第3回 選んだのは「内製回帰」の道――ひとり情シスの挑戦
湯本堅隆(GoTheDistance)
2009/12/18
ITコスト削減によるユーザー企業の「内製化」の波が生まれている。SIerに外注するのではなく、自社のシステムを自ら作り出す。そうした「内製化」にこそビジネスとシステムの未来があると信じ、SIerからユーザー企業へと転身したエンジニアが、「内製化の可能性」と「やりがい」について語る。 |
「GoTheDistance」というブログを運営している湯本と申します。簡単に自己紹介させていただきます。
2003年に、とあるユーザー系大手システムインテグレータ(SIer)に新卒で入社し、プログラマ、開発リーダー、プロジェクトマネージャ(PM)、コンサルタントというキャリアを歩んできました。
振り返ってみると、とても恵まれたキャリアを歩ませていただいていたと感じます。ですが、さまざまなユーザー企業さまのお話をお伺いしているうちに、システム開発は「内製」に向かうべきである、と感じるようになりました。自分が正しいと信じる「内製回帰」が切り開く未来を知りたくなり、今年4月にユーザー企業の情報システム部に転身しました。現在は「ひとり情報システム部」として働いています。
本稿では、「なぜ内製なのか」ということと、「内製志向のエンジニアのキャリア」について、私見を述べたいと思います。
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■ システムを導入することに対する「主体性」はどこに?
筆者はSIerにいたころ、幸運にもお客さまの顔が見えるポジションで仕事をしていました。いわゆる「上流工程」に携わることができ、多くのユーザー企業の情報システム部の方と仕事をさせていただきました。
多くのプロジェクトでは「エンドユーザー」⇔「情報システム部」⇔「SIerやベンダ」というチーム形態を取っており、エンドユーザーの「要望」と情報システム部の「仕様」の間に大きな乖離(かいり)を感じるようになりました。そもそも、何のためにこのシステムが存在するのかをユーザー企業自身が説明できないことが少なくありません。いま使っているシステムの恩恵は何なのかという問いがほとんどなく、筆者を含め、作り上げたベンダに対するおしかりのお言葉が多かったように思います。
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一体これは何なんだ、単なる「上流工程の失敗」では片付けられない、構造的欠陥があるのではないか――そう強く感じるようになりました。いろいろなものがあいまいすぎて、保守的にならざるを得ない閉塞(へいそく)感を、同時に感じました。
システムを導入することに対する主体性が宙ぶらりんのままに、要望(やりたかったこと)と仕様(出来上がったもの)の乖離から生じた溝を埋めることに奔走し、情報システムを進化させることへなかなか手が回らない。多かれ少なかれ、こうしたジレンマを皆さまがお持ちでした。
この状態を打破するためには、どういう手段を取るにせよ「自社のシステムがどのようにエンドユーザーに、大きくいえば経営に貢献しているのか」を感じられるようにならなくてはなりません。宙ぶらりんな主体性を、ぐぐっとユーザー側に寄せていく必要があります。
それを成し遂げる方法はたった1つ。システムを自分たちの手で進化させることによって達成される、と筆者は考えました。
■ アタマ(経営)とカラダ(システム)の乖離を埋める「内製化」
システムを理解している人たちが全体最適を考えて行動に移せるような企業体であることが、ビジネスの求めるスピードに対応できる絶対条件であると確信しています。ビジネスの進化がシステムの進化と表裏一体である以上、自社の競争力を構築・革新する「足回り」となるシステムを内製しない理由やデメリットを、筆者はあまり思い付きません。
システム屋の好きなカタカナ英語をうのみにしたソリューションビジネスが浮かんでは消えていっています。これは、技術的優位性・革新性を単純に「コストダウン」や「業務効率化」といった言葉で売り込んでいることが一因です。考え方は素晴らしい、でもそれにどんな意味を持たせるのか、どれだけの効果があるのか、それを判断できる機能が弱体化しています。それも結局は、アタマ(経営)とカラダ(システム)の乖離が激しいからです。
今年2月、見積もり2億円のIP電話を820万円で構築したという秋田県大館市の事例が話題になりました。なぜこういうことが可能なのでしょうか。この事例の本質的なポイントは、ユーザー自身が「自分たちの求めるシステムを多角的に精査できるような仕組み」を構築できたことにあると思います。進化を求める中で、内製と外注の区切りを明確にすることが可能であったのです。それ故に、払う必然性のない対価を払わなくてよくなり、自分たちで負うべきリスクも明確になりました。このラインが明確であるから、自分たちが成し遂げたことが何なのかも感じられるようになったわけです。
端的に申し上げれば、システム構造を理解できず、外部環境の変化に対し極めて脆くなってしまう過度な外注依存が引き起こすデメリットが、いまでは企業の存続すら損なう大きなデメリットになっている状態なのです。
だからこそ、筆者は「システムへの理解」と「ビジネスへの理解」を有機的に掛け合わすことのできる体制が構築可能な――結果として、PDCAサイクルが速くなることで競争優位を築くための差別化につながる――内製回帰を主張しているのです。
金融危機に端を発した不況に伴い、ユーザー企業はいままで必要経費として割いていた外注費を否応なしにカットせざるを得なくなり、なんとかいまの体制で回していこうという判断を下す傾向が強くなりました。恐らく内製化のトレンドはまだまだ拡大すると思います。そこで次ページでは、筆者自身が内製に取り組んでいる中で体得した「内製化のポイント」や、それに伴なう「困難」と「やりがい」について述べたいと思います。
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