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ITコンサルタントが語る! 世界の現場から

 

第10回 質の高いコミュニケーションが凄腕コンサルを作る

アビームコンサルティング(上海)
プリンシパル 副総経理
河村剛

2009/5/7

第9回へ

 本連載は今回で第10回を迎えます。区切りがよいので、今回を最終回にします。これまでご愛読ありがとうございました。本連載が始まったのは2008年2月ですが、ご承知のとおり、その後、世界各国の景気が大幅に悪化し、現在は「100年に1度」(前FRB議長 アラン・グリーンスパン氏)といわれる不況の真っただ中にあります。この大不況の原因を世界経済の急速なグローバル化に求める意見が一部にはあるようです。そのため、今後、米国欧州各国および中国などの新興経済国が保護貿易的な政策を行うのではと懸念する声もありますが、筆者としては、中長期的に見て、いわゆるヒト・モノ・カネ・情報のグローバル化は歴史の必然であって、この流れは今後も加速するものと考えています。つまり、日本企業にとっても、グローバルな舞台における競争力強化がより一層重要になると考えているわけです。

 そんな中、われわれコンサルタントも、クライアント企業のグローバル展開を支援すべく、これまで以上に多くのグローバルプロジェクトに関与していくことは必然の流れとなるだろうと予想しています。

コンサルタントと「コンサルティング」について

 前置きが長くなりました。

 筆者自身は1990年に現在のアビームコンサルティングの前身企業(等松・トウシュロスコンサルティング)に入社して以来、数十件のグローバルプロジェクトに関与してきました。その経験から、グローバルプロジェクトを成功させるための大きなポイントは、どれだけ質の高いコミュニケーションが取れるかというところにあると痛切に感じています。われわれコンサルタントの仕事は、改革構想策定やシステム化計画立案といったいわゆる上流工程から始まることが多く、この段階でクライアント企業との意識がずれてしまうと、後での修正は大変困難になります。

 例えば、日系グローバル企業のサプライチェーンの再構築プロジェクトがあったとします。この場合、クライアント企業の日本本社の方々だけでなく、全世界に展開する販売拠点、製造拠点のマネジメント、ユーザーの方々とも、新たなグローバル共通プロセスやシステムの仕様、ビジネスルールの策定、KPI(重要業績評価指標)などについて一緒になって議論していくことになります。そして、海外拠点の方々にも、表面的に理解していただくだけではなく、「なぜ、いま、何のために」改革が必要か、新しい業務や組織はどうあるべきなのか、新しいシステムはどのような機能を実現すべきか、といった事項について納得していただきます。

 納得していただくだけではなく、これらの新しい取り組みを組織に定着させ、社員の方々に自発的に行動していただけるようになるまで、粘り強くコミュニケーションを続けていくことが、プロジェクト成功への鍵となるのです。

 海外拠点とのコミュニケーションは、当然一筋縄ではいきません。もちろん、現地の固有要件、現行業務プロセス、システム、クライアント企業の社内事情などについて、ある程度事前調査をしてから打ち合わせに臨むのですが、それでも最初は話がかみ合わなかったり、人ごととしてとらえられたりすることも珍しくありません。それでも何度も議論を重ねていくうちに、信頼関係が生まれ、ベクトルが合っていくものです。

 こういった苦労を乗り越えて、何年か後に、クライアント企業の方から、「あのときは大変だったけど、頑張ってプロジェクトをやりきって本当に良かった」といわれるのはコンサルタントみょうりに尽きます。

コンサルタントと「メンバーシップ」について

 コンサルティング会社の営業・提案活動は、コンサルタント主体で提案チームを作って提案活動を行うことが一般的です。多くの場合、提案チームの主要メンバーは受注後も引き続きプロジェクトに関与することになります。当社の例では、マネージャ以上の職位であれば、何らかの形で営業・提案活動に関与することが多いですし、われわれ執行役員プリンシパルには営業・提案活動をリードすることが求められます。

 グローバルプロジェクトの提案活動においては、世界各国の当社事務所からその道のエキスパートを集めて提案チームを組成します。初めて顔を合わせるメンバーが多く、お互いのスキルや知見を提供し合いながら、提案書を作成していかなければなりません。

 昨年、欧州に本社を持つ、あるクライアント企業にアジア展開プロジェクトの提案を行いました。(日本を含む)アジア/欧州の6カ国からメンバーが選抜され、最初は電話会議やメールで議論を繰り返しながら、提案の方向性を固めていきました。最後はロンドン郊外の当社事務所に缶詰になって、締め切り直前まで提案書の推敲(すいこう)を繰り返すという作業を行いました。

 最終プレゼンテーションは上海で行われました。このときも初めて顔を合わせるメンバーが多かったのですが、数日でチーム全体の意識を合わせ、何年も一緒に仕事をしているような息の合ったプレゼンテーションを行うことで、無事案件獲得につなげることができました。

 こういったチームワークを筆者のかつての上司はジャズの即興演奏にたとえていましたが、まさに的を射た表現だと思います。国籍もバックグラウンドも異なるメンバーが、お互いをそれぞれの分野のプロフェッショナルとして認め合うことから相乗効果が生まれていきます(ちょっと格好つけすぎですね)。

 余談ですが、クライアント企業にプレゼンテーションを行う場合、こちらが思いもかけないような質問が飛び出します。上に例を挙げた欧州企業へのプレゼンテーションでも、想定問答集にない質問がいくつも出てきました。中でも一番意表を突かれた質問は、「もし、アビームがVW(フォルクスワーゲン)、GE(ゼネラルエレクトロニクス)、Googleの3社から同時にプロジェクトを受注したとしたら、あなた自身はどの企業を担当したいですか?」というもので、さすがにこれには質問を受けた当社のプロジェクトマネージャも一瞬言葉を詰まらせていました。

コンサルタントと「コミュニケーション力」について

 さて、海外でのコミュニケーションのポイントとして、誰でもまず思いつくのが英語、中国語などの外国語運用能力だと思います(実際、非常に重要です)。しかしながら、上の例からお分かりいただけると思いますが、グローバルプロジェクトで必要とされるコミュニケーション能力というのは、単なる外国語運用能力だけでなく、もう少し広い範囲の話になってきます。

 多少脱線しますが、英語力についても、いかにも英語らしい自然な表現やネイティブのような発音を身に付けることも大事ですが、それよりも(グローバルプロジェクトの現場で)重要なことは、文章を書いたり、話をしたりする際に、自分の中であいまいさをなくし、動作の主体や具体的な作業内容などを厳密に考えてから表現することを心掛けることだと思います(このことは第3回 コミュニケーションギャップは国境を越えて大騒動の記事で、「日本語をうまく使えるようになりましょう」と指摘されていることとも重なります)。

 むしろ大切なのは、日本では常識として無意識に前提としていることが、コミュニケーションの相手にとっても当たり前のことなのかについて常に問題意識を持ち、相手の前提をおもんぱかりながらコミュニケーションを進めていくことです。

 例えば、日本での世界地図では日本が中心に置かれていますが、これはもちろん世界標準というわけではなく、ヨーロッパに行けばヨーロッパが中心に置かれています。そういったヨーロッパ中心の地図を見ると、日本が右端ギリギリに、いかにも「極東」という感じで描かれていたり、時には省略されていたりということすらあって、複雑な気持ちにさせられることもありますが、逆にアルフレート・ヴェーゲナーが「大陸移動説」を発想できたのも、この地図を見ていたからこそだと納得できます。大事なことは、相手が見ている地図が違うかもしれないという認識を持って、お互いの地図を意識しながらコミュニケーションを進めることです。

 同様に、仕事の現場で日本では当たり前に使われる表現も実は世界の常識ではなかったり、和製英語だったりするので、これらにも注意が必要です。例えば、日本では資料の中にマル、バツ、三角の記号を使うことが多いですが、これらは海外では通じないことが多いですし、特に三角は海外の人たちには何のことか分からないことが多いみたいで、筆者も会議中に「あの表にあるトライアングルの記号はどういう意味ですか?」とこっそり聞かれたことは1度や2度ではありません。

 また、ITコンサルタントとしては、各国の文化、商習慣、仕事の進め方、そして会計・税務要件などについても十分に気を配ってプロジェクトを進めないと、「本社の考えていることは理解しましたが、そのやり方ではこの国でのビジネスはまわりません」と各国ユーザーにいわれるような状況に陥ることになりかねません。

 具体的な例でいえば、消費税1つ取っても、日本では全国どこでも一律5%ですが、アメリカでのセールスタックスは州ごとに変わるどころか、州の中でも地域ごとに変わったりしますし、セールスタックスがない地域すらあります。また、カナダでは基本的に州と連邦の2種類の税金が買い物に掛かります。

 もう1つ別の例を挙げると、通貨単位が「円」しかない日本と違い、多くの国では補助通貨単位(例えば、ドルに対するセント)があること自体は、いまや一般常識として理解されていると思います。ところが、マレーシアでは「1リンギット=100セン」なのはよいですが、なんと「1セン」硬貨が流通していないので、5セン単位に端数処理をする必要があります。

 上記はほんの一例ですが、こういったことを念頭に置きながらクライアントとコミュニケーションをしていかないと、重要な要件が漏れてしまう可能性があります。グローバルシステムの運用・設計で日本と各国との時差を考慮するのは当然ですが、夏時間の有無や各国の習慣(例えば、東欧のあるクライアントの例では、その地域は朝6時始業が一般的ということもありました)も考慮に入れないと、日次バッチが就業時間と重なってしまったりします。

 かくいう筆者も駆け出しのころ設計したシステムで、補助通貨の枠を2けたしか取っておらず、「バーレーン・ディナールは補助通貨が3けただから、これじゃ使えないよ」とクライアントから怒られ、大慌てで画面・帳票を設計し直したことを15年以上たったいまでも記憶しています。

 また、仕事の進め方として、筆者の狭い経験から感じたことですが、ミーティングの進め方にも地域の特性があるように思えます。アメリカでの日常的なミーティングであれば、出席者が誰でも自由に発言することが許容される半面、発言しない人=参加する意味がない人、という受け止められ方をすることが多くあります。一方、東南アジアでのミーティングでは、数人でヒソヒソ話が始まってしまうことがよくありますが、実はここで重要なことが話されていることもあるので、それを見極めて議事進行をする必要があります。

 とはいえ、過度の思い込みには気を付ける必要があります。以前、筆者がニューヨークでプロジェクトマネージャを務めていた案件で、メンバーの中に、アメリカ人に交じって日本から来たばかりのスタッフがいました。彼女が参加した最初の進ちょく会議で「この作業を今週中に完了してもらえますか?」と(英語で)聞いたところ、「No, I can't!」との答えが返ってきて驚いたことがあります。会議の後、日本語で意図を聞いてみたところ、「アメリカではYes、Noをはっきり表明しないといけないと聞いていたので、ハッキリとNoと返事しました」と元気よく答えてくれました……。誰にでもこういった失敗談の1つや2つあると思いますし、筆者も他人のことは笑えませんが。

 コンサルタントという仕事は出張が多い、という印象を持たれる方もいらっしゃるかと思います。確かに、グローバルプロジェクトに関しては、移動が付き物です。個人的な話で申し訳ないのですが、筆者は今週前半、クアラルンプール、バンコクのクライアントと打ち合わせを行い、週の後半はいったん東京に戻ってからまた国内出張です。この原稿も飛行機の中と空港で書いてきましたが、そろそろ搭乗の時間が迫ってきました。書き足りないことも多いですが、この辺で締めくくりたいと思います。

 これまでの10回の連載を通じ、コンサルタントの日常、グローバルプロジェクトの苦労(と喜び)についてお伝えしてきたつもりです。この連載が読者の皆さまのキャリア形成の一助となったとしたら、これに勝る喜びはありません。また、別の企画で皆さまのお目にかかる機会もあるかもしれません。

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