第2回 暑い、辛い、つらいからカットオーバーの感動まで
アビーム コンサルティング
マネジャー 内村太郎
2008/3/25
ITコンサルタントの活躍の場は、日本だけではなく各国にも広がっている。本連載は、主に海外で活躍する日本人のITコンサルタントが、海外のプロジェクト事情などを、リレー方式で伝えていく予定だ。あなたの将来の活躍の場も、そこにある? |
前回の「ITコンサルタントの仕事は映画製作?」の松本太郎さんに続き、今回はタイで活躍する内村太郎さんの登場です。
■駐在生活は暑い、辛い、つらいから
2006年6月、バンコクに赴任したばかりの私を襲ったのは、猛烈な暑さと不衛生な環境と激辛の食事、そしてそれらに起因する急性胃腸炎と脱水症状でした。
意気込んでスタートした駐在生活がこんな形で幕開けするとは思いもよりませんでしたが、どんな仕事も体が資本。悔しさをぐっとこらえて4日間の入院生活と1週間の療養を終え、現地でのプロジェクトを本格的にスタートしました。
滞在邦人数は4万人強、進出日系企業は商工会議所会員数だけでも1300社近いともいわれるタイ王国。その首都バンコクで、私が駐在員コンサルタントとして勤務しているアビーム コンサルティング タイランドは、2005年夏に設立されました。
設立当初は10人程度でオペレーションしていた小さな事務所が、2年を経たいまでは30人のメンバーとなり、同時並行で数々のプロジェクトを遂行しています。海外関連子会社も含めると約3500人のプロフェッショナルがいるアビームコンサルティンググループの中ではかなり小規模のオフィスですが、それでもここが自分の希望した赴任先なのです。
■なぜ海外へ?
なぜ私は、バンコクへの赴任を希望したのか、そのルーツは、学生時代にさかのぼります。
そもそも学生時代、高校と大学をオーストラリアで過ごした私には、東南アジアからオーストラリアに留学や移住してきた友人がたくさんいます。シンガポール、マレーシア、香港、タイなどの国から集まっている彼らと話をしているうちに、東南アジアには大きなビジネスチャンスとともに、自分を成長させるポテンシャルがあると思いました。
急激に成長しているアジアを肌身で感じるためにも、いつかは東南アジアを基点に世界を飛び回ってコンサルティングの仕事がしたいと思うようになりました。
そんな夢を描いてアビーム コンサルティングに入社した私に、なかなかチャンスは巡ってきませんでした。8年間の留学生活のおかげで、英語はネイティブレベルに近いと自負していましたので、すぐにでも海外出張や赴任の機会があるかと思っていましたが、新卒として入社してからの6年間は、国内出張はあったものの、海外へは一歩も出る機会はありませんでした。
しかしその間に日本で培ったノウハウやワークスタイルは、どこに行こうとも必ず糧となり、新しいチャレンジをする際の土台となるのです。むしろそれがないうちは、言語もカルチャーも違う人々と一緒に仕事をしてコミュニケーションを取っていくのは非常に困難だと、いまは思います。
■責任感の語感の違い
クライアント先でもよく話題になることがあります。例えば「責任感」という言葉の意味をめぐって、こんな経験をしました。
日本人にとって責任感とは、ポジティブな意味合いであることが多く、責任感が強いといえば、積極的に自ら物事を進めていくことにつながると思うのですが、タイではちょっと事情が異なるようです。
タイ語で「責任」という単語から連想する意味合いは、「嫌なことを押しつけられる」という感覚に近いそうで、「責任を取る」ことの重圧の方が重視されるそうなのです。
だから、こちらが激励のつもりで「責任を持って頑張って」などと声をかけようものなら、彼らはとても嫌な顔をし、逆にその仕事から逃げ出してしまうことさえあるのです。
■重要なコミュニケーション能力
言葉も感覚も異なる者同士で仕事をするということは、言葉のかけかた1つ、単語1つをとっても、思わぬ展開になることが多く、コミュニケーション上の行き違いや苦労があることは事実です。
海外での生活は、価値観の基準も覆ってしまうことさえあるのですから、むしろこのような違いを面白がるような気質が求められるかもしれません。
広義での「言葉の壁」を乗り越えるには、クライアントか自社かを問わず、ともに働く同僚として日ごろからじっくりと溶け込んで話し合い、自分たちの物事の考え方やお互いの考え方を受け入れる寛容さが必要です。またそのような打ち解けた人間関係を作るコミュニケーション力が最も大切な要素の1つだと実感しています。
つまり、語学力(英語)だけではコミュニケーションは成り立たないということです。
もちろん英語がコミュニケーションの基礎となることは事実です。が、単語力や文章力よりももっと大切なことは、相手を理解し自分も理解してもらう、そのような相互理解の前提があってこそ、チームワークが原動力となるプロジェクトの醍醐味が得られると感じます。
■感覚の違いを知る
仕事で日本に書類を送る際に、現金で運送費を支払って後日領収書とお釣りをもらうことになったのですが、なんとお釣りのお札(新札)が、領収書にホチキスで留められていました。
結婚式などでは、新札をわざわざ用意して折り目が付くと失礼に当たるとされるしきたりのある日本人の感覚からしても、ホチキスでお札を留めるとは信じがたいものです。確かにバラバラにならずに済み確実に領収書と一緒に受け渡せるということで、タイでは割と当たり前のようです。紙幣は穴が開いていたって破れたって、半分以上残っていれば使える、というのです。
また、ランチタイム、代表的なタイ料理パッタイ(タイ風やきそば)と一緒にタイで製造されている栄養ドリンクを飲んでいたときのこと、日ごろは穏やかなタイ人のメンバーが「プロジェクトマネージャが何を飲んでいるの?」と、珍しく語気を荒げてやってきました。ドリンクの瓶を握り締めたままキョトンとしていると、こう説明されました。「それは通常、肉体労働者が飲むものです。プロジェクトマネージャが飲むものではありません!」
日本人の感覚では、戦うビジネスパーソンこそ栄養ドリンクを飲んで頑張りそうなものですが、タイではちょっと事情が異なるようです。いまだに大きな格差のあるこの国では、ブルーカラーとホワイトカラーの区別も明確です。
こうした価値観、見方の違いは、特に一般消費財や食料品のブランディングをしていくうえでも重要な視点となっています。例えば広告を展開する際にも、中・上流階級層をターゲットにする場合は配慮が必要です。
ブランディングはコンサルティング会社にとっても非常に重要です。コンサルタントは、1人ひとりが商品ともなり得るので、自分自身の言動や振る舞いに気を付けて、ブランドイメージを損なわないようにしたいものです。
このように感覚が違うことが、周りに間違ったイメージを植えつけたり、自分が間違って思い込んでしまったりしないようにするためにもコミュニケーションを取ることは重要になります。
■現地のスタッフとともにカットオーバーを
少し前まで私は、タイ人スタッフ二十数人と日本人メンバー十数人と一緒にあるプロジェクトを担当していました。開発に挑んで1年半以上、ようやく無事、システムを稼働(カットオーバー)させることができました。
現在は規模こそ小さいですが、タイ人スタッフとともに3つのプロジェクトを同時に進行させるため、プロジェクトマネージャとして全力を尽くしています。
カルチャーも言語も違う人たちと、気候も食べ物も違う環境で仕事をするというのは、正直壁にぶつかる部分もありますが、たくさんの同僚と迎えたシステムのカットオーバーは、感極まるものがあります。そのゴールを目指してまた今日も、クライアントの元へ出掛けます。
次回はヨーロッパにいるシニアマネジャーが、ヨーロッパでどのように活躍しているかをお届けする予定です。
筆者プロフィール |
内村太郎◆1976年、東京都生まれ。高校からオーストラリアに留学し、大学卒業までの8年間を過ごす。2000年、就職のために帰国。アビーム コンサルティングの前身であるデロイトトーマツコンサルティングに入社。日本で複数のプロジェクトを経験後、2006年よりアビーム コンサルティング タイランドの駐在員となる。 |
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