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リーダー

第2回 「Webブラウザの母」が語るMozillaの軌跡(後編)


荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
大星直輝(撮影)
2010/1/8

瀧田佐登子(たきた さとこ)氏 Mozilla Japan 代表理事 1963年生まれ、鳥取県出身。1986年3月、明星大学理工学部化学科卒業。同年4月、日電東芝情報システム(現・NECトータルインテグレーションサービス)にSEとして就職。1991年、東芝システム開発にて、インターネット事業の立ち上げおよび企画推進に従事。1996年、Netscape Communicationsの日本法人に入社。2001年、米国AOL/Netscape プロダクトマネージャとして日本の金融関連サービスおよび Netscape 7のプロモーション業務を担当。2004年Netscapeの技術を継承したFirefoxやThunderbirdの製品や関連技術の普及、オープンソースの啓蒙を目的とした非営利法人Mozilla Japanを設立。2006年7月Mozilla Japan 代表理事に就任。業界では「Webブラウザの母」と呼ばれる。

『Webブラウザの母』が語るMozillaの軌跡(前編)」では、瀧田氏がWebブラウザに出合いFirefoxを普及させるまでの苦労をお伝えしました。後編では、瀧田氏のMozilla Japan 代表理事としての役割、オープンソースにおける人材育成についてお伝えします。

■Mozillaではみんながフラット、どんな立場でも同じ目線で考える

 Mozilla Japanの代表理事の役割は、Mozillaのミッションや理念、オープンソースのマインドを維持すること、そして、Mozillaプロジェクトにかかわるすべての人たちを支援することです。一般に、オープンソースの世界では開発者にスポットが当たりがちですが、開発者だけでなく、翻訳やローカライズに携わっている人、ドキュメント作成者、一般のユーザーまで含めて、あらゆる形でプロジェクトに参加し活躍できるよう、バックエンドで支えることがわたしの仕事です。

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 そのほかにも、新しい技術を考えて試したり、また、未来はどうあるべきかをディスカッションしビジョンを考えたりする仕事があります。さらに、講演や取材などを通じて、Mozillaが目指すものや、日本のMozillaを取り巻く状況を世界に伝え、製品そのものの普及にも努めています。それによって、Mozillaに携わる人たちもクローズアップされてほしいと願っています。

 わたしは一応代表理事という立場にはありますが、Mozillaプロジェクトのみんなと隔てなくフラットに話をすることを心掛けています。開発者とは「こういうものがあったらいいよね」と、ドキドキワクワクするような話をしているときが、わたしにとって一番楽しい瞬間です。コミュニティ*1内には、わたしのつまらない夢物語に耳を傾けてくれる人がたくさんいて、コミュニティのみんなと話すのが面白いんです。

 仕事を型にはめたくないないので、常に、いろいろな人の目線でいろいろなことを考え、Mozillaプロジェクトを円滑に回していきたいと思っています。

 オープンソースは、学歴や年齢、性別、タイトルがまったく関係のない、実力勝負の世界です。その考えの下では、代表理事よりも、開発者をはじめ、Mozillaプロジェクトに貢献している人の方がより尊敬されます。わたしは、コミュニティがうまく回るように支えるバックエンドの存在にすぎません。Mozillaは本当にフラットなプロジェクトなのです。

*1)Mozillaプロジェクトには、世界中に大小多数のコミュニティが存在する。日本でも、ローカライズ、開発、ユーザーサポートなどのコミュニティが活動している。

■開発経験が発想の転換を手助けし、考えの幅を広げる

 こうして代表理事の仕事をしていて思うのが、これまでNetscapeなどさまざまな会社やプロジェクトで培った開発経験がいかに貴重だったかということです。正直にいえば開発は苦手でしたけど、逃げないでがんばって良かったと思っています。

 Mozillaの目指す方向性やオープンソースの考え方を世の中に伝える際には、マーケティング的な思考だけでなく、テクノロジ的な思考も必要です。次の時代を予測するときに、「いまはこの製品・技術が主流だけど、こういうものを作れれば、次の時代はこう変わる」といったことが具体的に描けなければなりません。

 最近は大学生などいろいろな方の前で講演する機会が多いのですが、その際皆さんには1種類でもいいからプログラム言語を一から習得することを勧めています。プログラムを書くことで、物が作られる流れやシステムの仕組みが分かり、新しい技術が生まれる工程や技術動向を考える手助けになります。

 Mozilla Japanのマーケティングチームには開発経験のあるスタッフもいます。わたしが冗談半分でいったことを、頭の中でこうすればできると発想を転換して理解してくれるので、マーケティングの仕事の幅にも広がりが出ているように思います。

■オープンソースがエンジニアの実力を確かなものにする

 ソフトウェアを開発するときには、設計、開発、テスト、保守、利用といった一連のプロセスを考えなければなりません。わたしの経験上、プログラムをきちんと書く訓練を積めば、仕事も適切なプロセスを踏んで進められるようになると思っています。ですから、エンジニアもそうでない人も、プログラムはどんどん書いた方がいいと思います。

 そこでぜひ、オープンソースという場を活用してください。日本人の中には、自分のプログラムを他人に見せることを恥ずかしいと考える人が少なくないようですが、スキルアップのためには率先してプログラムを公開してみましょう。

 すると、世界中にいる開発者(中にはものすごく有名な人もいます)から「ここはこうした方がいい」というアドバイスをもらえますし、さまざまなアイデアを持ち寄ってディスカッションもできるのです。特にエンジニアの人には、オープンソースの世界をうまく活用してほしいと思っています。オープンソースは、企業に属する一社員としてではなく、1人のエンジニアとして個を確立し、世の中に自分をアピールする最高の場所です。インターネット上では誰が見ているか分かりません。例えば転職をするときに、オープンソースの世界での自分の実績を持って「ここを見てください、僕はここをやったんです、ここに貢献したんです」といえると、自分を認めてもらう材料の1つになります。日本以外の国で働くチャンスが巡ってくるかもしれません。オープンソースには、そんな無限の可能性があるのです。


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