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特集:ITエンジニア独立入門

続・ITエンジニア、その独立の軌跡(後編)

第4回 独立後の悩み「職人か、経営者か」


中越智哉(ナレッジエックス)
2009/7/30

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独立したエンジニアの3年間の軌跡をたどる。前編では、事業計画の進ちょく、会社員時代に身に付けておくべきスキルを振り返った。後編では、経営者としてのあり方や経営方針にまつわる悩み、不況の風をはね返す施策をお伝えする。

 連載「ITエンジニア、その独立の軌跡」から3年弱が経過しました。その間、設立当初にはあまり考えていなかった出来事がいくつかありました。後半では、そういった予想外のエピソードについて、紹介いたします。

職人か、経営者か

 「職人がいいのか、経営者がいいのか」

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 以前、創業支援施設に入居していた間に、インキュベーションマネージャ(経営や事業内容について指導や助言をしてくれる専門家)からずっといわれ続けていた言葉です。

 独立していわゆる「フリーランス」としてやっていくと決意した人は、おそらく前者の意向が強いと思います。わたしの場合は、法人を設立したので、本来ならば後者の意向が強くなければいけないところでしょう。とはいえ、弊社はまだ1人なので、限りなくフリーランスに近い状態であるといえます。前編で紹介した事業計画書にも、「設立後数年のうちに人員を増やす」と書いたわけですが、本当に突き詰めて考えたら、どうなのか……。

 1人で仕事をこなしていくスタイルであれば、同じビジネスを続けていても売り上げが大きく増えることはなく、売上額は1人でこなせるキャパシティで上限がほぼ決まってきてしまいます。一方で、うまく仕事さえもらえていれば、1人やっていけます。もちろん、それなりの売り上げを上げること自体簡単なことではないのですが、給料を払う対象は自分自身なので、売り上げが多少落ちたとしても自分さえ我慢すれば済む、という意味で調整が利きやすいのです。しかも、当たり前ですが自分がプロフィットに直結する作業(いわゆる「現場仕事」的な作業)をしなければ売り上げになりませんので、そういった仕事に従事する割合が高くなります。その仕事が好きで独立を選んだ場合は、大きくやりがいを感じられると思います。

 現実的に考えると、そんな状態の自分の元に仲間が増えたとして、自分は好きな現場仕事から離れて経営に集中することが本当にできるのか。実は、現場仕事に没入している自分から離れたくない(現場仕事をずっと続けたい)という気持ちが強くて、人を増やすことから逃げていないか。ということはいつも自分の中で葛藤があるのです。

 自分は現場仕事のスキルを極めたとも思っていませんし、「やりきった感」みたいなものも全然感じていない状態です。それがフリーランス的なスタイルに対する未練になっているのかもしれません。

 そんなあるとき、たまたま同年代で、社員を10人程度抱えていらっしゃるベンチャー企業の社長さんとお話しする機会がありました。その社長さんは、自ら自社サービスの売り込みにやってきて、非常に詳しい部分まで説明してくれました。ひとしきり仕事の話が終わった後、ちょっと興味があって上のような自分の考えを話し、その社長さんがどう思っているか聞いてみました。

 その社長さんから発せられた言葉は「プレイング・マネージャ」という単語でした。その社長さんは技術がいまの仕事以上に(個人的に)好きな方だそうで、経営は経営でやりがいがあるものの、現場仕事をまったくしないというのも考えにくいとのことでした。ご存じのとおり、プレイング・マネージャは、選手兼監督というような意味の単語です。最近ですと、プロ野球で元ヤクルトの古田敦也氏が、師匠の楽天イーグルス 野村克也監督もかつて経験した選手兼監督という立場をされていたことがありましたが、最後の方は選手というより、監督としてベンチにいる時間がほとんどだったような気がします。それだけ、二足のわらじというのは難しいことなのだろうと思います。ですが、せっかく一念発起して独立、会社をつくったわけですから、現場だけ、経営だけ、と2極に固定した考えではなく、プレイング・マネージャ志向でチャレンジしてみるのも、うまくいけば大きな充足感を得られるのかな、と思い始めています。もちろん、困難も大きいと思いますが。

人を雇うにもお金がかかる

 前編でも書きましたが、弊社は計画のうえでは人員を増やすつもりでいたのですが、残念ながら現在も1人でやっています。仮に、人員を増やしたいと思っても、何もせずに入社希望者が集まってくるほど、弊社は名の知れた会社ではなく、普通の方から見れば、単なる一零細企業です。ですから、Webページで募集をかけたくらいでは、入社希望者が集まってくることは恐らく期待できないでしょう。

 では有名な会社は何もしていないのかといえば、そんなことはなく、有名な会社であっても、優秀な人材を集めるためにはかなりの投資をしているはずなのです。少し考えれば、そんなことは分かるはずなのですが、わたしは設立当初、そこまで深く考えていなかったので、人材を募るための予算などはほとんど考えていませんでした。

 しかし、採用についていろいろ情報を集めてみると、それなりに募集に来るような求人広告を打つには、ウン十万円、場合によっては何百万円かの投資をしなければいけないそうなのです。しかも、それを打ったからといって、本当にいい人材から応募が来るとは限らず、いわゆる「空振り」に終わることもけっこうあるのだとか……。正直なところ、いまの弊社にそれだけの予算を充てる余力はとてもない、と思えてしまいます。

 人を雇うにもお金がかかると書きましたが、それは働いていただいた対価の給与の話だけではなくて、求人企業としての自社を知ってもらうためにもお金がかかるということなのです。

 もちろん、広告予算が投じられないとしても、知人の紹介やもともとよく知る人が仲間になってくれれば、ある程度実力も把握できていて確実性があります。安上がり、といっては失礼ですが、効果が出るかどうか不確定な広告予算を使う必要はないわけです。

 会社として3年もやっていれば、そういう人の1人や2人に知り合うチャンスがあったのではないか? と思われそうですが、わたしの場合はあまりそういったチャンスには恵まれませんでした。いえ、素晴らしい実力を持っていて、わたしがぜひ一緒に仕事をしたいと思う方や、わたしの仕事のやり方に共感していただける方はいらっしゃいました。ですが、そういった方はたいてい、パートナーシップの関係で取引している会社の方(いわゆる同業者)であることがほとんどで、なかなか、そういった方をお誘いするというわけにもいきませんでした。

零細企業にやはり不景気の影響が

 おかげさまで、前回の連載の後、設立第1期、第2期は黒字決算で終わることができました。昨年の第3期は、ご存じのとおり、全世界的な金融危機が起こり、弊社を取り巻く環境にも大きな影響がありました。いろいろな企業が、何とはなしに、というわけではないのでしょうが、とにかく、出血を止めるべく、投資や経費の削減をし始めるようになりました。弊社のサービスは企業の社員教育に関連するものなのですが、新人研修をはじめとする教育予算は、費用の節減という意味では真っ先にやり玉に挙がりそうなカテゴリです。もちろん、教育に費用を投じてさらに生産性を向上させたり、受注できる仕事の幅を広げたりということで、中長期的な視点で効果を得ることはできるわけです。しかしながら、取りあえず現状維持でもしばらくは同じ状態で仕事を続けるということになり、社員教育はどうしても後回しになりやすい性質があることは否めないでしょう。

 やはりそんな影響があったのか、弊社に委託される予定だったある研修関係の業務が、開催1カ月前になってキャンセルされるという事態が起きました。しかも、教材の開発なども含めての受注だったので、売上額はかなりの大きさでした。通期売り上げ予算の十数%の金額です。営業力の乏しい弊社にしてみれば、1カ月前の発注キャンセルは事実上、翌月の仕事がなくなることとほぼ同義でした。1カ月前になってまとまった規模の教育を急に企画する顧客企業があるとは思えません。自社コースの開催を企画しても、1カ月に満たない募集期間で、集客を見込むのは難しく、会場費用などのリスク要因もあり踏み切れませんでした。

 親しくさせていただいていた別の取引先から、教育とは違う業務をさせていただいたり、発注元からも別の教育案件を回していただいたりと気を使っていただき、何とか傷口を小さくすることはできたのですが、全体の予算的に、不足はとても埋めきれない状態でした。このときすでに10月にさしかかっていたので、決算までは3カ月しかない状況です。この年は自社研修の開催などで経費がかさんでいたこともあり、予算どおりに売り上げが出ても、若干の黒字が出るかどうかという状態でした。今期は赤字もやむなしか……むしろ、赤字幅をどれだけ少なくできるか、という勝負になりそうな雲行きになってきたのです。

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