自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |

ITコンサルタントが語る! 世界の現場から

 

第7回 提案途中に逆提案! 15分で資料を再編集

アビーム コンサルティング
シニアコンサルタント 菊本善夫

2008/8/25

第6回1 2次のページ

 ホテルから一歩外に出ると、やわらかい陽射しが燦燦(さんさん)と降りそそいでいる。会社への道すがら、青い空と緑の木々のコントラストを楽しむ。野生のウサギに軽く目配せし、新鮮な空気を堪能しつつ、10分弱でクライアントの敷地にたどり着く。

 ちょうどクライアントの1人もそのとき出社したらしく、笑顔であいさつする。プロジェクトの開始から1年がたつため顔なじみである。敷地内の建物のドアを開け、中に入る。プロジェクトルームの席に着いたらPCを起動し、本日の予定を確認する。

  そんなとき、ふと思い出すことがある。いまとなってははるか昔、いまはプロジェクトルームとなっているこの場所で行ったプレゼンテーションの場面のことを。

 私はいま、米国カリフォルニア州でERP導入プロジェクトに従事しています。現在はプロジェクトメンバーとしての参加ですが、私はプロジェクトが始まる前からこのプロジェクトに携わってきました。アビームコンサルティングとして最初にクライアントを訪問し、自社やサービス内容の紹介を行う営業活動(PD:Practice Development)の段階から参画していたのです。

■見えない目的地

 時は遡(さかのぼ)り、2006年初夏。ニューヨーク事務所に出張し、PDに携わる任務を与えられたことは幸運なことでした。当時私は「コンサルタント」(2〜4年目の経験者)のランクでした。このランクでPDを目的として海外に派遣されるのはあまり例がないことだと思います。当時、米国子会社では、ビッグビジネスの片鱗(りん)を見せ始めていたJ-SOX支援サービスの販売体制強化を進めていました。そんな中、たまたま前職の監査法人でUS-SOX監査を経験していた私に白羽の矢が立ったのです。しかし、理由はそれだけではありません。私はかねて英語圏で働きたいという希望を持っていて、社内の面談などでその旨を伝えてきました。実現までの道のりは平坦ではありませんでしたが、当時の上司がついにその希望を受け入れてくれ、「Give it a shot, you never know what is going to happen.」という言葉とともに送り出してくれたのです。必ず期待を上回る仕事をして帰国しようと心に誓いました。

 かくしてニューヨークに到着した私は、1回目の会社訪問の準備に取り掛かったのですが、作業は難航を極めました。その理由は、提案するサービス内容が定まっていないからでした。通常のPDは見込み客からの引き合いに応じたり、こちらが推進するサービスがあって訪問するケースが多いのですが、今回は他社から紹介されたお客さまにあいさつに行くというもので、その際一緒に「何か」話をする場をいただけるというものだったのです。

 いまの風潮ではJ-SOXがいいかもしれない。しかしシステムの入れ替えニーズもあると聞いている。あるいはまったく別のところに一番の問題を抱えているのかもしれない。直接話をしていない段階から提案内容を絞りすぎると、顧客のニーズを外し、初対面から大きく信頼を損なう結果になりかねません。間違ってもそのような事態にだけは陥らないよう、柔軟な対応が求められたのです。

 準備作業が難しかった2つ目の理由は情報の少なさでした。上記のような状況下、訪問先が抱える問題を的確に把握するためには、訪問先が置かれている経営環境を理解・分析することがどうしても必要です。ところが、今回の訪問先に関する公開情報は皆無に等しいものでした。机上での調査に限界を感じた私は、マンハッタンの街へと繰り出しました。その会社に関連する商品を実際に目にすることで、少しでも経営環境分析の足しになればと考えたためです。

■訪問初日

 朝10時に事務所に集合、地下鉄に乗って30分で訪問先へ到着、というわけにはもちろんいきません。事務所のあるニューヨークから訪問先のカリフォルニアまで、文字どおりアメリカ横断を敢行しなければなりませんでした。

 米国でのPDは体力とお金がかかるものだということを痛感しました。出発は前日の夕方。5時間のフライトの後、2時間かけて付近のホテルに到着。この際にかかるコストは航空券代×人数、ホテル代、レンタカー代、駐車場代など東京では不必要なコストのオンパレードです。2人で3泊するだけですぐに何十万円もかかります。

 いよいよ翌日の訪問日。ネクタイの結び目を確かめ、スーツの第2ボタンをはめて、気を引き締めました。傍(はた)から見れば、最もカリフォルニアに似つかわしくない服装の日本人2名です。部屋に通され待っていると、お客さまのマネージャクラス15人が入ってきました。そこに笑顔はなく、ぴんと張り詰めた空気が部屋全体を包み込みました。それは今後の厳しい展開を予感するのに十分なものでした。逆の立場になってみればそれもそのはず、今回の訪問は決してお客さまが依頼したものでもなく、多忙な現業の中での参加だったのですから。

 プレゼンテーションの第1弾として、自社概要の紹介を行いました。2日間のスケジュールとして、以下のような算段を考えていました。

 1日目。まず、自社の概要とサービス内容を説明し、自己紹介を行う。次に、経営環境分析資料をたたき台として、ディスカッションを通して会社の問題点を抽出する。

 2日目。1日目で抽出した問題点に関する資料を基に議論を展開、私たちが支援できる分野があるかどうかの可能性を模索する。

 先にも述べたとおり私たちにとって一番の悩みは、会社が何に関心を持っているのか事前にほとんど分かっていなかったことでした。従って、会社の問題意識を把握するところは今回の訪問で鍵となる重要な部分として位置づけられていました。

第6回1 2次のページ

自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。