ITエンジニアよ。チャレンジ精神を抱け
千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2006/8/8
日本人ITエンジニアが不足している状況の中、今後も組み込み開発の分野などを中心にしてオフショア開発の重要性はさらに高まるだろう。それに伴い開発件数も増え、日本人ITエンジニアが海外のITエンジニアと働く機会も増えてくる。海外のITエンジニアとプロジェクトを行ううえで求められるものは何か。 |
野村総合研究所が2005年に発表した調査結果によると、2004年の中国における日本向けオフショア開発・運用の市場規模は約1580億円。2008年にはその4倍の約6940億円に成長すると予測している。これは日本のソフトウェアやアプリケーション開発・運用市場の約5%に当たるという。
オフショア開発がますます活用されていくと予想される中、オフショア開発を成功させるためにはどのようにすればいいのだろうか。そして日本人ITエンジニアが生き残るには? 日本海隆(ハイロン)の取締役社長を務める齊藤肇氏に話を聞いた。
日本海隆は上海交大ハイロンソフトウェアの日本法人。上海交大ハイロンソフトウェアは、物流システムや金融システムなど海外のオフショア開発を中心に、中国国内のシステム開発事業なども行っている。従業員数は、グループ全体で680人。うち500人がオフショア開発に当たっている。
■オフショア開発成功の鍵は「お互いを信頼する」
齊藤氏は、オフショア開発成功の要因として「お互いを信頼することが大事」と話す。オフショア開発でもプロジェクトを進めていくうえで重要なのはプロジェクト内の信頼関係のようだ。
日本海隆 取締役社長 齊藤肇氏 |
齊藤氏は信頼関係を構築するうえで重要なこととして、「対面的なコミュニケーション」を挙げる。例えば基本設計が終わった後に中国に行ってQ&Aをしたり、開発が佳境に入ったら、折々に話をする機会を設けたりする必要があるという。
オフショア開発を発注する日本の企業が気にするのは、中国の企業がどこまでやれるかということや、プロジェクトの進ちょくの状況だ。「ネットやテレビ電話などでそこを全部把握することはできない。言葉の問題もある。具体的な状況や作業の説明ではなく『できるできない』や『やってるやってない』の単純な話になりがちになる。対面の場ならホワイトボードを使うなど、現在の詳細な作業の説明などができる」と齊藤氏は語る。
オフショア開発の経験を積んでお互いの信頼関係が構築できたら、対面的コミュニケーションの頻度は下げてもいいという。しかし、初めのうちは多めにレビューの機会を設けたり、プロジェクトの終了時にはミーティングを行い、反省すべき点や良かった点をお互いで確認することが重要だという。「とにかく最初は気を使い過ぎるくらい使った方がいい」(齊藤氏)
■中国のITエンジニアとうまくやっていくには
中国人ITエンジニアと信頼を構築するに当たっては、まず中国人ITエンジニアを知ることが必要だ。中国人ITエンジニアのメンタリティはどのようなものなのだろうか。
齊藤氏は中国人ITエンジニアの特徴を「利己的な面が強く、メンツを非常に重要視する」と説明する。
例えば、日本人ITエンジニアは当たり前のように残業や休日出勤をするが、中国人ITエンジニアは定時になったら帰ってしまうことが普通だという。もちろん、必要であれば残業や休日出勤を行うが、「最初から当てにしてはいけない」(齊藤氏)。また、人前で怒られたり注意されたりすると非常に気にする。自分が評価されていないと感じたら、すぐに違う会社に移ってしまうこともある。
日本人とは違うメンタリティを持った中国人ITエンジニアとプロジェクトを進めていくためには、「お互いの違いを理解して、現地のやり方に合わせてプロジェクトの進行やITエンジニアの管理を行った方がうまくいくことが多い」と齊藤氏は話す。
中には日本のITエンジニアに指示を出す感覚で、オフショア先のITエンジニアに指示を出すプロジェクトマネージャもいるが、日本のやり方を持ち込んでもうまくいかない。「状況を現地のマネージャと話し合い、どういう手を打つのかは相談のうえ、現地のマネージャに任せた方がよい」(齊藤氏)という。
■中国人ITエンジニアは脅威か
さて、日本人ITエンジニアの中には、中国に限らずインドなどのオフショア先のITエンジニアに対して「仕事を奪われてしまうかもしれない」と脅威を感じている人が少なからずいる。若年層の理系離れと相まって日本人ITエンジニアの数が減少することが考えられる。すると、相対的に日本のIT業界の競争力が低下する可能性はある。
齊藤氏は「若い日本人ITエンジニアが進んでいく方向は2つある。1つは誰にも負けないよう技術に特化する方向。もう1つは要件定義やプロジェクトマネジメントなど、オフショア先にできないことをしっかりと行っていく方向」と話す。
続けて齊藤氏は「あまり管理する人間ばかり多くても、産業が空洞化する可能性がある」として「ITエンジニアは社会を支える屋台骨。ITエンジニアの価値を高めるために企業や国が対策を取ることが必要になってくるだろう」と指摘した。
■若いITエンジニアよ。チャレンジ精神を抱け
最後に齊藤氏は日本人ITエンジニアに伝えたいこととして「チャレンジ精神」を挙げた。「『これをやる』と決めて、計画を立て実行する。その結果から得たものを身に付ければ、次にステップアップするときの大きな経験になる」と齊藤氏は語る。
齊藤氏が「チャレンジ精神」を重要視するのは次のような経験があったからだという。齊藤氏が以前勤めていた会社に外国の資本が入った。それまでできなかった英語を苦労しながら身に付け、アメリカなどでも仕事をするようになった。
海外で働いて良かったことは、「それぞれ違うってことが分かったこと」と齊藤氏は話し、「日本のやり方が正しいのではなく、それぞれのやり方があることが分かった。違いを是正することは簡単ではない。まずはあるがままに認めることが大事」だとした。
違いを認めるためには違いを知ることが必要だ。そして、違いを知るためには実際にさまざまなことに取り組んだり、自分と文化や価値観の違う人の話を聞いたりすることが求められる。それまで気付かなかった自分の長所や短所を知ることもあるかもしれない。違いを知り、自分を知ることが自分を成長させるスタートラインになるだろう。
関連記事 | ||||
|
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。