@IT自分戦略研究所ブックシェルフ(59)
大人になれないわたしたち
@IT自分戦略研究所 書評チーム
2008/10/27
■成熟について
大人のいない国 鷲田清一、内田樹(著) プレジデント社 2008年10月 ISBN-10:4833418886 ISBN-13:978-4833418881 1200円(税込み) |
いまの日本には大人がいない。いるのは「シワシワになった子ども」ばかり。成熟した人間のロールモデルがいなければ、子どもが大人になりたがるわけがない。ゆえに、子どもは子どものままで年だけを取っていく。
この本で記述される未成年者とは「労働し生産することではなく、消費を本務とする人」(『大人のいない国』、p.14)のことである。消費活動を通じてしか自己を表現することができない人々。つまり、わたしたちのことだ。わたしたちのメンタリティは、あらゆるものや事象を「商品」としてとらえる。「消費者が陳列棚の前で商品を選ぶように、あらゆるものについて費用対効果を吟味する」(同、p.15)
わたしたちは、意味や価値が分からないもの(商品)には手を出さない。消費行動とはそういうものだ。自分が買おうとしているものの価値が分からないものに対価を払う消費者はいない。消費者というメンタリティしか持たないわたしたちは、自分にとって未知なる価値や意味を持つ事象を前にすると、それらを存在しないものとして無視するか、無価値なものとして視界の外に追いやる。しかし、このメンタリティに沿う限り、わたしたちが自己の限界に気付き、未知なる可能性の荒野に踏み出すことはほとんどない。つまり、わたしたちは成長しないまま老いていくのである。
「人が成熟するというのは、編み目がびっしりと詰まって繊維が複雑に絡み合ったじゅうたんのように、情報やコンテンツ(内容)が詰まっていく、ということです」(同、p.33)。人は年を取れば取るほど、多重人格化していく、とこの本は表現している。単次元的な切り口で、すぐに善悪を分けたがる現代のジャーナリズムは、日本の非大人化傾向を助長している。人は「一筋縄ではいかない」し、「よく分からない」ものである。複雑で矛盾に満ちた状態をまるごとそのまま受け入れることが成熟への第一歩だ。あらかじめ価値や意味などを問うべきではない。(鯖)
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