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ストレスと上手に付き合うために
ITエンジニアにも重要な心の健康

第34回 「うつ」にならない、繰り返さない

ピースマインド
カウンセラー 田中貴世
2007/1/6

エンジニアにとっても人ごとではないのが心の健康だ。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。

「もうあんなつらい思いはしたくない」

 カウンセリングルームを初めて訪れたQさん。その理由を次のように話してくれました。

 「昨年の4月、異動した部署の上司になじむことができずに体調を崩し、心療内科で『うつ病』と診断されました。会社に相談し、通勤しながら投薬、通院などで治療することにしました。その後、希望がかない職場の異動もできたので、通院もやめてしまいました。うつは治ったものと思っていたのですが、新しいプロジェクトのメンバーになったことがきっかけで、うつになったときと似た症状を自覚しています。またうつ病になるのではないかと不安で、カウンセリングを受けようと思いました。もう、あのときのようなつらい状況になるのは嫌なのです」

 うつ病は10年ほど前に比べ、厚生労働省の取り組みや新聞、雑誌、テレビ、インターネットなどメディアでの情報提供もあり、社会的にも認知されるようになりました。結果、早期に自主的に、または職場の上司や家族の勧めで、医療機関やカウンセリングといったサポートを受ける方が増えてきていると私は感じています。特に昨年の傾向として実感しているのは、幾度か「うつ状態」を体験した方が、「もう繰り返したくない」との思いからカウンセリングルームを訪れるケースが増えているということです。

うつ病にはタイプがある

 うつ病にはいくつかのタイプがあることを、あなたは知っているでしょうか。普通うつ病といわれるのは「定型うつ病」「メランコリー型うつ病」と呼ばれるものです。気分の落ち込み、意欲・食欲・集中力の低下、不眠などの症状があり、何があっても元気が出ない状態になります。これに対し「非定型うつ病」と呼ばれるものは、何か楽しいことがあると気分が良くなるといった、出来事に反応する「気分の反応性」があります。

 冒頭のQさんは非定型うつ病でした。ここで定型うつ病と非定型うつ病の症状の違いを紹介しようと思います。

症状の違い 定型うつ病 非定型うつ病
気分 好きなことに対してもやる気が起きず、いつも元気がない。出来事の内容を問わず気力がわかず、積極的になれない。それまで興味があったことにも喜びが感じられない 憂うつな気分だが、好きなことに対しては元気が出る。気分の落ち込みや気力・集中力の低下などはあるものの、出来事に反応して気分が明るくなることもある
時間帯 朝から午前中にかけて調子が悪い。朝起きたときに気分の落ち込みがあり、何もやる気になれない。夕方になると少し気が楽になる 夕方から夜にかけて調子が悪い。午前中から昼は比較的穏やかに過ごせるものの、夕方から夜に不安やイライラが高まって具合が悪くなる。帰宅した玄関で涙が流れるといったように感情のコントロールができず、戸惑うこともある
睡眠 寝つきが悪く、早朝目覚める不眠傾向。入眠が困難で夜中にも目覚めることがあり、早朝覚醒により慢性の睡眠不足になりがち いくら寝ても眠い過眠傾向。睡眠時間を長くとっても昼間に眠気を感じ、寝足りない感じがする
食欲 食欲が落ち、体重の減少が起こる。食欲、性欲といった基本的欲求が低下するため、体重が減る 過食傾向で体重の増加が起こる。食べることで気持ちを紛らわせる。甘いものだけ無性に食べたくなるといった傾向が見られ、体重の増加とともに、手足に鉛がついたような重たい感じが起こる
集中力 頭の回転が鈍る。頭がボーっとして集中力が鈍る。小さなミスが増えることで能力の低下を感じ、自信喪失が起こる イライラして落ち着かない。イライラ気分に支配され、集中力の散漫が起こる。対人関係においても自分の感情の制御がきかず、相手に感情をぶつけてしまいトラブルを起こすことがある
そのほかの特徴 きちょうめんでまじめ、完ぺき主義な人ほどなりやすいという傾向がある 他人からの評価を気にする傾向が見られる。他人からどう見られているか不安がある。怒りやイライラ、戸惑いといった他者の感情にも敏感で、他者の感情、表情を自分の中に取り込んで、混乱している様子も見受けられる

 もしあなたが「非定型うつ病」の項目に当てはまる部分を自分の中に見つけたら、医療的サポートを受けることを検討してみましょう。そのうえで生活のリズムを整え、目的を持って生活することが大切です。

 Qさんはカウンセリングの中で、「仕事や家庭環境の変化など、新しいことに遭遇すると将来への不安(予期不安)が起こる」ということを自覚することができました。非定型うつ病の対処方法を応用し、小さい目標を立てて着実に実行し、自信をつけていくことに取り組みました。結果、快方に向かっています。

ある特定の季節にうつ病になる?

 うつ病を繰り返し発症してしまうRさん。サマースポーツで日焼けした健康的な方です。お話を伺うと、4年前にうつ病で長期休職して以来、毎年11月になると体調を崩し、そのまま頑張るのですが2月になると短期間ながら休職してしまうというパターンを繰り返していました。いくつもの治療方法の経験もあり、その都度良くなっているのに、「どうして繰り返すのか?」「今年こそは繰り返したくない」との思いから、カウンセリングを受けに来たとのことでした。

 私たちの気分や感情の起伏に、病的なほど大きい変化が起こる障害を「感情障害」といいます。中でもある季節に決まって起こり、また決まった時期になると自然に治ってしまうものを「季節性感情障害」といい、そのうちうつ病になるものを「季節性うつ病」といいます。

 季節性うつ病の精神的症状は、定型うつ病と比べて、悲しい、つらいなどの悲哀感があまりありません。行動面だけが無気力によって抑制されるタイプが多く見られます。食欲も比較的旺盛で、特にご飯やめん類といった炭水化物が欲しくなる「炭水化物飢餓」や、甘いものに対する執着が起こりやすくなります。また、「過眠症」(一日横になって寝ていることが多い)が起こるといわれています。

 タイプは3つ。春に限ってうつ病になる『春型』、夏になる『夏型』、秋から冬にかけてなる『冬季うつ病』。圧倒的に多いのが、木枯らしが吹き始めるころから憂うつになり、体が不調になる冬季うつ病です。冬季うつ病には「光治療」と呼ばれる治療法があるそうです。医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。

うつ病を繰り返さないために

 Rさんは、自分の仕事に対する認識を変化させてきたことで、4年前に比べてずいぶん生きやすくなっていることに気付きました。それはうつの体験を繰り返したことによって手に入れた自分だったのです。そのうえでカウンセリングを通して、うつを繰り返さないための対処方法を話し合っていきました。

  1. 汗をかこう! 汗をかいているときは幸せを感じることができる。だから冬でも汗をかける趣味を見つけよう。
  2. 会社以外の人と交流しよう! 汗をかける趣味を通して、他者とほどほどに触れ合おう。
  3. 家族を巻き込もう! 子どもやパートナーと一緒に楽しもう。
  4. 「またうつになったら」と将来を不安に思わず、そのときになって考えればよいと思おう。

 Rさんの見つけた方法が、あなたにも参考になりますか?

 風邪も、肺炎になる前の微熱のうちに早期自覚、早期治療。心の不調でも早期に自分の変化に気付き、早めに医療機関やカウンセリングを活用してみてください。

予防のためのヒント
1.自分が心地よいのはどのようなコンディションのときかを知っておきましょう。

2.それを基準にして、現在の気力やストレス耐性がグッドコンディションからどれくらいずれているかを計ってみましょう。

3.大きく心のコンディションを崩したことのある人は、その状況の3歩手前を思い出してみてください。「あのころは、おいしいものをおいしいと感じなかったな」といった自分の尺度を持ちましょう。そしてその状況に近づいていると感じたら、それ以上進まないように方法を考えてみることです。「このまま寒さに震えていたら風邪を引いてしまうだろうな」と分かっているのにコートを着ないのは、自分のために良い方法とはいえないですよね。


参考文献『きょうの健康テキスト』(NHK出版刊) 1993年11月号

事例については個人のプライバシー保護に配慮し、いくつかの事例から特徴的な部分を取り出しブレンドした形で掲載しています

筆者プロフィール●ピースマインド 田中貴世
シニア産業カウンセラー、 日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、 日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士。 子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインドでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。なお、ピースマインドが提供する「ストレスCheck」を@IT自分戦略研究所で試してみることもできる。

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