最終回 顧客の「真の要求」が分かる技術者を目指せ
前田卓雄
2008/12/12
ソフトウェアを創造するエンジニア。しかし、その仕事は本当に「創造的」だろうか。仕事を創造的なものに変え、価値を生むための発想法を紹介する。 |
毎日忙しく仕事に追われていると、アイデア出しが重要なことを忘れてしまう。しかし、ある1つの商談をめぐって競合が発生すれば事態は一変し、顧客を勝ち取るために競合他社に勝つ「提案」が必要になる。あるいは、昨今の景気後退のように、市場の急激な変化によって自社の製品やサービスの売れ行きが下降気味になれば、新たな情勢に適した「新しい製品やサービス」を生み出すことが必要だ。アイデアが必要になるのは、このような局面であることが多い。顧客に「なるほど」といわせるだけの説得力のある提案や、「これはすごい」といった感動を起こさせる何かを生み出さなければならない。
もちろん、製品やサービスによっては、市場が成熟し、価格だけで勝負しなければならないというものもある(図1は、製品やサービスが生まれた後、市場が成熟するにつれて、競争の中身が「新鮮さ」から「価格競争」に変化する過程を示している)。人脈だけが頼りのセールスもある。しかし、このような対応だけでは先細りは明らかだ。将来性のある製品やサービスを生み出さなければならない。少なくとも現状を打破する考え方やアイデアが必要になる。
図1 製品やサービスの成熟に伴い、求められるものが変化する 出展:『TRIZ実践と効用−体系的技術革新』 Darrell Mann著 |
■アイデアが具体的に必要な場面
商品展示会や新製品発表会を通じて、一度も面識のなかった顧客と初めて商談をする機会。あるいは、自社の商品への問い合わせや提案依頼を受けて得た顧客との接点。日常のビジネスの現場には、このような場面がたくさん存在している。あなたもIT製品や情報システムのビジネスにかかわっていれば、既存顧客だけでなく、新たな顧客へさまざまな提案をする機会に恵まれていることだろう。
このような機会に、どのようなアプローチをしているだろうか。まず、自社製品の機能やサービスの特徴、優れた点を強調するだろう。しかし多くの場合、それだけで顧客から受注を獲得することは難しい。顧客の視点から見れば、ベンダから製品やサービスを勧められても、顧客の抱えている問題に応えていなければ意味がない。換言すれば、自社の製品やサービスがいかに優れていても、顧客が購入してくれなければ自己満足に終わる。
どうすれば、あなたの提案が採用されるだろうか。
- 顧客の抱えている問題に応えられる豊富なアイデアや提案材料を出せる
- 豊富なアイデアから問題を解決する具体的提案が形成できる
- お仕着せではなく、顧客が自由に選択できる
- 提案の費用対効果が明らかである
これらが実現すれば、あなたの提案が採用される可能性は高まる。アイデア出しの方法論はこれらを実現する。
■顧客の問題への一般的なアプローチ
新しい情報システムを提案する場合で考える。顧客の問題をつかむために適用可能な方法が、すでにいくつも用意されている。図2に示したいくつかのモデルは、それぞれの方法で組織の姿を表現したものである。
図2 顧客企業を見る視点 |
例えば財務モデルであれば、「財務分析」という手法を通じて、顧客の財務上の現在の問題を抽出し、財務上の課題を指摘することができる。もし商品の在庫高が増加傾向にあれば、あるいは在庫回転率が悪化傾向を示していれば、販売量の割に仕入れが過剰になっていて、両者がうまくかみ合っていないことが想定される。さらに、なぜそうなるのかを業務レベルで原因を追究しよう。例えば、商品別に分析すれば、「ある商品に特有の問題がある」「仕入れに必要な情報が不足している」「不確かな受注情報や在庫情報が在庫を増大させている」などのように、ほかのモデルとかみ合わせた分析が可能だ。こうして、具体的な問題の原因をつかむことができる。
図2のそれ以外のモデルから始めても、同様に経営課題を抽出できる。重要なことは、抽出された経営課題を確認したうえで、あなたの提案によってその解決が可能であり、顧客があなたの提案を採用すれば、期待する経営成果につながる、ということをはっきり示すことである。このため、経営効果とはどのようなものかをはっきりとつかみ、顧客と共有しなければならない。
図3は、企業が通常求めている経営効果を列挙したものである。どんな企業にとっても、すべての経営努力の目的は図3に列挙した経営効果を達成することにある。もちろん、経営効果は定量的に表出されて初めて具体的なものとなる。つまり、提案は経営効果を具体的に、とりわけ定量的に示すことが大切になる。
図3 企業が求める経営効果 |
あなたは提案を通じて、次のようなことを具体的に示す必要がある。
- その提案が、なぜ顧客企業の経営効果を高めるのか
- その提案の中にはどんな選択肢が含まれているのか
- いくら投資すればそれに見合った経営効果を「いつ」「どれくらい」獲得できるのか
- 何から始めてどのように移行すればよいのか
これらを踏まえたうえで、自社の提案が競合他社に比べてどのように優れているのかを具体的に示す。勝機はこうして生まれる。
アイデア出しが役立つ場面 |
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