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田口元の「楽天でつくるネットサービス」探訪 Special
タグ付けシステム「TagSta」が生まれるまで
──楽天・田中さん

「コミュニティのことだったらこの部署だよね」。楽天の掲示板やコメント、トラックバックからタグ付けシステムまでを一手に引き受ける田中さん。モチベーションを保ちながら横断システムを開発していく秘訣とは。
※この記事は誠 Biz.IDの2007年11月19日公開の記事を再編集して掲載しています

 楽天でつくるネットサービス、今回は楽天の各サービスで使える便利なコミュニティツールを企画、開発しているコミュニティプラットフォームプロデュース部の田中由紀さんにお話を伺った。

  「コミュニティのことだったらこの部署だよね」
という評判ができるまで

 「このサービスに掲示板を付けたいのだけれど……」「コミュニティを作ったはいいけど、どうも盛り上がらなくて……」。こうした相談が日々、田中さんのもとに寄せられる。

楽天 田中由紀さん

 楽天では楽天市場をはじめ、楽天ブックス、楽天ゴルフといった各種サービスを展開している。そうしたサービスを管理する各事業部では、掲示板やコメント、トラックバック機能といったコミュニティ要素を導入することによってユーザーの活性化を図ろうと考えている。

 「例えば楽天市場で売れているお店のページの特徴は、縦にすごく長いことです。これはお客さまの声をたくさん集めて掲載しているからです。お客さまの声はコミュニティ機能を導入することによって効率よく集めることができます」。田中さんは各事業部がコミュニティ機能を導入したがる理由をそう教えてくれた。

 そうした相談が来るたびに、田中さんはユーザーの視点からコミュニティを活性化するための提案をする。「コミュニティを導入する際にはそこでユーザーがどうつながっていくかを考えます。そのサービスを利用しているユーザー同士がすでに知り合いか、そうではないか、でやり方は大きく変わってきます」

 例えば楽天ゴルフでは利用しているユーザーはほぼ100%、すでにリアルな世界で知り合い同士である。その場合は「お友達が最近どうしているか」といった友人の更新情報を前面に出すことが重要だという。「ユーザーはお友達の近況を知りたくてログインしてくれますから」

 「楽天には人と人をつなげる『知人のデータベース』が膨大に貯まっています。楽天市場では自分がお歳暮を送った人のリストも管理しています。こうした膨大なデータをもっと活用して、ユーザーがもっとつながっていけるようなプラットフォームを作りたいと考えています」。田中さんはコミュニティプラットフォームプロデュース部の狙いをそう話す。

 コミュニティプラットフォームプロデュース部が設立されたのは2007年の3月。数カ月をかけて「コミュニティのことだったらこの部署だよね」という評判を社内で築いていった。コミュニティで活用できるツールの企画から開発、そしてコミュニティ活性化のための仕掛けまで、技術からノウハウまで幅広くこなすことができているのは田中さんの経歴によるものも大きい。

  コミュニティは
『いつ見ても変わっている感』が大事

 田中さんは2001年入社。それまで勤めていた会社ではアプリケーションエンジニアとして主に業務システムの開発をしていた。「ただ、やっぱり受託ではなくて、自分で企画したものを自由に作ってみたくて。Webも好きだったので当時ベンチャーだった楽天に転職しました」

 最初に課された仕事は、楽天市場に出店しているお店を回って要望を聞き、それをツールにまで仕上げること。「自分で好きなツールを作ることができました。逆に何でもできたので、自由すぎて動揺しましたけど」。田中さんは笑いながら当時の様子をそう話す。

 初めて作ったのはお客さまがお店を評価できるツール。それまではお客さまからの要望はすべてメールで届いていた。しかしメールではなかなか改善点が分からなかった。「クレームメールは多くの場合、感情的になりがちです。しかしそれでは何が悪かったのか分からない場合も多かったのです。商品が悪いのか、それとも配送の問題なのか。メールだけからは読み解けなかったのです」

 そこでお客さまが細かくお店を評価できるシステムにした。商品そのもの、お店の対応、配送など、細かく「ここはどうでしたか?」と聞く事で改善点を洗い出す。そうした評価は5段階評価にして、グラフで見られるようにもした。このグラフを見れば、お店の評価が高いのか、そうではないのかが一目で分かるようになった。

 「当時は人が足りなくて……。自分でコードもHTMLも書きましたね。複雑なテーブルのコーディングに苦労しました。colspanとrowspanで1日悩んだり」。苦労して作ったこのツールの評判は上々だった。お店からは「メールを読んでいたころに比べ、だいぶ業務が楽になったよ」といわれた。苦労した甲斐があった。嬉しかった。

 お気に入りの商品をブックマークしておいて、あとでまとめて比べられるツールなどもリリースした。企画からインタフェースの改善、データベースの設計までをこなした。

 利用者にやさしいツールを──という思いでツールを企画・開発していた田中さん。次に任されたのは、「楽天ブログ」だ。当時ブログが話題になりつつあり、このサービスも急成長中だった。「1年でページビューが3倍から4倍になる時期だったのです」。まずやらなくてはいけなかったのが負荷への対策だった。コードを見直して、データベースのチューニングを行った。

 負荷の問題が落ち着くと、次は楽天ブログを盛り上げるために動いた。どうしたら盛り上がるかのアイディアをまとめ、コツコツとサービスの改善をしていった。「ユーザーの声はスタッフブログへトラックバックで直接届いていました。当時は自分でスタッフブログも書いていたので、そうしたユーザーの要望に応えられるようなツールを企画し、1つずつ実装していきました」

 当時1日1件しかブログに記事を書けないという仕様を見直したり、アップロードできる画像を枚数制限ではなくて容量制限に変更したり、携帯カメラからのアップロードをできるようにした。やるべきことは山ほどあった。「毎日、毎日、チームで出したアイディアで紙がいっぱいになりました。大変でしたが、それを1つ1つつぶしていくのが快感でしたね」。田中さんはそう教えてくれた。

 楽天ブログでの経験を通じてコミュニティ運営のノウハウを蓄積した。「コミュニティは『いつ見ても変わっている感』が大事です。そうなるとさまざまなツールが必要になってきます。そして楽天全体を見渡したときに、この事業部で使っているツールをこちらの事業部でも使えないか、と次第に思うようになりました」

  サービス共通の
タグプラットフォーム「TagSta.」

 「どのサービスにしろ、ユーザーが書き込んでくれる情報は楽天にとって非常に価値のあるものです。そうした情報を各サービスで共有し、もっと有効活用していくべきだと思っています」。そう考える田中さんがコミュニティプラットフォームプロデュース部で、まず手がけたのが各サービスで共通のタグが使えるようになる「TagSta.」だ。

 このサービスを使えば、各ユーザーは好きな商品に自由にタグを付けることができる。もちろんそのタグでつながっていくことが可能だ。「まだ始まったばかりですが、楽天ブックスからの利用が多いですね」。本を買うお客さまはよくまとめ買いをすることが多い。あと1冊欲しいな、というときにタグが威力を発揮する。「泣ける」「役に立つ」といったタグを使うことで簡単に関連商品を見つけていくこともできる。

 まだすべてのサービスに導入されているわけではないが、タグを導入することによって楽天トラベルのページから旅行に役立ちそうな本を探したり、楽天市場から商品に関連する動画や写真を探したりできるようになるという。「タグといっても各サービスで呼び方を変えています。なるべく自然に各サービスに馴染ませていきたいのです。ユーザーから見て違和感がないことが大事ですから」

 TagSta.のページではそうして商品に付けられたタグを検索することができる。田中さんに便利な使い方を聞いた。「実はタグを検索したあとにRSSを出力しています。これをRSSリーダーに登録しておけば、気になる情報を見逃すことがありません。とにかく泣ける商品に興味がある、といった人に便利だと思いますよ」

  好きな言葉は
「成せばなんとかなる」

 仕事が終わって帰る前に必ずやるのは「自分宛にメールを出すこと」。帰る前に明日のToDoをまとめ、今日やりのこしたToDoと一緒にまとめて、明日の自分にメールしておく。「朝、出社したらまずそのメールを見ます。ToDo管理ツールもいろいろ試したのですが、やっぱり自分にはメールが一番しっくりきます」

 やる気が出ないときは「その仕事が終わったときにどうなるか、どう感じるかを徹底的に考えます」という。個人的な経験からすると、やる気がでないのは終わりが見えていないときですから──と田中さんはいう。その仕事が終わるとどれだけ嬉しいかを想像すると、自然とやる気は出てくるという。

 仕事が終わると「まず呑みに行きます」という田中さん。気の合う同僚と1時間だけ呑もう、と声をかけあう。「呑みの席では『勝手に○○さんと仕事がしてみたい』といった話などをしますね。あの人はこういう仕事をしたほうがいい、あの人はここに行ったほうがいい、と勝手にいっているだけですけどね」。

 呑まずに帰ることはまずない、と断言する田中さん。休日は大好きな野球を見にいったりもする。「社内の草野球のマネージャもしています。監督も兼ねているのですけどね(笑)」

 好きな言葉は「成せばなんとかなる」。楽天のコミュニティ機能を担うコミュニティプラットフォームプロデュース部の部長は、なんとも魅力的な人だった。

提供:楽天株式会社
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年1月31日



会社情報

  • 会社名
    楽天株式会社
    Rakuten,Inc.
  • 設立
    1997年2月7日
  • 資本金
    107,534百万円(2008年12月31日現在)
  • 本社所在地
    東京都品川区東品川4-12-3
    品川シーサイド楽天タワー
  • 従業員数
    単体:2081人
    連結:4874人
    ※2008年12月末現在
    ※役員を除く契約社員を含む就業人員ベース
  • 代表者
    代表取締役会長兼社長
    三木谷浩史


エンジニアライフ執筆中

楽天開発部コラム事務局
「おれたち世界一になれますか?」