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パソコン創世記
日本電気のセールスエンジニア、部品となったコンピュータと出合う

後藤富雄、1967年日本電気入社

富田倫生
2009/11/18

「紙に勝るディスプレイ」へ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 1967(昭和42)年3月、後藤富雄は国立鈴鹿工業高等専門学校の第1期生として、同校を卒業した。

 新設された5年制の高専に赴任してきた教師の多くは、昨日までは大学生相手に教えていた。受験とは無縁の環境で、中学校を終えたばかりの子供たちに物事の本質をつかませようと進められた授業は、後藤の胸に物作りへのあこがれを育んでいった。

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 最終学年を迎え、就職先を選ぶにあたって相談を持ちかけた研究室の教師は、日本電気を「エンジニア天国」と評した。「給料は安いけれど、あそこはエンジニア中心に動いている会社で、やりたいことがやれる」という教師の言葉は、後藤の耳に長い残響を置いていった。

 夏休みの実習では、玉川事業場内に置かれていた日本電気中央研究所の通信研究室で、マイクロ波を利用した物性研究を手伝わせてもらった。波長のきわめて短いマイクロ波を当て、反射波を分析して物の性質を見極めようとするこの研究室の空気を吸ってみると、「エンジニア天国」という教師の評に、確かにうなずくことができた。

 1967(昭和42)年4月、日本電気に入社した時点では、実習でかじりかけたマイクロ波がそのままやれればと考えていた。そこで配属先の第1志望には「通信」と書いた。だが実際にまわされたのは、集積回路事業部だった。

 これまで複数の部品を組み合わせて作っていた電気回路をひとまとめにし、1つの部品に作り付けてしまう集積回路の事業化に向けて動きだしたセクションは、異なった分野の出身者を集めた寄り合い所帯だった。半導体の性質そのものにかかわる物理屋もいれば、製造工程に関与する化学屋、チップ上に作り付ける回路が専門の電気屋、ソフト屋などさまざまな畑から集められた技術者たちが、新しい産業の立ち上げに向けて知恵を集めようとしていた。集積回路が果たしてどこまで、どのように伸びていくものか、先行きは定かではなかった。だが混沌の支配する寄り合い所帯には、異分野の混交する活気がみなぎっていた。

 ところが具体的な配属先を示されたとたん、後藤は気持ちが落ち込んでいくのを抑えられなかった。

 事業部内での配属を最終的に決める面接で「回路図が読めるか」と聞かれ、物理や化学出身の新卒者の大半が「読めない」と答える中で、「なんとか読めます」と答えてしまったことを、後藤はそのとき、後悔した。

 集積回路担当を言い渡された時点で、後藤はごく素直に、製品作りに直接携わる自分の姿を思い描いた。だが「回路図が読める」と答えた結果、まわされたのは、集積回路の生産に必要な施設を整える設備部だった。集積回路をいかに作るかに挑戦するのではなく、決定された製造手順に沿って生産ラインを整備するだけの仕事と受け取った後藤は、即座に「もっと物作りに深くかかわる、設計の仕事にまわしてほしい」と事業部長に直訴した。

 「我々にはいろいろな仕事がある。ともかくしばらくやってみなさいよ」と諭され、結局後藤は予定どおりの設備部設計課にまわされた。ここで直属の上司となる渡辺和也課長が取り組んでいたのは、でき上がった集積回路を検査するための装置の開発だった。渡辺のもとで担当することになったICテスターと呼ばれる検査装置の開発には、縁の下の仕事との思いがなかなかぬぐえなかった。だが、集積回路事業部にみなぎっている学際的な空気には、後藤自身すぐに触れることができた。

 同期入社の新入社員たちは入社後間もなく、集積回路に関する勉強会を組織し、後藤も熱心なメンバーの1人となった。

 入社早々、頭越しに事業部長に直訴した件は、渡辺も承知しているらしかった。「半導体の物性の研究をしたいのなら、やってかまわないんだよ」

 そういって、外部の講習会にも出席させてくれる渡辺の度量は、意に沿わない部署にまわされたとの後藤の思いを、少し埋め合わせてくれた。

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