第13回 学生時代の専攻を仕事にして、うまくいくとは限らない
大谷麻里子(パソナキャリア)
2008/06/24
したいことをするため、条件のいい仕事に就くためなど、さまざまな理由で人は転職する。組み込み業界も例外ではない。組み込み業界を舞台にした転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教える。 |
組み込み業界に限らず、転職活動のサポートをしていてよく聞くのが、「学生時代の専攻にかかわる仕事をしたい」という希望です。読者の中にも、関連した学歴を持っていて、これから組み込み業界に飛び込みたいという人がいるのではないでしょうか。
■学生時代の専攻にかかわる仕事
学生時代の専攻にかかわりたいと思うのは自然なことです。学生時代は、最も興味のある分野を選ぶことが多いからです。
しかし就職する際の企業選びでは、会社のイメージや年収など、ほかの要因を重視することもあります。その結果、本来の興味とは遠い企業に入社してしまった、という人は少なくないでしょう。企業に入った後も、当然のことながら、自分の希望の職種に配属されるとは限りません。本来の興味と異なる仕事をしている人は多いはずです。
そんななか、組み込みエンジニアとしての活躍を考えるであろう、電気・電子工学やシステム・情報工学などを学生時代に専攻していた人は、ほかの専攻に比べるとチャンスがあります。これらの専攻を武器として転職活動を行うことのできる、未経験でも応募可能な組み込みエンジニアの求人が少なからず存在するからです。
企業の採用では、関係する専攻の出身であることを評価の対象とするだけでなく、応募の必須要件とする企業もあります。また、組み込みエンジニア未経験者の応募要件としてプログラミング経験を求める企業が多いのですが、その際には学生時代の経験も考慮されるケースがあるのです。
■転職しようとするのであれば
では、転職する際に気を付けるべきなのは、どのようなことでしょうか。
いままで経験してきた職種が組み込み開発とあまり関係していないのであれば、早めに行動に移す必要があるかもしれません。まったくの未経験で応募できる求人は限られていますし、職種の転換をした場合には、ずっと組み込みエンジニアとして働いている同年代のライバルに比べると、経験の差が開いてしまうことになるからです。
ちなみに、組み込みエンジニアの間で人気が高い、メーカーへの転職のケースでは、次のようなキャリアステップで成功している人が多いようです。
- 20代のうちに請負開発の組み込みエンジニアとして1社に勤務
- そこで5年程度の経験を積み、その後、転職活動を開始
- 30代前半までにメーカーへ入社
メーカーによっては、転職回数が多いことを好まない場合があるので、最初のキャリアは5年程度、同じ会社で継続して勤務することが多いようです。もちろん、最終的なポイントは年数だけではなく、経験の質や本人のやる気が重要であることはいうまでもありません。しかし、目安にはなるでしょう。
とはいえ、安易な転職は考えものです。あこがれだった組み込みエンジニアになっても、結局は転職前と似たような悩みを抱えて、再び転職を考えるというケースもあります。ここで1つ、ある事例をご紹介します。
■安易な転職は考えもの
新卒でメーカーに就職した田中さん(仮名)。理系なので当然エンジニアとして配属されると思っていましたが、意外にも営業に配属されました。退職という言葉が一瞬、頭をよぎったものの、入社してすぐに辞めるのもよくないな、と思いとどまりました。
それからは、営業のアポイントを取ったり、売り上げ目標が達成できない理由を考えたりする日々。もしエンジニアになったのであれば、こんなことで悩まなくても済むのに、と田中さんは考えるようになりました。学生時代は関連領域を専攻していたし、プログラミングも嫌いではないのだから、エンジニアの方が向いているのではないか、と思い始めたのです。
求人サイトを見てみると、未経験歓迎の組み込みエンジニアの求人が見つかりました。なんとなく名前を知っている企業ということもあり、応募をしてみた田中さん。なんと、あっという間に内定をもらうことができました。書類選考や面接を通じて自分が評価されたと感じた田中さんは、久しぶりの満足感や達成感を得ました。
意気揚々とほかの会社に採用されたことを伝え、メーカーを退職。入社後の研修では、学生時代の勉強が思った以上に役に立ちました。同じタイミングで入社したほかの中途社員が苦労しているのを横目に、すぐに課題を終えることができました。
配属後は、すぐにプロジェクトに参加することに。しかし、当然分からないことが出てきます。周りは忙しそうだし、「こんなことを聞いていいのか?」と考えているうちに、時間は過ぎていきました。疑問を少しずつ残したまま、開発が進みます。進ちょくを確認されても、大丈夫そうです、と答えてしまう田中さん。質問をするかどうか悩んだり、調べたり、ということに時間を費やし、残業が増えていきました。
ある日、状況をOJT担当の先輩に見てもらったところ、「まだ、これしかできていないのか……。分からないところがあったら聞いてくれよ」といわれてしまいました。手伝ってもらったことで納期には間に合いましたが、田中さんの悩みが解消されたわけではありませんでした。
その後も、分からないことがあると、「こんな小さなことを質問すべきなのだろうか」と悩んでしまい、残業が増え続けていきました。営業時代は目標に追われる日々でしたが、エンジニアになってからは納期に追われる日々です。
また、福利厚生をあまり気にしていなかったこともネックとなりました。しばらくすると、メーカー時代に比べ福利厚生が劣っていることが気になってきたのです。さらに、新卒で入社し、手取り足取り研修をしてもらった営業時代に比べると、中途採用の厳しさを感じ始めました。田中さんはやがて、再度の転職を考えるようになりました。
■いままでと違うキャリアを目指したいと考えたら
エンジニアを続けるべきか、営業として再度転職するか迷った田中さんは、人材紹介会社に登録することにしました。キャリアカウンセリングでは、最初の転職の理由、今回転職したいと思った理由、学生時代はどんな仕事に就きたかったのかなど、キャリアについての価値観や将来の目標を話しました。
悩みや考えを言葉にしたことで、不安が取り除かれていきました。もともとなりたかったエンジニアの道に進めたのだから、いまの会社でもうしばらく頑張ろうと決意したのです。もし、前回のように1人で悩み、2度目の転職活動を進めていたら、それ以降も無駄に転職回数を増やし、同じように新しい会社に不満を持っていた可能性があります。
早めに行動に移すべきと述べましたが、考えなしに準備を進めてしまうのは早計です。学生時代に専攻していた領域が楽しかったのは、学生だったから、という理由かもしれません。
学生時代の専攻にかかわった仕事がしたいと考えたら、転職コンサルタントに早めのキャリア相談をするのも1つの手です。転職を考えた理由の整理から、今後の可能性、仕事のイメージなど、新しいフィールドにチャレンジするための手助けになるでしょう。
筆者プロフィール |
大谷麻里子(パソナキャリア)●総合人材サービス会社での営業、アシスタント、企画業務経験を経てパソナキャリアへ入社。以前取得したCDA(キャリアディベロップメントアドバイザー)の資格を生かし、現在は機械・電気・化学メーカーなどに特化した転職希望者を担当。エンジニアを中心に転職相談などのアドバイスを行っている。 |
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