@IT自分戦略研究所ブックシェルフ(98)
クラウドで生まれるもの、消えるもの
@IT自分戦略研究所 書評チーム
2009/4/2
■クラウドコンピューティングで何が変わるか
クラウドの衝撃――IT史上最大の創造的破壊が始まった 野村総合研究所 城田真琴(著) 東洋経済新報社 2009年2月 ISBN-10:4492580824 ISBN-13:4492580824 1575円(税込み) |
2006年8月、グーグルのCEOであるエリック・シュミット氏が“cloud”と発して以来、IT系メディアでクラウドという言葉を見ない日はない。それほどまでに、クラウドはWeb 2.0以後の流行語としてもてはやされ、企業広告のキャッチコピーとして多用されてきた。Windows AzureやGoogle App Engine、アマゾンS3、アマゾンEC2など、クラウド技術に関する発表も多発した。
別に、クラウドという言葉自体はどうでもいい。重要なのは、クラウドという現象が現在とこれからのIT社会の姿を示していることだ。クラウドは、アプリケーションもデータもネット上に存在し、それらは必要なときにあらゆる機器から取り出して使える、という技術概念である。
ジャーナリストの西田宗千佳氏は著書でMicrosoft .NETを「現代のクラウド・コンピューティングそのものである」(『クラウド・コンピューティング』、p.170)と述べている。結果的にクラウドは新旧さまざまな技術の集合であり、発明ではない。グーグルのPaaSであるGoogle App Engineが「サービス公開後6週間で15万人以上の開発者がその利用申し込みに殺到するほどの人気を集めた」(『クラウドの衝撃』、p.179)ように、クラウドを含むサービスがユーザー数や売り上げ規模で拡大し、IT社会にますます浸透していく可能性は高い。たとえ、クラウドという言葉が消えても……。
クラウドは、当然、ITエンジニア個人にもかかわることだ。本書の第5章では、クラウドによって、ネットベンチャーや個人の開発者に理想的な時代が到来したと述べている。ITエンジニアは、グーグルやアマゾンが提供する格安の仮想サーバを利用することで、少ないリソースで開発や起業ができる。「優れたアイデアがあり、プログラミングさえできれば、一攫千金も夢ではない時代がくるのだ。第2、第3のミクシィがクラウド・コンピューティング・サービスを利用する企業から生まれても何の不思議もない」(同書、p.179)
第6章では、クラウドがソフトウェアベンダや、サーバメーカー、ネットワーク機器ベンダ、システムインテグレータのビジネスにもたらす変化について述べている。例えば、サーバやストレージといったハードウェア込みでソリューションを展開しているシステムインテグレータは、ユーザー企業がハードウェアを購入する必要がなくなればまず打撃を受ける。次に打撃を受けるのは、IT基盤の構築を売りにしてきたシステムインテグレータだという。「セールスフォース・ドットコムやグーグルが提供するPaaSを顧客が使い始めると、自分たちのコアであったIT基盤の構築というビジネスが奪われてしまうだけでなく、システム稼働後の運用・保守といううまみのあるビジネスまで消滅してしまうからだ」(同書、p.194)
とはいえクラウドは、セキュリティ、データの所在、アクセスログ管理、移植性などにおいて不安がある。社会インフラと化すクラウドが、求められる信頼性を勝ち取ることができるかが課題だ(鮪) 。
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