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パソコン創世記
第2部 第6章 魂の兄弟、日電版アルト開発計画に集う
1983 PC-100の早すぎた誕生と死

グラフィックス強化と縦横兼用ディスプレイ

富田倫生
2010/7/14

前回「PC-100と、新規開発すべきASICたち」へ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 新規に起こすべきASICをつごう6つ洗い出しながら、8月いっぱいをかけて進めていったシステム設計上のポイントは、快適な操作環境を実現するために、グラフィックスの処理能力を徹底的に強化し、磨きをかける点に置いた。

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 一体型とはせずにコンポーネント形式をとるという方針が定められたが、GUIを実現するうえでは、ビットマップ方式による高解像度の専用ディスプレイを用意することは不可欠だった。

 アルトの縦長とスターの横長の両方の画面を見てきた日本電気の後藤は、TRON用に開発する高解像度のディスプレイを、縦横双方に置けるものにしたいと考えた。

 ディスプレイが縦に置かれているか、横に置かれているかをどう識別させるかには、いろいろなアイディアが出された。使っている最中にも切り替え可能なものにしようというプランもあったが、最終的にはテレビを据え付けるチルト台に機械式のスイッチを仕込み、セットアップの際に縦横を判別する簡単な機構にとどめることになった。

 IBM PCではプログラムの側から、現在どのようなディスプレイがつながっているかを識別できなかったが、新しいマシンにはプログラムからディスプレイの縦横を判別できる構造を用意した。

 ディスプレイの解像度は720×512ドットと定め、アナログRGB方式によって512色の中から任意の16色を選べるようにした★。

 ★家庭用のテレビをディスプレイに使ったアップルII では、カラーのビデオ信号は光の3原色の赤(R)、緑(G)、青(B)を1本の信号線で送るコンポジット(複合)形式が採用されていた。一方3つの信号を分けて送るRGB信号の形式をとれば、より鮮明なカラー画像が実現できた。

 さらにRGBには、デジタル方式とアナログ方式とがあった。デジタル方式では、電球のスイッチを入れたり切ったりするように、RGBのそれぞれの色を出したり出さなかったりする単純な組み合わせによってカラーが表現された。一方アナログRGBでは、電球の明るさを連続的に変化させられる調光式の照明のような、中間的な明るさの組み合わせによる表現も可能になった。松本は新しいマシンにアナログRGBを採用し、RGBの各色に3ビットで8段階の輝度を表現できる構造を与えて、8の3乗で512色の表現を可能にした。一方PC-9801は、デジタルRGBによる8色の表示にとどまっていた。

 この512色の中から選んだ色で表現される画面上のそれぞれの点を、いかにして素早く描き出すかはシステム設計上の大きなポイントとなった。

 松本は各点の色を決めるにあたって、画面と同じ解像度を持ったプレーン(面)を複数用意し、それぞれの色の重ね合わせによって表現する方式をとれば、書き換えの動作を高速化できるのではないかと考えた★。

 ★ビットマップをカラー化するにあたっての素直な選択は、1つのプレーンの各ドットに何ビットかの色の情報を持たせるやり方だった。1つのドットに1ビットを持たせれば0、1で2色、2ビットなら4色、3ビットなら8色、4ビットなら16色を表現することができた。だが同じ4ビットで16色を表現するにしても、それぞれは1ビットのプレーンを4枚用意して重ね合わせる方式をとれば、各プレーンへの読み書きを同時並行して行うことで処理速度を稼げるだろうとの発想から、この方式が考案された。

 画面を構成するそれぞれのドットを正方形で表現することも、グラフィックスを心地よく表現するうえでは重要なポイントとなるとして留意した。初代のIBM PCに用意されたCGA(Color Graphics Adapter)では、ドットの横と縦の比は1対2.4ときわめてバランスを欠いていた。改良版のEGA★(Enhanced Graphics Adapter)でも1対1.4に改善されるにとどまった。1つ1つのドットが縦長に表現されているために、PCでは画面上で円を描いたはずのものが楕円に、正方形を描いたはずが長方形にならざるをえなかった。グラフィックスの表現力を命とする新しいマシンでは、ドットは当然正方形とするべきだと考えた。

 ★PC AT用の新しいビデオ規格として発表されたEGAは、従来のMDAとCGAの機能をカバーするとともに、640×350ドットで16色を表現できた。

 新しいマシンをどう作るかにあたって、松本はハードウェア屋としてほとんどの領域で思い通りに腕をふるうことができた。ただしコンピュータの内側で重要な働きを演じている割り込み★と呼ばれる機能をどう実現するかは、数少ない悔いの残るポイントとなった。

 ★何かのプログラムを実行している最中に、キーボードが押されるなり、マウスが操作されるなり、周辺機器から信号が入ってくるなりした場合、動かしているプログラムをいったん中断して要求のあった仕事に応え、そのあとで再びもとのプログラムにもどって作業を継続する機能を割り込みと呼んでいる。

 もしもこの割り込みの機能が備わっていなかったり貧弱だったりすれば、ユーザーは何かを思い立ったその瞬間に操作してマシンからすぐに反応を受け取り、小気味よく使いこなしていくことはできなくなる。いつ情報が飛び込んでくるか分からず、通信などの機能に備えるうえでも、割り込みは大きな意味を持っている。この機能の制御用に、PCはインテルが製品化していた8259Aと名付けられた割り込みコントローラを使っていた。

 このコントローラに対して割り込みの要求を伝えるにあたっては、電圧を低い状態から高い状態へと変化させる際の立ち上がりのポイントによって指示するエッジトリガーと呼ばれる方式と、もう一方、レベルトリガーと呼ばれる方式を選ぶことが可能だった。将来の拡張性を考えれば松本は当然レベルトリガーを選ぶべきだと考え、新しいマシンの割り込みにもこの方式を選んだ。ところがこの方針が、日本電気の反対にあって覆されることになった。

 PC-8801までの従来機種で一貫してエッジトリガーによる割り込みを採用してきた日本電気側は、このアーキテクチャが現状でなんら問題を起こしていない以上、わざわざ新しい方式に切り替える必要はないと考えた。

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