんも乗り気となり、応募した後は話がトントン拍子に進みました。
結果、そのメーカーで現在の年収から200万円アップのオファーを得ることができました。入社後も、彼にとって何よりも重要な「やりがい」を見いだすことができたようです。
今回の事例は、最終的にはハッピーな転職となりました。しかし、この事例からはプロジェクトマネージャになった後まで含めた、長期のキャリアパスという課題が見えてきます。10年後、20年後までのキャリアを思い描くことができずに、悩んでいる20代、30代の人は多いのではないでしょうか。
3年後、5年後にプロジェクトマネージャを目指すのも1つのキャリアパスです。しかし、ある期間だけをハッピーに過ごすためだけのキャリアパスや転職を考えるのではなく、最終的な「ゴール」を見据えた転職活動を行うことがベストだと思います。職業人生のスタートからゴールまでを見てきた、キャリアアドバイザーに相談するのもよいかもしれません。
筆者プロフィール |
關口洸介(パソナキャリア)●高等専門学校、大学、大学院で機械工学を専攻し、主に機械力学・制御工学を基礎とした振動制御の研究を行う。卒業後、エンジニアの転職サポートを志し、人材紹介会社で人事から求人ニーズをヒアリングする企業担当を経験。自動車、家電、半導体、精密・計測器、化学業界など各メーカーの人事から採用ニーズを直接聞いてきた経験を生かし、現在は転職希望者へのキャリアカウンセリングを担当している。 |
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