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@IT自分戦略研究所ブックシェルフ(14)
『会社はだれのものか』を読む

@IT自分戦略研究所 書評チーム
2008/8/1

■会社と資本主義

 会社の所有者をめぐる議論を行うには、まず、資本主義の歴史を振り返る必要がある。

会社はだれのものか

岩井克人著
平凡社
2005年6月
ISBN-10:4582832709
ISBN-13:978-4582832709
1470円(税込み)

 現在は「ポスト産業資本主義」の世の中である。ポストということは、以前に「産業資本主義」が支配的な世の中があった。18世紀後半から20世紀後半までの資本主義が産業資本主義である。産業資本主義とは「機械制工場を利益の源泉とする資本主義のこと」(『会社はだれのものか』p.39)。産業資本主義の世の中では、隣と同じ製品を作っていても、労賃(費用)を安く抑えていれば、利益が確保できた。

 しかし、20世紀後半にやってきたポスト産業資本主義の世の中では、「意識的に、収入と費用との間の違いを作り出していく」(同書、p.42)必要に迫られる。新しい技術を導入して製造費用を下げたり、他社と違った製品を市場に投入して、価格を高く設定したり。

 結果的に、カネの経済支配力が弱まった。工場を持ち、人を大量に雇っていれば利益をあげられた時代では、カネの(経済)支配力が高かったといえるが、「違い」を意識的に生み出すことで利益をあげるという時代において、重要なのは「ヒトの頭の中にある知識や能力、ノウハウ、熟練」(同書、p.51)ということになったのである。このような時代の要請に応えられない企業からは、自発的に労働者が離れていく。旧技術を使う企業から、新技術を使う企業へとヒトが流れる。

 ポスト産業資本主義の時代では、組織よりも個人が力を持ち得るといえるのだろうか。そうでもあり、そうでもないといえる。つまり、「多くの人の予想とは反対に、ポスト産業資本主義の時代とは、まさに意識的な違いからしか利益が生まれない時代であるということから、優れた個人の力がものをいう時代であると同時に、優れた組織の力がものをいう時代でもある」(同書、p.82)のだ。

 資本主義とは、利益を生むことを目的とした経済活動である。時代によって利益確保の手段は変わるが、その目的は変わらない。「会社とはそもそも個人の利益追求のための道具にすぎない」(同書、p.86)と、米国の経済学者ミルトン・フリードマン氏らに代表される株主主権論者はクールに主張する。

 では、会社は本当に株主のものなのだろうか。この本のメッセージは「否」である。会社が法的に人格を与えられているのは、近代社会の基本原理である基本的人権の尊重を会社にも適用していることを示している。すべてのヒトは生まれながらにヒトである権利を持っている。これは近代社会の公理だが、「基本的人権という概念自体、はじめは少数の人間のみ通用するバブルのようなものであったのが、いつの間にか多数の人間の共通のファンダメンタル(基本)となった」(同書、p.96)というにすぎない。

 社会的責任を共有し、社会にとって有意義な価値を有するからこそ、社会によって、ヒトとして認められたのが法人である。とするなら、会社は株主のものである前に、社会のものなのではないだろうか、そして、この理念は、資本主義の歴史が続く限り不変なのであると、この本は主張するのであった。(鯖)

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