
第2回 クラウドがSIerとエンジニアに要求する変化
新野淳一(Publickey)
2009/12/17
| 「クラウド」はバズワードを超え、現実のビジネスを動かすものとしてその存在感を増し始めている。SIerにとっても、クラウドは人ごととはいえない。2010年、本格的にビジネスとして動き始めるであろうクラウドは、SIerや、そこで働くエンジニアにどのような影響を与えるのか。 |
かつてメインフレームからオープンシステムへとITのシステム基盤が大きく変化を遂げたように、いまオープンシステムからクラウドへと、システム基盤の主流には再び大きな変化が訪れようとしています。そしてこの変化は、システムインテグレータ(SIer)のビジネスも大きく変えようとしています。
クラウドの登場は、日本のIT産業のボリュームゾーンともいえるSIerにどのような影響を与えるのでしょうか。そしてSIerの中で働く個々のエンジニアはどう対応すべきなのでしょうか。
特集:SIerの未来、エンジニアの未来 バックナンバー
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■ クラウドによってSIerの案件単価が変わる
SIerの立場からクラウドをひとことで表現するとすれば、「ハードウェアの調達からシステム運用までをネットの向こう側で提供してくれるサービス」といえるでしょう。
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気になる離職・転職率、 IT企業では「0.5%未満」が最多 IT企業の5社に1社が「転職・離職率」0.5%未満。80%以上の企業が「離職・転職率は10%未満」と回答している |
これによって引き起こされる最初の影響は「案件単価の下落」です。クラウドに対応した案件では、いままでハードウェアとソフトウェアのセットで提案していた金額から、ハードウェアおよびその設置や導入にかかる費用がごっそりと抜け落ちることになります。場合によっては案件当たりの価格が大きく下落するでしょう。
セールスフォース・ドットコムが提供するクラウドにいち早く対応し、クラウド上で顧客向けのシステム構築を行っているあるSIerの取締役にインタビューをしたことがあります。その企業では、「クラウド案件の場合には提案金額がそれまでより2けたも下がることがある」と答えてくれました。ハードウェア込みで数億円という案件が、クラウドに対応させることで数百万円の案件になったというのです。
ここまで大きく下落しなくとも、クラウドの採用は案件の価格を確実に下げることにつながるでしょう。
では、案件の価格下落を防ぐために、SIerはクラウド対応の案件を提案しなければいいのでしょうか? 残念ながらそうやって価格を維持することは不可能でしょう。なぜなら、あなたの競合となる別のSIerがクラウド対応の価格の安い提案をエンドユーザーにしているかもしれないからです。
すべてのSIerにとって、クラウドの存在が無視できないものになることは間違いありません。
■ 開発期間にも大きな変化
クラウドの影響は価格とともに「システムの開発期間」にも影響を与えそうです。
今年の7月から始まったエコポイント制度。このポイントを申請するためのWebサイトはクラウド上に構築されました。全国民が使用する可能性のある規模のWebサイトで、しかも仕様策定から行わなければならなかったにもかかわらず、開発期間は5月29日の補正予算成立から7月1日のサイトオープンまで、わずか1カ月しかありませんでした。
このシステムはなぜ、わずか1カ月で完成させることができたのでしょう。それは、クラウドが提供するスケーラビリティと、ソフトウェア開発プラットフォームとしての機能(Platform as a Service:PaaS機能)などをうまく活用したからだといわれています。
クラウドは、申し込んだ時点ですぐに提供されているサービスが使えます。SIerにとっては、それを素材にして素早くカスタマイズしたり、組み合わせたり、プログラミングすることで、短納期を実現することが可能です。開発期間や開発スタイルは、これまでと比較して大幅に変化することが予想されます。
■ 開発にかかるコストの透明度が高まる
昨年末、筆者が東証コンピュータシステムの松倉哲代表取締役社長に、クラウドがIT業界に引き起こす変化について取材した際、松倉氏は次のように話してくれました。
「いまはハードウェア込みの値段で『システム一式』なんていうあいまいな値段を付けて販売するパターンがIT業界には残っていますが、クラウドが一般的になれば適正なソフトウェアの値段で勝負するようになるのではないかと思います。純粋にソフトウェアが提供するサービスに従った価格体系です。
これはソフトウェア業界や、そこで働くエンジニアにとっていいことだと思います」
ソフト開発未来会議
リレー インタビュー:クラウド コンピューディングの光と影
vol.2 「クラウドを背景にした新ビジネスが生まれる」
クラウドによって案件の単価も、そして納期も変化することを紹介してきましたが、さらにクラウドによって「価格の透明性」が向上することを松倉氏は指摘しています。
クラウドが提供するサービスとその価格は、誰もが参照できるオープンな情報です。すると、クラウドを基盤にしたソリューションの値段を顧客に提示した場合、顧客はそこから開発にかかるコストを推測することが容易になります。
つまり、SIerはこれから、いままでよりずっとコスト透明度の高い中で競争を行うことになるのです。そしてそれは、開発力の高い企業やエンジニアにとって有利な状況となります。
コスト、納期、そして価格の透明化。クラウドがSIerにもたらす変化とは、いままで以上にソフトウェアの開発力で勝負できるようになる、ということだといえます。
特集:SIerの未来、エンジニアの未来 バックナンバー
- 第1回 2009年、SIerの現状を俯瞰する
- 第2回 クラウドがSIerとエンジニアに要求する変化
- 第3回 選んだのは「内製回帰」の道――ひとり情シスの挑戦
- 第4回 「外の視点」を導入するソフトウェア開発
- 第5回 ひがやすを「SIerは顧客の良きパートナーとなれ」
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