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ITエンジニアは技術で新大陸を目指せ!

長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2006/9/27

「IT業界離れ」という言葉を耳にすることが多くなってきた。いまやIT業界は「3K」ともいわれ、就職を希望する人数も減少傾向にあるという。そんな厳しい環境の中、ITエンジニアが生き残っていくにはどうすればいいのか。ITエンジニアの教育に注力する稚内北星学園大学 学長の丸山不二夫氏に話を聞いた。
 

ITエンジニアの現状

 丸山氏は「稚内北星学園大学本校の受験生は減少している。ITを仕事にしていこうという人が少なくなってきていることが背景の1つ」という。逆に、社会人を対象とする稚内北星学園大学・東京サテライト校には、その厳しいIT業界で頑張っていきたいという学生が集まっている。「積極的な影響も消極的な影響も、両方受けていることになる」ということだ。

稚内北星学園大学学長 丸山不二夫氏

 丸山氏自身、身近なITエンジニアの現状を見て「大変だな」と感じることは多い。「東京サテライトの社会人学生に残業は当たり前、家に1週間帰れなかったなどの話を聞くと、ITエンジニアが減るのも仕方がないという気がする」という。しかし社会人学生は、仕事が忙しい中、何とか時間をやりくりして通学しているわけだ。「そういう意味では、本当に技術が好きで仕事を続けたい人が集まっている」

 IT業界離れは「技術に魅力がなくなったためではない」と丸山氏は話す。「一番いえるのは、環境が悪いにもかかわらず、仕事に面白さを感じて頑張っている人がちゃんといるということ。技術自体に魅力がなくなったわけではないんです。日本のIT業界の持っている構造自体、もののつくり方やお金の払われ方が問題で、どこかで構築変換をしていかなければいけないと思っている」。その変換を丸山氏は「旧大陸から新大陸への移動」と表現する。

旧大陸から新大陸へ

 新大陸へ移動すると、何が変わるのだろうか。丸山氏は新大陸について「ものづくりでビジネスが成功する、ハッピーな世界」と話す。ITエンジニアにもこの厳しい状態が長く続くわけはないという気持ちがあり、新大陸の話題は非常に共感を呼んでいるという。「いろいろな形で、新しい大陸を目指す方向にエネルギーがたまっていくと思う」

 「現状からどこかへ旅立とうという欲求が1つの大きな動きになったとき、ITエンジニアの地位が変わるんじゃないかなと思っている。いまはそういう地殻変動が準備されている段階」

 そのために必要なのは、「例えば米グーグルのような、ビジネスの成功事例をつくること」と丸山氏は指摘する。「ぼくら自身が成功事例をつくり出していかないといけない」

技術が社会を、ビジネスを変えていく

 丸山氏はITエンジニアに対し、「技術には社会的なインパクトがあり、社会全体を変える力を持っていることを確信してほしい」という。社会の変化として「新しい高速のネットワークがどんどん進歩すると、会社と会社の関係だけでなく人間と人間の関係もどんどん変わっていくし、いままでできなかったコミュニティもできてくる。いろいろな新しい技術の宝庫ができる」という例を挙げた。「技術で頑張ってブレイクスルーをつくった人たちが成功できる。日本でもたくさんの成功者が生まれてくることを期待しているし、たぶんできるんじゃないかな」

 そのようにして成功事例ができれば、技術に対する社会的な評価も上がっていくと丸山氏は話す。「技術自体がインパクトを持って社会を変えていく、ビジネスも変えていく。そういうモデルをつくる必要がある。そのためには若い人に技術の展望、ビジネスの展望を両方持って頑張ってもらいたいと思っている」

自立への道

 ITエンジニア個人は、具体的にはどう動いていけばいいのだろうか。東京サテライト校の社会人学生には、「基本的には自立しなさい、Independent Contractor(独立契約者、IC)の道を考えなさいというメッセージを出している」そうだ。「乱暴ないい方をすると、会社は辞められるのなら辞める。それを自分で選ぶ」。技術が好きなのであれば、業界の構造自体を変えていく道に踏み出した方がいいという。

 そのための第一歩は、「独立すること、力を付けて自分の腕で仕事を取ってこられるようになること」だという。それが1人でできなければ、そういう人たちが協力して助け合うコミュニティをつくってもいいのだ。

 もし業界の構造がずっといまのままであったら、「よほど力のある人、大きな会社にいる人は別にして、普通のITエンジニアには大していい未来はない」と丸山氏は話す。「独立して、かつ新しい技術を受け入れられるようなスキルを高めながらビジネスチャンスを狙う。それを誰かがやっていかないと、技術離れはたぶん止まらない」という。

 幸いなことに現在は「Web 2.0とかマッシュアップとか」、1人でもできるビジネスの形態も豊富だ。いわば「正規軍から軽騎兵に変わる」ことで、業界の構造に風穴を開け、自分のビジネスを展開でき、技術にも誇りを持てる。そういうモデルをつくる。それが新大陸に移るための1つの手掛かりであり、「旧大陸にいる限り、ITエンジニアは救われない」という。

ITエンジニアは独立自営農民を目指せ!

 東京サテライト校では、学生全員に上流工程を教えている。丸山氏は「一番うれしかったのは、皆が『非常に面白い』と感想をいうこと。『ずっとコードを書いていたが、上流でこういう設計をしたためにこの仕様になったということが分かった』と。悲しかったのは、『面白いけど、自分のいまの仕事にとっては意味がないです』といわれたこと」と経験を語る。

 つまり、「本人の意志や能力、上流を知っているか知らないかに関係なく、どこにいるかで評価が決まる」ところに問題があるのだという。「いくら上流を知っていても仕事には生かせない。そんな状態なら、辞めて自分でいい仕事を探せといっている。自分のスキルに確信を持ち、上流も下流もできるのであれば、それをきちんと評価してくれるところにいった方がいい」

 丸山氏は、ITエンジニアの理想系は「1人で全部できる人」だという。「上流から下流まで分かって、お客さんともコミュニケーションできる人。規模は小さくなるかもしれないがこういう人を教育して増やしていきたい。歴史でいえば独立自営農民」と笑う。

 「2次請け、3次請けを脱しようと思ったら、たぶん独立自営が一番の近道だと思う。本当に技術が好きで、それで食べていけるモデルとして説得力がある。この独立自営モデル、ICモデルが広がれば、IC同士が連携しコミュニティで助け合うことができる。実際、そういう動きは始まっている」という。

日本のITエンジニアは技術を正当に評価されない?

 一方で丸山氏は「『ITエンジニアはコミュニケーション能力がなければダメ』というのは間違っている」という。「例えばプログラマが上流を知らないといけないとか、コミュニケーション能力がないといけないとかいうのは違うと思う。それは技術の軽視につながる。いくらコードを書いても評価されないことが問題なのであり、能力を正当に評価する枠組みが必要」

 米国などでは、プログラムを30〜40年書き続け、評価され尊敬を集めている人の例もあるという。「日本にはそういう例が少ない。コードを書くのはオフショアでとか、プログラマは劣っているとかいう見方をする。技術の力を信用していないことの表れであり、ずっとプログラムし続ける人を雇うほどの余裕が日本の会社にないということ。これは貧しいことだと思う。社会自体が大事にしないのだから、技術離れは当然ともいえる。実際には力があるのはプログラムをうまく書ける人。技術で生き残れるモデルをつくらなければいけない」

ITエンジニアに再教育を

 丸山氏は、技術の空洞化が進む現状に警鐘を鳴らす。「若者の人口が減り、IT業界の人気がなくなり、技術の担い手が少なくなっている。『開発はオフショア先に任せて上流だけ押さえていればいい』と思っているかもしれないが、それは非常に楽観的な考え。それぞれの技術をベースに競争力を高めていくのであれば、技術力のないところが競争に弱くなるのは当然」という。

 技術の空洞化を防ぐための1つの方法として、「技術の変化に応じたITエンジニアの再教育が絶対に必要」だという。「重要性を認識し、再教育を制度化しないと、ITエンジニアは使い捨てにされる」と丸山氏は警告する。

 こういった再教育は、会社や個人に任されているのが現状だ。「どんなに優秀であっても、技術に対する社会のニーズ自体が10年でがらっと変わってしまう。一生懸命頑張ればキャッチアップはできるが、働きながらそうするのはとてもつらいこと」と丸山氏はいう。

 「だからこそ、再教育を制度として組み込んでいかないといけない。ぼくらは大学でそれをやろうとしている」

 労働環境や業界の構造そのもの、技術軽視の傾向、キャッチアップの大変さなど、IT業界離れにはさまざまな原因がある。それらをつぶしていくことが必要だ。それが丸山氏のいう「新しい大陸」に移動することにもつながるのだ。「新大陸へ、技術の力で渡っていくこと。やはり技術は大事なんですよ」と丸山氏は語った。

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