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パソコン創世記
第2部 エピローグ 魂の兄弟、再び集う
1983 Windowsの約束が果たされた日

フィリップ・D・エストリッジ

富田倫生
2010/9/3

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本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 別れを経験したのは、西とゲイツだけではなかった。

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 日本電気にパーソナルコンピュータの種をまいた渡辺和也は、1990(平成2)年6月27日付けで同社を退社し、7月2日、ネットワーク用ソフトウェアの雄、ノベルの日本法人の社長に就任した。

 日本電気の支配人と日本電気ホームエレクトロニクスの専務取締役を兼務していた渡辺和也は、移籍の1年前の夏、知り合いの『日経エレクトロニクス』誌の記者から書評の依頼を受けた。

 IBMにおいていかにしてPCの開発が進められたかをレポートした『ブルーマジック』(ジェイムズ・クポスキー/テッド・レオンシス著、近藤純夫訳、経済界、1989年)を読み進むうち、渡辺の脳裏には、後藤富雄がTK-80のプランをラフなスケッチにまとめて持ってきてからの燃えるような日々のさまざまな情景が、繰り返し繰り返しよみがえってきた。

 カリスマと1匹狼的な独立心を兼ね備えたフィリップ・D・エストリッジというリーダーのもと、ごく少数の独立したプロジェクトチームによって進められたPCの開発物語は、10年前、自分自身が主人公となって演じたドラマの筋立てをそっくりなぞっているように見えた。

 新しい何かの誕生を信じた少数のチームが、大企業の組織的枠組みからはみ出すことを承知で走りはじめる。時代の風がチームの背を押して予想を超えた手応えが返ってくるたびに、彼らの志気は高まり、やがて燃えるような集団はもっとも楽観的な予想をもはるかに超えた成功を手にする。だが一度彼らの切り開いた新しい世界の可能性が明らかになると、組織は彼らが1匹狼でいることを許しはしない。大企業の身中の1匹狼という自己矛盾をはらんだ存在が成功の階段をかけ上った先には、自らを切り刻んで組織の餌として捧げる宿命が待っている。

 PCのプロジェクトチームはいったんは、エントリーシステムズ事業部(ESD)として組織的な位置づけを与えられる。だが1985年1月、組織性と規律というIBM精神の申し子であるジョン・F・エイカーズが最高経営責任者となると、エストリッジは形式的には昇進の形を取りながらも更迭され、ESDは大型コンピュータを骨格とする伝統的な同社の事業組織の中に吸収される。

 パーソナルコンピュータからメインフレームまで、全製品ラインの統合を目指したエイカーズのもとで、IBMはPC/ATを切り捨て、PS/2への移行を目指した。

 一方日本電気においては、情報処理へのパーソナルコンピュータ事業の全面移管のあとも、渡辺和也は担当の支配人として、形式的にはこの事業を管轄する立場にあった。

 だが、1984(昭和59)年7月に情報処理担当の役員が大内淳義から大型本流の水野幸男に代わると、渡辺の孤立は深まっていった。

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