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現場で使えるメンタルヘルス改善講座

第7回 手本を探す前に、まず自分が手本になる

樋口研究室
飯田佳子

2009/5/29

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過酷な環境にさらされながら、常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。メンタルヘルスをうまくコントロールするには? 樋口研究室の「ITコーチ」たちが、現場でいますぐ使えるメンタルヘルス改善のワザを教えます。

できる先輩と一緒に仕事がしたかった

 夢と希望を持って会社に入った。でも、しばらくして分かったことは、自分の思っていたものは、まったく手に入らないということ。尊敬する先輩に囲まれ、やりがいのある仕事をこなし、毎日が充実。そんな自分を想像していたのに、全然違う。これが続くと、モチベーションも、なかなか上がりません。今回は、そういうときに、どうやって乗り切っていけばいいかを考えてみたいと思います。

 入社5年目になる、Aさん。いつもわたしのところに、アドバイスを求めて、やってきます。

 先日、大学の同期会があったそうで、懐かしい友人たちと食事に行ったそうです。そのときのことを思い出しながら、Aさんは悔しそうにいいました。

 「わたしは、同期の中で、一番不幸だ……」

 同期は、皆イキイキと仕事をしていました。SIベンダで営業をしている同期は、自分の書いた提案書が採用されて、契約を獲得したといいます。ITサービス業でプログラミングしている同期は、ようやく設計を任されたといいます。半導体メーカーで組み込みソフトを開発している同期は、自分の作ったロジックが組み込まれた携帯電話が売り出されたといいます。

 ところがAさんは、5年間仕事をして、同期に語れるものが、何1つありません。Aさんが担当していたのは、あるパッケージソフトの導入や技術支援。障害が多くて、仕事は大変です。日々の仕事をこなすだけで時間が過ぎて、気が付いたらもう5年。それなのに、同期に語れる、自慢できる仕事が、何1つない。わたしは、いったい会社で、何をしていたのだろう……。

 え、本当に自慢できることが1つもないの? わたしは疑問に思いました。わたしが知る限り、Aさんは、仕事は一生懸命やっています。業務の知識やノウハウも、身に付けているのだけれど……。

 でも、もしかして、Aさんが期待していたものが、得られてないのかも。わたしはそう感じました。そこでわたしは、Aさんが会社に期待していたものは何なのか、尋ねてみることにしました。すると、Aさんはいいます。

 「お手本になる先輩が、そばにいてほしかったのです」

 Aさんの同期には、出来の悪かった人も、たくさんいたそうです。でも、そんな同期も、会社の先輩や上司に鍛えられて、仕事のやり方を学んだ。Aさんは、そういいます。

 ところが、Aさんの周りの先輩や上司を見ると、現場でトラブルが起こるとドタバタしているし、人から指摘されたらドギマギしているし、お客さまにはペコペコしている。およそ、自分の考えていた仕事場ではありません。でも先輩や上司に恵まれた人は、自分より強く大きく育っている。Aさんはいいます。

 「わたしは損をしている。もっと優秀な人と一緒に仕事をしたかった……」

 どうもAさんは、同期の様子から、自分だけ取り残されている感じがして、心の隅にあった不公平感が、一気に噴出してしまったようです。

自分が正しいかどうか確かめてみる

 皆さんも、こういう不公平を感じる場面に出くわすことはないですか。会社では、実力に見合わない高給取りや、人によって違う仕事の量。生活では、住む場所で違う福利厚生、車を持つ人だけの割引制度。まあ、確かにそうだなと思いますが、それでうまくいっているケースが多いことも事実です。いまは損でも、何年かしたら、得する立場に変わっていたりするものです。

 わたしは少し考えました。いまは、理想の先輩が周りにいないAさん。そういうAさんも、いつかは先輩になって、後輩を指導する立場に変わっているはずです。Aさんが先輩だったらどうするのだろう? わたしはAさんに尋ねてみました。Aさんはいいます。

 「後輩には、自分から声掛けをして、場を盛り上げたいと思います。自分にできない仕事なら、すぐ専門家を呼んで、支援を受けたいと思います。みんなが嫌がる仕事は、自分から進んで引き受けて、一緒にやろうと思います」

 なるほど、それができると、本当に立派な先輩になれますね! 同時にAさんご自身も、この行動が実践できたら、人に十分、自慢できる話になるのではないかな。そう感じました。

 ところがAさん、行動に移すには、少しちゅうちょしてしまうそうです。Aさんはいいます。

 「やっぱり、お手本がないと、自分の思っているやり方が正しいかどうか分からないので、不安です」

 わたしはこれを聞いて、分かりました。Aさんは、自分の行動が正しいかどうかを知りたい。そのため、お手本となる先輩にそばにいてほしい、そう思っているのではないでしょうか。

 自分の行動が正しいことを確かめるには、いくつかの方法があります。そこでわたしはAさんに、以下の3つの依頼をしてみようと思いました。

 1つ目は、お客さま(ユーザー)と会ったら自分から必ず挨拶をする。2つ目は、困ったときは、すぐに助けて! と叫びながら支援先を探す。3つ目は、会社のセキュリティ委員に立候補して、机の上に出しっぱなしの書類や資料を社員全員で片付ける。そうなのです。わたしの依頼はすべて、Aさんの先輩像とマッチした依頼なのです。

 これを聞いたAさん。最初は、あまり乗り気ではありませんでした。だって会社の中で、そんな積極的な人、見たことがないのですから、仕方がありません。とはいえ、不満が多くて前進できないときは「まず、自分ができることをやる」、これが一番です。わたしは、Aさんと会うたびに、口をすっぱくして同じ依頼を繰り返し、お願いし続けました。

不満脱却の3行動  

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