ネットワークエンジニアを目指せ!

企業の基盤を支えるのがネットワークエンジニアの役割

加山恵美
2003/11/7

 新日鉄ソリューションズ シニア・マネージャーの加本靖浩氏はこれまで、ネットワークも含めたシステム全般の構築やコンサルティングを中心に行ってきた。ネットワーク技術の変遷を10年以上見てきた加本氏にとって、ネットワークエンジニアは、またITのネットワーク分野はどのように映るのだろうか。

加本靖浩氏(新日鉄ソリューションズ
基盤ソリューション事業部 コンサルティング&エンジニアリング部 コンサルティンググループ シニア・マネージャー)

1993年新日本製鐵に入社。エレクトロニクス・情報通信(EI)事業部にてネットワーク基盤技術を担当。2001年、事業統合により新日鉄ソリューションズに出向。2002年から基盤フレームワーク策定に従事。現在は、同社にて官公庁ネットワーク構築プロジェクトのチームリーダーを担当している

ネットワークはシステムの基盤

 加本氏はシステム基盤を担当している。システム基盤にはネットワークがあり、さらにセキュリティやデータベースを搭載するサーバ群もその守備範囲となる。

 ネットワークエンジニアといえば、当然だがネットワークの構築、つまりネットワーク機器を接続することが業務の中心となる。加本氏は「ネットワークエンジニアの役割とは送りたいところに正しくデータを送ること。そうした環境をつくり(正しくデータを送れることを)保証すること」と定義する。これこそがネットワークエンジニアの原点であると。

 ネットワークを構築するためには、構成を設計したり、ケーブルなどの配線を実際に行ったり、ルータやスイッチなどの機器を導入したりする。また、データの送受信が滞ることがないように監視するのもネットワークエンジニアの役目となる。

 1990年代半ば以降、インターネットを軸とした“ネットワーク”が、企業や家庭に広く普及するにつれ、大きな課題として浮上してきたのがセキュリティである。以前はネットワークに接続している機器は限られ、機器を操作できる人も限られていた。しかし、現在は接続できる機器も操作する人の数も飛躍的に増え、それ故にどことネットワークを接続してもいいとは限らなくなった。接続先の可否を確実に判断することがネットワークエンジニアの重要な役割となってきた。その意味から、いまはネットワークとセキュリティとは非常に密接な関係にある。

 「昔ならルータやスイッチの導入、保守がネットワークエンジニアの担当領域でした。現在も基本はそうですが、それに加えて、例えばファイアウォールの構築を担当し、セキュリティの設定を行うこともよくあります。近年ではネットワークの守備範囲は拡大し、セキュリティもネットワークの一部として扱われることが多くなりました」と加本氏は述べる。

 そのため、ネットワークエンジニアが持つべき知識としては、ネットワーク・プロトコルについてだけではなく、ネットワーク・セキュリティについても必要不可欠な要素となりつつある。

ネットワークエンジニアの視点

 近年のネットワークエンジニアにセキュリティ技術は欠かせないという加本氏は、近年のトレンドとして、無線LANの標準化動向も技術知識として追いかけるべきだろうという。次第に普及しつつある無線LANだが、セキュリティ対策はこれからが本番を迎えそうだ。そうした現状の無線LANの動向について加本氏は、「現在、無線LANのセキュリティの脆弱性が、導入を遅らせる要因となっています。利便性を考えるともったいないです。この問題を独自に解決するか、標準化を待つか、現時点はまさにこの境目にいる段階です」

 さらにネットワークデータの量や質は年々変化を遂げてきており、「細ければ太くしよう」と帯域を広げることだけが解決策ではなくなってきている。ネットワークで実現できることが多彩になり、データ量は増え、遅延が許されない場合も出てきているからだ。そういう場面で「QoSは標準かつクリティカル」な要素になると加本氏は指摘する。

 「例えばVoIPで同時に会話したら音声が途切れたという話があったとします。この場合、優先度に問題があるのか、全二重にするべきなのかなど、想定される問題点に着目できるような知識や思考力がネットワークエンジニアには必要だと思います。それから、予測ですね。ネットワークの構成図を見て、どんな問題が起こり得るかということを考えられるようになることがネットワークエンジニアとして必要なノウハウになると思います」

基本はTCP/IP理論

 ネットワークエンジニアとして学ぶべき基本はTCP/IPの理論だと加本氏はいう。表面的な操作にとどまらず、内部的な処理や基本構造をきちんと押さえておけば、インターフェイスが変化しても対応できる。加本氏は1990年代中ごろのWindows登場前からネットワークに携わっているため、OSや設定作業の変遷も熟知している。

 「基本構造さえ覚えておけばウワモノが変わっても対応できるので、基本は大事です。どのような内容のデータをTCP/IPでやりとりしているか、それを理解しているかどうかが大きな違いになります。いまのWindowsではネットワークの知識がなくても、自動的にネットワークに接続できてしまいますが、例えばルータ越えの接続の可否などは、ネットワークエンジニアには基本知識として必要です。またこうした知識を踏まえて、ほかの分野のエンジニアとプロジェクトで協調していくのがネットワークエンジニアの役割でもあると思います」

 ネットワークエンジニアの守備範囲を問うと、基本は「エンドツーエンドに通信させること」であり、そのためのネットワークの設計から実装までになるという。これには物理的な配線も含まれる。だが、ケーブルを引き回して、ルータやスイッチを設定すれば終わりではない。スパニングツリーやQoSといったノウハウや、ネットワークに発生したトラブルに的確に対処するのがネットワークエンジニアの大事な役割になるという。

習うより慣れろ

 スキル習得の秘けつを加本氏に問うと、エンジニア全般にいえることだが、「積極性や探求心」があることだという。まさに「習うより慣れろ」で、実践と開発環境で作業を反復しながら徐々に理解を深めることが大切だと説く。

 「まずは実践で操作を覚え、理論や理屈は後から学んでもよいと思います。作業の前に理論だけを頭に詰め込んでも吸収できません。トラブルシューティングでも先輩の指示どおりに手順を覚えることから始めることになると思います。また、ルータの設定で『5行目のメッセージにこう表示された場合』といったように条件反射的に作業するかもしれません。しかし、少しずつ知識を増やし、最終的にはメッセージすべての意味を理解できるようになるものだと思います」

 ほかにも、無線LANで暗号化を設定して解読を試みたり、セキュリティを設定したらアタックしてみたりなど、実験で結果を確かめるという探求心があると知識の吸収が早い。

 では、ネットワークエンジニアに必要なTCP/IPの実践的な知識やスキルを得る方法はあるのだろうか? ベンダの講習会に参加することも選択肢の1つで、効率の良い方法だという。

 「私は所属部署のつながりもあり、シスコシステムズの製品を中心に学びました。講習や資格対策では体系的に理解できるという点がメリットといえます」

つながって当たり前

 ネットワークエンジニアとしての苦難は、トラブルに直面したときだ。ネットワークに断線は許されない。「つながって当たり前」なのだ。アプリケーションでトラブルが起きると、最初にネットワークがやり玉に挙げられてしまうことがあるという。ネットワークの可用性が求められ始めたころは、特に苦難が多かったそうだ。

 「冗長化を手掛け始めたころ、当時のスパニングツリーは便利だけど脆弱でした。品質の悪いスイッチが1台あるだけでネットワークが不安定になることがありました。現在では技術が進み、そうしたトラブルを回避したり、障害予測がしやすくなったりしました」

 トラブルは解決することがまず求められるが、その後顧客に対して説明をしなければならない。顧客にトラブルの状況、要点、対処方法などをかみ砕くような分かりやすい言葉で伝えるためにも、基本知識を熟知していることが不可欠だという。

 もしトラブルが発生すれば障害原因を特定していくが、これはネットワーク担当だけではなく、アプリケーション担当などとの協働作業になることが多い。ネットワーク側で疎通確認ができていることを証明して、アプリケーション側やサーバ側に原因があることを指摘していくことがあるが、ここがつらい部分だという。

 「調べ尽くして『自分の範囲は万全だ』と思うのですが、お互いにそう思っているときがありますから(笑)。ただ、トラブルから学ぶことはとても多いです」と加本氏は語る。

ネットワークエンジニアの先

 ネットワークエンジニアのその先のキャリアパスを考える。ネットワークの知識と経験を生かすなら、大ざっぱにいえば2通りの方向がある。それは、技術を究めていく道、もう1つはその分野のプロジェクトのマネジメントをする道だ。加本氏は、後者を視野に入れている。

 「プロジェクトマネージャとして、詳細までは知らなくても勘所となる着目点が分かれば、現場のエンジニアに指示を出せます。実現可能な範囲の判断を下したり、トラブルの対処方法などが分かるということです。実はいまでも私はシステム構築案件のネットワーク部分のマネジメント的な仕事をしていますが、今後はより範囲を広め、システム全体のマネジメントができるようになることを考えています」

 加本氏の同僚には、ネットワーク技術を探究しているエンジニアもいるという。目指す方向性は違うが、視点の違いからお互いに役立つ情報交換ができたり、助け合うことも多いという。

 もし、ネットワーク知識を生かして他分野に転向するなら、セキュリティが最も近い分野だろう。先述したように、現在、ネットワークとあるセキュリティの分野が重なり合う状況になりつつあるからだ。

基盤を支え続けるために

 最後に、ネットワークエンジニアには特性があるのかを問うと「全体を通して詳しい人が多いという印象があります。トラブル解明を経て、周辺知識も得ていくことが多いようです。広く浅く知識が必要というよりは、経験を積むにつれ自然とそうなっていくようです」というのが加本氏の答えだ。

 またシステムの基盤を支えるが故に、システムの上層とつながりを持つ機会が増える。そのため、業務上関係を持つ範囲も広くなるという。豊かな人間のネットワークがあれば、ネットワークエンジニアの業務により強力で有利に働く。

 システムの土台を支えるネットワークの仕事には「決して止まらないこと」という堅実な成果が要求される。そこで高品質なネットワークを確実に保証し、かつ新技術にもついていけるようにするには高度なネットワークの知識と理解が欠かせない。同時にトラブルが発生すればシステム全体から原因を解明することにもなるので、広範囲なシステムの知識と多角的で柔軟な発想も必要となるだろう。こうした能力を駆使し、システムを常に稼働させるための基盤を支え続ける、それがネットワークエンジニアの役割だ。

加本氏のお薦め本

 それでは加本氏がお薦めしてくれた本を2冊紹介しよう。

   ネットワークの応用分野を押さえる1冊

 本書は、ネットワークに携わるエンジニアに定評のある『マスタリングTCP/IP』シリーズの応用編である。そのため、ある程度TCP/IPを理解していることが前提となるが、それでも初級者にも分かりやすいように書かれている。ネットワークの仕事をこれからしようという場合、ほかの入門書と併せて手元に置いておきたい。

加本氏 「この本ではIP、ICMP、TCP、UDP、RIPなど各プロトコルの詳細やルーティングの原理が解説されています。困ったときに助けてくれる本です。エンジニアにはバイブルともいえる1冊だと思います」

マスタリングTCP/IP応用編

Philip Miller著、苅田幸雄監訳
オーム社
1998年5月
ISBN4-274-06256-2
3800円(税別)


   シスコをきちんと理解するために欠かせない

 シスコのCatalyst LANスイッチの解説書である。本書では、Catalyst LANスイッチのアーキテクチャや技術から、実習用の問題までを網羅した内容となっている。Catalystなどのシスコシステムズ製品を用いたネットワーク構築や運用に欠かせない必須の1冊だ。

加本氏 「シスコのルータ/スイッチを使ったネットワークコンサルティングを最初に手掛けたときに購入しました。概念的なことから、モジュールなどの詳細についても解説してあります。初級者がステップアップしたいときの助けになると思います」

Cisco Catalyst LANスイッチ教科書

シスコシステムズ LANスイッチワーキンググループ著
インプレス
2002年7月
ISBN4-8443-1660-5
3800円(税別)




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