第1回 プロマネの楽しさとつらさはどこにある?
スターフィールド 星野幸代
2005/11/10
プロジェクトマネジメントの方法は、各企業によって特徴があろう。さまざまな制限を課せられたプロジェクトマネージャは、どのようにしてプロジェクトをマネジメントしているのだろうか。本連載では、現役のプロジェクトマネージャに登場していただき、実際にどうプロジェクトを進めているのか。またプロジェクトに対する考え方などを伺っていきたい。 |
プロジェクト・マネジメントの現場には、それぞれの企業が抱えるビジネス課題があります。その課題に立ち向かってきたプロジェクト・マネージャは、どのような考えを持ち、どのような経験をしてきたのでしょうか。
もし皆さんの中でプロジェクトマネージャ(プロマネ)を目指したい人、プロマネを数年経験したが、スケールアップを図りたい人、または企業の中でのプロマネの在り方を考えたい人であれば、現場で戦っているプロマネの言葉から、何かヒントがつかめるかもしれません。
今回話を伺ったのは、いま勢いのある大手外資系生命保険会社の情報システム部の部長であるN氏です。
■社内のプロジェクト推進の実態
星野 御社では、プロジェクト方式での仕事の進め方は浸透していますか。
N部長 はい、かなり浸透しています。ただし、当社の特徴でもあるのですが、プロジェクトの在り方は、マネージャ個人に委ねられている部分がかなり大きいと感じます。
例えば、生命保険商品開発のような一部の全社プロジェクトを除くと、プロジェクトマネジメントの決められた管理方式やフォーマットなどは、基本的にありません。しかし、会社の規模が大きくなるとともに社会的責任も大きくなってきますから、プロジェクト管理体制を整えるようになりました。
星野 かなり自由な社風のようですね。プロジェクト管理体制は、具体的には?
N部長 品質管理のレビューを行う「品質管理担当」と、プロジェクトを横断的に監視するための「PMO」(Project Management Officer)を情報システム部内に配置しています。
具体的には、コンプライアンス(法令順守)や個人情報保護の観点から、各プロジェクトを定期的にチェックしています。また、コンプライアンス部や、法務部といった他部署との情報交換にも役立っており、プロジェクト推進のうえでとても助かっています。
■マネジメントスタイルはあるのか
星野 N部長は、社内のとても大きなプロジェクトを任されていたそうですが、ご自分のマネジメントスタイルとして、プロジェクトの重み付けするならば、組織・顧客・メンバーをどのような割合で遂行していると感じられますか。
N部長 面白い質問ですね。私の場合はほとんど社内システムなので、顧客の部分についてはユーザー部署がしっかりとケアすることを前提にプロジェクトを進めています。従って、組織・顧客・メンバーの重みでいうと、3:2:5といったところでしょうか。というのは、プロジェクトの調達マネジメントが一番難しく大変だと感じますから、どうしてもメンバーに重みがかかります。プロジェクトのスケジュールやリスク管理に直接響いてきますからね。
星野 なるほど。では、具体的にN部長のご経験の中で、一番印象的なプロジェクトについて教えてください。また、そのプロジェクトでは、先ほどの組織・顧客・メンバーの重みは、どうでしたか。
N部長 印象深いのは、コールセンターシステムの再構築プロジェクトですね。数年前に稼働したコールセンターシステムが、お客さまの増大に伴い処理が追いつかなくなってしまい、新システムでは複数拠点にシステムを配置する大規模化が求められました。性能を一番において、システムインフラの整備から利用技術の選定など、課題は山積みでした。
初めて外注した大手ベンダのスキルに不安を感じ、実は、社内メンバーで単体テストを行いました。通常のプロジェクトではここまでやりませんから、かなりプレッシャーがあったということです。いまから思うと、組織・顧客・メンバーの重みは5:0:5だったでしょうか。
星野 組織が5ですか。
N部長 はい。実はこのプロジェクトは当社だけでなく、グループ各社も注目していたため、プロジェクト状況を報告する先がいくつもありました。つまり、経営層のステークホルダーがたくさんいたということですね。
後から後からプロジェクト関係者として、経営層のメンバーが増えていくのも、この会社の特徴かもしれません。しかし、プロジェクト規模が大きいとそのようなことも往々にしてあるのだと思います。いまから思うとグループ全体の会社組織を知るいい機会とはなりましたが(苦笑)。
星野 経営層の変化が激しいという外資系の特徴が、そうしたところにも表れているようですね。プロジェクトの規模によっては、マネジメントスタイルが変化せざるを得ないということですね。
■プロジェクトマネジメントの面白さとつらさ
星野 プロジェクト・マネジメントの面白さ、それとつらさはどの辺にあると思いますか。
N部長 面白さはやはり達成感でしょう。逆につらいのは、プロジェクトの方向性が明確でないままスタートしたときでしょう。プロジェクトの推進が困難と分かっていても、結果を出せといわれることがあります。
また、3カ月といった短期のプロジェクトも手掛けましたが、それは忙しいですよ。でも、1つ1つのプロジェクトの経験がいまに生きていると感じます。
■プロジェクトマネージャの育成
星野 今後、会社のプロマネの育成をどのように進めていきたいと思いますか。
N部長 個人的にはPMBOK(the Project Management Body of Knowledge)などの知識の利用は、各プロマネの判断で行えばよいと思っています。
基本的には、知識習得の研修や仕組みよりも経験が一番の自信につながると思います。ですから、私の場合、プロマネを「育てる=任せる」としています。その代わりに「基本的にプロジェクトマネージャ本人がアラートを上げる必要がある」という前提をきちんと伝えます。
■プロジェクト・マネージャ志望者に伝えたいひと言
星野 これからのプロジェクトマネージャ志望者にひと言お願いします。
N部長 プロジェクトマネージャは、「小規模の会社経営者」と同じです。達成感を味わえるか否かは、本人次第です。やりがいを感じてほしいし、そのような人をいつも応援したいと考えている人間も周囲にいることを忘れず、ぜひ、臆することなくチャレンジしてもらいたいですね。
星野 とても力強いお言葉をいただきました。本日はお忙しい中ありがとうございました。
■インタビューを終えて
外資系企業の勢いとスピードとは裏腹に、プロジェクトのメンバー1人1人の資質や経験を積むことを大切にしている点は、少し意外な感じがしました。しかし、「育てる=任せる」のN部長のスタンスは、何よりもメンバーとの信頼関係が築かれていることの表れであると実感しました。
現役のプロジェクトマネージャに、「プロマネは小規模の会社経営者」という言葉を投げても、この会社では誰も驚かないのかもしれません。年齢や経験にとらわれない自由な社風の中で培われた社員の行動力は、自然と、経営者的な考え方を持つプロマネの資質へとつながっているのではと感じました。別の見方をすれば、プロマネでなくとも、プロジェクトメンバーの1人1人がプロジェクトマネージャの意識を持ってプロジェクトに参加しているのかもしれない、そう感じさせるインタビューでした。
調達マネジメント……プロセスでいうと、(1)プロジェクトの内部メンバー/外注メンバーの調達・引合計画、(2)実際の外注の運営、(3)外注評価を行うこと。外注の契約関係処理も含まれる。
ステークホルダー……プロジェクトに関与しているか、またはプロジェクトの実施や結果によって利益にプラスまたはマイナスの影響を受ける個人や組織。
筆者プロフィール |
スターフィールド 星野幸代(ほしのゆきよ) 独立系ソフトウェア会社にシステムエンジニアとして勤務した後に、外資系生命保険会社のシステム部で12年間、プロジェクトマネジメントを経験する。現在は、中小企業のIT化コンサルティングサービスをはじめ、eラーニングビジネス支援を中心とした教育サービス事業を営む。認定プライバシーコンサルタント(CPC)。 |
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