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コラム:自分戦略を考えるヒント(32)
「自分とのミーティング」、その議題とは?

堀内浩二
2006/8/29

「自分とのミーティング」

 こんにちは、堀内浩二です。前回の記事「できる人ほど忙しい、この悪循環を解消する」で特に反響があったのは、「『自分とのミーティング』をスケジュール」という言葉でした。

 上記のようなことを「考える」時間をしっかり取りましょう。頻度は、1〜3カ月に一度くらいで十分だと思います。

 スケジューラに「自分とのミーティング」を書き入れる人がいますが、これは良いアイデアですね。

 企業でも、毎月ないし四半期に一度、現在の業績をチェックして、今後の方向性を考えます。いわゆる経営戦略会議です。わたしが考えているのは、それと似たようなイメージです。ただ、企業では「成果」が重要なのに対し、個人では「意味」がより重要だと考えています。目に見える成果よりも、この1カ月、これからの1カ月の意味を重視すべきということです。

「自分とのミーティング」のポイント

 それを踏まえ、具体的に、「自分とのミーティング」で何を考えるべきか。最低限2つの議題を網羅するとよいと思います。それは「ビジョニング」と「次の一歩」。

 企業の経営者は、思い切り遠く(ビジョンや長期計画)と思い切り近く(日々の業務)に目を配れといいます。人生の経営にも通じる心得でしょう。近いところは日々見ていますので、まずはビジョニングから。

(1)ビジョニング

 ビジョニング(Visioning)とは、文字どおり、将来のイメージを描くこと。経営者は会社の将来を、投資家は業界の将来を、それぞれ描き、それに向けて動いています。個人も同じです。「先を読み、そこで自分はこうありたいと思うイメージを描く」ことがビジョニングです。

 少々照れくさく感じる作業かもしれません。しかし、ビジョニングは非常に応用の利くスキルです。あなたが、与えられたタスクをこなせばよい立場から、プロジェクトマネージャのようにある成果に対する責任を負う立場になったとしましょう。刻々と変化する状況に機敏に対応できるマネージャは、「そうなるかもしれない」というケーススタディと、「そうなった際の判断基準はこれだ」というポリシー作りができています。これらはいずれも、将来のイメージを描くことなしにはできない作業です。

 いわゆる自己啓発や目標達成をテーマにした本には、ほぼ必ずビジョニングについて(ビジョニングという言葉ではありませんが)書かれています。写真を集めたり、絵に描いたり、手帳に書いたりと、ビジョニングにはさまざまなバリエーションがあります。しかしその目的はただ1つ、ビジョンを「具体的に」イメージすることに尽きます。

 これは非常に個人的な作業なので、決まり切った方法はありません。ここでは1つ、JOB@ITのサービス「@ITジョブエージェント」を使った簡単な方法をご紹介します。

自分のプロフィールを登録しよう

 「@ITジョブエージェント」には、自分のプロフィールを登録しておけます。本来は転職をお考えの方向けですが、ただプロフィールや志望を書き、非公開としておくことも可能です。

 このプロフィール欄は充実しており、自分の「これまで」と「これから」を整理できるシートとして便利に使えます。以前にも本連載の「転職で重視される『キャリアビジョン』の創り方」で紹介したことがあります。詳細はそちらを読んでいただくとして、「将来のビジョン」欄に、とにかく何か書いてみましょう。

 下記は、実際にわたしが相談を受けたケースです。ビジョンの欄には次のような文章がありました。

 「オープンソースに強みを持った企業で、プリセールス、システム構築、運用・保守業務をやってみたい。顧客のニーズに的確・迅速に応えたい」

 他人がビジョンだけを読んで、批評することはできません。書いた人が、その言葉にどれだけ豊かなイメージを込めたか、文章だけからでは分からないからです。

 ただし、もし書いた本人が、「雑誌で読んだ言葉の切り張りのようだ」と感じたとしたら、それは明らかに「まだ具体的にイメージできていない」状態です。

 そしてわたしの経験からいえば、書いた当初はほぼ間違いなく「雑誌の切り張り状態」だと思います。そういうときは、どんどん質問を浴びせていきます。質問が思いつかない方は、Devil’s Advocate(悪魔の代弁者)という手法を覚えておくとよいでしょう。意図的に批判的な立場から反論する、反論を目的とした反論をするということです。「天の邪鬼メソッド」といってもいいでしょう。

天の邪鬼メソッドのやり方

 例えば、

  • なぜ「オープンソース」なのか。顧客にとって、オープンソースをベースとした情報システムであるメリットは何か。どれも十分な理由を示しつつ、Yesと答えられるはず。
  • 「オープンソースに強みを持った企業」とは、具体的にはどんな企業なのか、どう定義するか。例を挙げられるか。
  • 「プリセールスから保守まで」をすべて自分でこなすのか、それとも単に経験してみたいということなのか、もし1つだけ選ぶとしたらどの仕事か。
  • 「顧客のニーズ」とは何か。システムに対してニーズを明確に持った立派な顧客が本当にいるのか。もし顧客がニーズを自分で表現できないとしたら、どうすればよいのか。

などなど。考えついた回答に対しても、また意地悪な質問をぶつけてみましょう。ミーティングの時間内に回答できなくても構いません。問いを立てて考えてみることが重要です。

 そういう作業は問題意識をはっきりさせます。問題意識がはっきりすると、いつもと同じようにWebサイトのチェックをしていても、目に留まる情報が違ってきます。自分の探している答えに近い情報が、目に飛び込んでくるようになってきます。

 もちろん手元の紙に書いても構いません。今回「@ITジョブエージェント」の流用をご紹介した理由は4つあります。まず、Webサイト上にあってなくならないこと。2つ目は、充実したプロフィール/希望欄。考える材料になります。3つ目は、悩んだら「転職アドバイスメール」という無料相談が使えること(ただし、テーマは「転職」に限られてしまいます。わたしもアドバイザーの1人です。ちなみに上記のビジョンの例は、ご本人の許可を得て一部表記を変え転載したものです)。4つ目は、本気で転職を考えることになったときにそのまま使えること。

(2)「次の一歩」

 将来をあれこれと考えていると、忘れてしまいがちなことがあります。それは、「いま」を積み重ねた先にしか将来はないということ。これは当たり前のようですが、意識し続けるのは難しいものです。

 例えば、将来のビジョン欄に「ネットワークエンジニア」と書いた方に、突然ネットワークエンジニアのポジションが打診されたとしましょう。

 「明日から働けますか?」
  「いえ、まだ準備ができていないので……」

 半年後。

 「お久しぶりです。準備はできましたか?」
  「ちょっと仕事が忙しかったもので……」

 もし半年間で準備がゼロならば、何年たってもゼロでしょう。一人前のネットワークエンジニアになるには10年かかるといったことは、たとえ真実でも、いい訳です。ビジョンにつながる何かを、ほんの少しでも、日々してみなければ、ビジョンの遠さも分かりません。ビジョニングは、どんな小さなことでも、次の一歩とセットで考えておくべきです。

次の一歩を考えるためには

 その次の一歩を考えるための心得は2つ。

(1)「他人のせいにしない」「環境のせいにしない」

 うまくいかないのは、客観的に分析すれば、自分のせいではないかもしれません。他人(上司など)のせいかもしれませんし、職場の環境(残業が多いなど)のせいかもしれません。

 しかし、次の一歩を、自分が働きかけられないものに依存させてしまうと、「一歩」が踏み出せなくなってしまいます。例えば「会社が残業を減らしてくれたら」これをやろう、というのは次の一歩ではないということです。他者のために自分の歩みを止めておけるほど、人生は長くないはず。自分の行動、例えば「残業を減らす(べく会社に掛け合う)」「勤務中にできる『一歩』を考える」を考えてみましょう。

(2)すぐできる、具体的な一歩を考える

 「次の一歩」にふさわしい、小さなことを考えましょう。例えば「会話力を高める」ではなく、「指示を受けたら、承諾する前に質問してみる。何でもいいから必ず!」という感じです。

 ちょっとでも試してみれば、例えば、

「質問するためにはそれなりの準備がいるな」
「質問をしたら嫌な顔をされた。聞き方がまずかったかな?」

といった学びを得ることができると思います。

 なお、ビジョンを思いつかないという方も決して少なくありません。それでもやはり、何か次の一歩は考えてみた方がよいと思います。具体的な行動が発見を促してくれますし、「こっちの道じゃない」という形であれ、ビジョンづくりの材料が得られるからです。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。


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