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組込みソフトウェア技術者試験の概要教えます

近森満(社団法人組込みシステム技術協会 ETEC運営事務局、サートプロ 代表取締役社長)
2007/4/18

組込み技術者試験制度(ETEC)を創設

 社団法人組込みシステム技術協会(JASA)は2006年6月1日、T-Engineフォーラム、社団法人トロン協会と組み込み技術者向けの試験創設で合意したことを発表しました。そして同年11月より開始したのが、エントリ向けの「組込みソフトウェア技術者試験クラス2試験」(以下クラス2試験)です。より上位のミドルレベル向けの「組込みソフトウェア技術者試験クラス1試験」(以下クラス1試験)は2007年中のリリースを目指し準備中です。

 本試験は、ソフトウェアエンジニア(ETSSの組み込みスキル標準のキャリア基準におけるソフトウェアエンジニア)だけでなく、ソフトウェアエンジニアを経由して、将来ほかの職種を目指すエンジニアに、ぜひ受けてほしいと考えています。組み込みソフトウェアの基本技術から出題されるため、サポートエンジニアやテストエンジニアにも利用していただけたらと思います(図2)。

図2 ETSSのうちキャリア基準のフレームワーク図。試験を受験してほしいのは、この図のうちソフトウェアエンジニアを目指す人、そこからほかの職種への転換を考えている人のほか、サポートエンジニアやテストエンジニアなど

クラス2試験の概要は

 ここでは、すでに開始されたクラス2試験について見ていきましょう。クラス2試験は、ETSSキャリア基準のエントリレベルのソフトウェアエンジニアに必要な技術・知識の有無を確認するための試験です。

 試験問題は、組み込みシステムの開発で必要とされる組み込みリテラシから出題されます。組み込みリテラシとは、当該技術を適切に利用するに当たり、その目的や効果、機能、特徴を的確に理解していることで、「知識」と「知識の応用能力」の2つから構成されます。クラス2では、このうち知識について出題されます。例えば「RS232Cは〜であり、〜の特長を有する」というような問題です。

 試験結果は、合否ではなく点数(スコア)とグレードで出されます。そのため、個人の学習の到達度判定、技術者評価の一部などに幅広く利用・活用ができます。

 このスコアによる評価は、IT試験の分野としては初めての試みだと思います。技術者にスキルの向上心を持ってもらうには、スコアにより強み・弱みを理解し、より高みを目指してもらいたいという狙いがあるのです。

幅広い出題範囲

 クラス2試験の出題範囲を、もう少し具体的に紹介しましょう。ETSSのキャリア基準のソフトウェアエンジニアのスキルカテゴリである技術要素、開発技術、管理技術の分野から出題されています。第1階層と第2階層はETSSで定義された内容をそのまま適用し、第3階層とスキル項目はクラス2試験の実施に当たり、JASAが独自に分類したものです。つまり業界共通の組み込みソフトウェア技術者の人材モデルを定義し、その定義した人材モデルに基づく試験を策定したわけです。

 組み込み業界内のソフトウェアエンジニアに共通の知識を問う試験ですから、組み込みソフトウェア開発に必要なハードウェアの知識のほか、カーネル、ミドルウェアなどのソフトウェアプラットフォームに関する出題が多い傾向にあります(表1〜表3)。

第1階層
第2階層
第3階層
第4階層
プラットフォーム プロセッサ プロセッサコア MPU、バス、レジスタセット、RISC、CISC、DSP、GPU、MMU、省電力制御、パイプライン、スーパースカラなど
プロセッサ周辺 割り込み、タイマ/カウンタ、DMA、WDT、キャッシュなど
メモリ ROM、RAM、Flashメモリ、メモリインタリーブ、デュアルポートメモリなど
基本ソフトウェア ブート ROM化、ブートローディング、スタートアップルーチンなど
カーネル タスク、共有ルーチン、システムコールサービス、同期、排他制御、デッドロックなど
支援機能 デバッグ機能 ICE、JTAG、ソフトデバッガ、オシロスコープ、ロジアナ、ログ収集/解析など
表1 技術要素の出題範囲

第1階層
第2階層
第3階層
スキル項目
ソフトウェア詳細設計 ソフトウェアの詳細設計 設計手法 分割、モジュール化、隠蔽化、フローチャート、タイミングチャート、UML、状態遷移図、設計ツールなど
信頼性設計、実時間設計 QoS、誤り検出など
ソフトウェアの詳細設計のレビュー レビュー レビュー手法など
ソフトウェアコード作成とテスト プログラムの作成とプログラムテスト項目の抽出 プログラミング C言語に関すること、コーディング規約、MISRA-C、プログラミング技術、チューニング技術、クロス開発、オブジェクトモジュール、静的解析ツール、カバレッジ、同値分割など
コードレビューとプログラムテスト項目のデザインレビュー レビュー レビュー手法など
プログラムテストの実施 プログラムテスト カバレッジ、同値分割、ホワイトボックステスト、ドライバ、スタブ、自動化テスト、テストツールなど
ソフトウェア結合 ソフトウェア結合テスト仕様の設計と実施
――
テスト環境設計/構築、テストツールの選定、直交表、カバレッジ、自動化テストなど
表2 開発技術の出題範囲

第1階層
第2階層
第3階層
スキル項目
プロジェクトマネジメント 品質マネジメント 計測 品質特性、ソフトウェアメトリクスなど
開発プロセスマネジメント 構成管理・変更管理 目的 構成管理の目的など
表3 管理技術の出題範囲

 クラス2試験はCBT(Computer Based Testing)によって実施されています。受験者は毎日、全国150カ所以上に用意された試験会場で受験でき、コンピュータから出題される問題を、マウスやキーボードを使って解答します。試験結果は試験終了後、その場でスコアレポート(結果通知書)によって確認することができ、後日JASAからスコアの証明書が発行されます。

 試験結果の表示に合否判定ではなくスコア方式を採用したのは、組み込みソフトウェア分野においてさまざまな技術力評価の尺度として使えるようにすることを意図しました。この技術力評価点は、120個の問題の正答問題数そのものではなく、各問題の難易度により正答問題数別に受験者の能力値を分析して、最終的なスコアを算出しているのです。スコアの最高は800点です。またグレードのA、B、Cは、絶対評価の総合点をクラス分けしたものです。

クラス2試験スコアの意味とその活用

 JASAでは試験の使い方を示しています。この評価は問題を作成したJASAのETEC試験委員会としての意見ですので、今後の学習の参考にしていただきたいと思っています。

図3 試験結果のスコアは800点を満点とし、それを上限として3つのグレードでクラス分けされる

 また、出題範囲の3つの分野(技術要素、開発技術、管理技術)の得点範囲もA、B、Cのクラスに分類して示しています。得意・不得意分野をなくして、バランスの取れた知識を獲得するための勉強の参考にしてください。

 各分野評価の意味は、表のとおりです。

ランク
意味
A
当該分野のエントリレベルに要求される組込み技術知識を充分に保有しています
B
当該分野のエントリレベルに要求される組込み技術知識を保有していますが、まだ不足する部分も見受けられます
C
当該分野のエントリレベルに要求される組込み技術知識が不充分であると考えられますので更なる知識の習得が必要です
表4 分野ごとに、このような3段階で評価される(表記は実際のものに準拠しています)

 JASAから受験者に発行される証明書には、スコアと分野別グレード(技術要素、開発技術、管理技術のそれぞれにA、B、Cのランク付け)、および総合グレードが記載されています。これらの結果の活用方法としては、下記に列挙したようなことが期待されます。

技術者へのメリット
・技術者・開発者の知識レベルを自己評価できる。
・学習の効果を確認できる。
・公平公正な評価として外部組織などに提示できる。
・証明取得による技術者マインドと自信。
・スコア証明書の交付
・ロゴマークの使用(名刺など)

企業へのメリット
・企業の人的資産のアピール。
・公的発注の指標となる。
・技術者採用の資料となる。
・共通指標によるチーム編成の資料となる。
・社内評価制度の補完資料となる。
・技術者研修の成果として使う。
・技術スキルの到達レベルの目標を示す資料となる。
・上下間のコミュニケーションギャップ解消。

 


今回のインデックス
組込みソフトウェア技術者試験の概要教えます (1ページ)
組込みソフトウェア技術者試験の概要教えます (2ページ)

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