ITエンジニアが知って得する、簿記・会計入門

第3回 イナバ君、ここまで理解すれば簿記3級レベル

日本公認会計士協会準会員
小澤文子

2008/6/16

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企業の情報システムにおいて、各種業務システムと会計システムとの連携は大変重要です。、ITエンジニアとして会計システムに触れる人も多いのではないでしょうか。本連載は、そんなITエンジニアを対象に、ITエンジニアとして会計システムに携わった経験のある筆者が会計知識の基礎を解説します。

  前回のおさらい

ブンコ先生 今回でいよいよ最終回! まずは前回(第2回「イナバ君、簿記を覚えてパン屋さんの決算書を作る」)のおさらいから。前回は、専門用語がたくさん出てきたけれど、ちゃんと覚えているかな?

イナバ君 おやつを食べながらしっかり復習してきました(笑)。前回覚えたことは……

・企業は「簿記」という技術を使って「決算書」を作成する

・「簿記」には一連の流れがあり、それは会社の「取引」を2つの視点で分解することから始まる

・「取引」を分解すると、(1)資産の増加(2)資産の減少(3)負債の増加(4)負債の減少(5)純資産の増加(6)純資産の減少(7)収益の発生(8)費用の発生の8要素から2つを組み合わせたもので表現できる

・資産・負債・純資産・収益・費用に属する勘定科目を用いて、「借方」「貸方」を意識しながら「取引」を「仕訳」する

・「仕訳」を記帳する主な帳簿(主要簿)として、「仕訳帳」「総勘定元帳」の2つがある

ふーっ、盛りだくさんでした!

ブンコ先生 なかなかよく整理できているわね。この調子で、決算書作成に向けて一気に具体的な処理を見ていきましょう。

登場人物
イナバ君
名前:イナバ君(あだ名はイナバ部長)
立場:新人プログラマ
出身:九州
体重:123kg ウェスト:123cm
ブンコ先生 名前:ブンコ先生
立場:公認会計士の卵
趣味:子ども、動物と遊ぶ
心境:一生懸命なイナバ君が可愛い

1.試算表を作成する

ブンコ先生 前回出てきた「簿記の基本的な流れ」に従って、「集計」のステップで必要な「試算表」を作成してみましょう。試算表は、総勘定元帳から勘定科目の残高をまとめて一覧形式にしたもので、仕訳帳から総勘定元帳に正しく転記されたかをチェックするためにも使うものなの。

イナバ君 基本的な流れの中では、月末に集計作業を行うことになっていましたよね。

ブンコ先生 集計するタイミングは、最低でも年1回、決算時には必ずやらなければならないことだけれど、多くの会社では毎月集計を行って、月次で会社の財務状況をチェックしているのよ。

イナバ君 1年分まとめてチェックするのは大変だろうなあ。僕のパン屋も月次で集計してチェックすることにしよう。

ブンコ先生 試算表の種類にもいくつかあるけれど、ここでは「合計残高試算表」という形式のものを取り上げるわね。これは、一定期間における勘定科目ごとの借方合計、貸方合計、残高の一覧表なの。前回作った総勘定元帳を見ながら、さっそく作ってみましょう。

合計残高試算表
2007年6月30日
借方
元帳の
ページ
勘定科目
貸方
残高
合計
合計
残高
500,000
600,000
1 現金
100,000
 
200,000
200,000
10 材料
  
 
500,000
500,000
20 機械
 
 
 
 
30 借入金
900,000
900,000
 
 
40 資本金
100,000
100,000
 
 
50 売上
300,000
300,000
100,000
100,000
70 給料
 
 
1,300,000
1,400,000
合計
1,400,000
1,300,000
図1 合計残高試算表イメージ

イナバ君 残高の合計も、合計の合計も、借方と貸方で一致しましたね!

ブンコ先生 そうそう、簿記の世界では、常に貸借のバランスをチェックしておくことが大切なのよ。試算表には、この中の残高のみを記載する残高試算表と呼ばれるものもあるので、一緒に覚えておいてね。

2.決算手続き

イナバ君 簿記の基本的な流れにあった「決算」とはどのようなものですか?

ブンコ先生 「決算」では、会社の年度末に試算表を基に決算整理を行って、決算書を作成するのよ。ちなみに、決算整理の前に作成する試算表を「決算整理前残高試算表」、決算整理の後に作成する試算表を「決算整理後残高試算表」と呼んで区別しているの。さて、イナバ君のパン屋で必要な決算整理の例としては、会社に残っている製品や材料などを確認して必要な仕訳をしないといけないわね。

イナバ君 確かに、材料を加工して作ったパンを売ったときには、材料の減少に関する仕訳は何もしませんでしたね。そうか、それは年度末にやることだったのか!

ブンコ先生 そうよ。ちなみに、イナバ君のパン屋で月次決算を採用するならば、月末にやればいいのよ。実務ではほかに原価計算という手続きも必要なのだけれど、ここでは以下の簡略化した仕訳を基に、決算整理後の試算表を作ってみてね。

(借)仕入 200,000 (貸)材料 200,000 ……期首の材料を、いったん全部仕入勘定へ
(借)材料 50,000 (貸)仕入 50,000 ……期末に残っている材料分だけ、仕入勘定から
   材料勘定へ戻す
(借)仕入 100,000 (貸)給料 100,000 ……期中に発生した給料全額を、仕入勘定へ
※今期に作ったすべての製品が売れたという設定のため

イナバ君 ときは一気に年度末へ、と。貸借の一致を確認して……、こんな感じになりました。

合計残高試算表
2008年3月31日
借方
元帳の
ページ
勘定科目
貸方
残高
合計
合計
残高
500,000
600,000
1 現金
100,000
 
50,000
250,000
10 材料
200,000
 
500,000
500,000
20 機械
 
 
 
 
30 借入金
900,000
900,000
 
 
40 資本金
100,000
100,000
 
 
50 売上
300,000
300,000
250,000
300,000
60 仕入(売上原価)
50,000
 
0
100,000
70 給料
100,000
 
1,300,000
1,750,000
合計
1,750,000
1,300,000
図2 イナバ君が作成した合計残高試算表イメージ

ブンコ先生 よくできました! この後、損益振替という処理を行って利益を計算すると、いよいよ決算書の出来上がり!

【キーワード】損益振替
収益・費用に属するすべての勘定の残高を、ここで新たに設けた「損益勘定」に振り替えることにより、純利益(“収益>費用”の場合)または純損失(“収益<費用”の場合)を算定する。
収益の勘定の損益振替仕訳……これで売上勘定の残高は0になる!
(借方)売上 300,000 (貸方)損益 300,000
費用の勘定の損益振替仕訳……これで仕入勘定の残高は0になる!
(借方)損益 250,000 (貸方)仕入れ 250,000
この結果、損益勘定の残高300,000−250,000=50,000(貸借差額)が、純利益50,000ということになる。

イナバ君、システム屋として大切なことを学ぶ

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