楽天の開発部には「プロデューサー」と呼ばれるスタッフがいる。彼らは、事業側と開発部の間に立ち、サービスをより良くするために働いている。プロデューサーは、どんなことを考え、どんな仕事を日々こなしているのか。エンジニア出身で「楽天ギフト」のサービス構築などに携わったプロデューサーに話を聞いた。 |
楽天 開発部 グループプラットフォーム開発・運用課 コミュニティツールプラットフォーム開発グループの渡辺純さんは、エンジニア出身のプロデューサーである。これまでに「楽天ぬいぐるみカード」の運用や「楽天ギフト」のサービス構築を手掛け、現在は楽天グループの共通機能「コミュニティツールプラットフォーム」の構築に携わっている。プロデューサーの仕事とはどのようなものなのか。
「わたしがやっている仕事の1つに『開発の窓口』があります。開発する内容を技術的に理解しながら、事業側に『システムの言葉ではなく、相手の言葉で説明する』役割です。自分で『翻訳者みたいだな』と思うときがあります」
ただし、プロデューサーの仕事内容に明確な定義はないという。共通しているのは「サービスをより良くしていくこと」だけだ。仕事の内容は千差万別。「事業戦略にコミットする人もいれば、開発寄りで力を発揮する人もいます」と渡辺さん。
渡辺さんがいう「相手の言葉で説明する」という仕事は、例えば次のようなことである。サービスの開発では、事業側と開発側で使う言葉が異なる。事業側の「メッセージカードにもっとメッセージを入れられるようにしてほしい」という要求を開発者が理解して実装するには、「8行×20文字が入る」といった仕様に落とし込まなければならない。一方、開発者の言葉が、そのままでは事業側に通じないこともある。両者がうまく協調できるようにすることが、渡辺さんの仕事の1つだ。
「モノ」とかかわり、 ビジネスに直結するサービスに引かれて |
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「楽天に転職した理由の1つは、情報だけでなく『モノ』とのかかわりがあることでした」
グループプラットフォーム開発・運用課 コミュニティツール プラットフォーム開発グループ 渡辺純さん |
渡辺さんが楽天に入社したのは2006年9月。それ以前は、製造業向けの情報システム構築を手掛けるシステム構築会社で、システムエンジニアとして働いていた。そこでは「情報」だけがやりとりされるシステムを作るのが仕事だった。だが、楽天のサービスは、物流があり、「モノ」が実際にユーザーの手元に届く。「自分たちが考えたサービスが世に出て、物流に結び付き、売り上げにつながる。ユーザーとリアルにつながっていることが面白い」と考えたのだ。
渡辺さんが入社後にまず手掛けたのは「楽天ぬいぐるみカード」の運用である。「キャラクターのぬいぐるみがポストカードを届ける」というこのサービスは、もともと楽天が2005年6月に吸収合併したワイノットが開発したサービスだ。それを楽天のシステムにどのように統合するかが課題だった。
「小さなサービスだと、プロデューサーとエンジニアの垣根がない。自分ではエンジニアとして楽天に入社したつもりでしたが、気がついたらプロデューサーの仕事をしていました」
前職でシステムエンジニアとして顧客企業と接する経験を積んでいたこともあり、違和感は「まったくなかった」と渡辺さんはいう。ただし、受託開発に携わるシステムエンジニアと、サービス作りにかかわるプロデューサーとでは大きく異なる点がある。楽天という企業の中で、最終的には売り上げを追求する、という「目的」の部分である。「相手がいうことを単純に聞いているだけではダメでした。こちらからもアイデアを出し、矛盾点があれば指摘する。そういうやりとりが必要でした」と渡辺さんは振り返る。
「ぬいぐるみカード」の場合、楽天の他のサービスに比べ規模は小さかったものの、技術的には先進的な部分が多かった。そうした点を評価しながら、システムの統合を進めた。渡辺さんは「小さなサービスだからこそ、技術的なチャレンジができて面白い」と語る。
「ワイノットはmemcached(分散型メモリキャッシュシステム)を使っていたんですよ。これによって、データベースアクセスをメモリ上にキャッシュすることで性能を向上させることができます。今となっては皆さんが使うようになってきましたが、当時は先進的でした。これはいいと思って、システム統合時も残すようにしましたし、他のサービス担当者にも勧めました。今では楽天の他のサービスでも積極的に取り入れています」
システムプリンタ設定まで 自分でこなす |
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渡辺さんは、プロデューサーとしてスタッフとのかかわりだけでなく、システムや物流の細部にまで目を配っている。システム的なトラブルへの対応も重要な仕事だ。
渡辺さんが次に取り組んだ「楽天ギフト」では、ギフトに添えるカードの印刷と配送がサービスの一部として含まれていた。これを実現するに、他のWebサービスでは考えられないような困難が渡辺さんを襲った。何しろ、カードは実際にプリントアウトされる「モノ」である。システム上だけでは完結しないのだ。例えば、プリンタの機種選定のため、量販店のプリンタ売り場で実際のメッセージカードを印刷してみた。プリンタの細かな設定のため、出荷業者の倉庫まで出向いた。当初予定していた接続ケーブルが使えず、タクシーを飛ばして買い出しに行くといったハプニングもあった。
また、カードの印刷の手順、ピッキングの手順、管理番号の突き合わせの方法など、物流に伴う業務の設計も考える必要があった。
「現地に行って話を聞いて、初めて分かることがたくさんありました。人が手を動かす仕事や、物流の仕組みが関わってくる。情報システムだけを扱う仕事とは違って、非常に面白い経験でした」
プロデューサーに必要な 「フットワークの軽さ」 |
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渡辺さんは現在、コミュニティツールプラットフォーム開発グループに所属している。楽天社内で、複数のサービスで利用できる共通機能を作っているのである。例えば、商品を推薦する「すすめーる」などである。
開発にも積極的に関わる |
共通機能なので、1つの機能が複数のサービスで使われる。例えば、ユーザーが双方向でコメントを付けることができる機能は、「楽天市場」だけでなく、旅行の企画をユーザーが作り出す「楽天トラベル みんなのエンタメ企画室」でも使われている。こうした共通のコミュニティ機能を充実させ、それぞれのサービスで使ってもらい、サービスの魅力を向上させていくことが狙いである。
プロデューサーの役割は、サービスの構築にかかわる部分だけではない。時には「火消し役」として動くこともある。
「楽天のシステムは大きく、影響範囲が広いので、エンジニア1人では対処できないようなことが起きる場合があります。そういう時に、適切なメンバーと連絡を取り合って問題解決をするのもプロデューサーの役割です」
渡辺さんは「プロデューサーはフットワークが軽くないといけない」と強調する。エンジニアからの事業側の人間まで、楽天という組織内の多くの人と顔を付き合わせ、何かあったときは「あの人に頼めば何とかなる」「あの人が詳しかったはずだ」とすぐに走ることができる。そういう人でなければ勤まらないのだ。
「根がエンジニアなので、開発にもどんどん首を突っ込んじゃうし、とにかくサービスを良くするためには何でもやる。『ここまでが自分の業務です』なんて、考えたことがないですね」
コミュニティツールプラットフォーム開発グループは「エンジニアが中心」の部隊であり、渡辺さんも楽しんで仕事をしているという。
「今年までは、とにかくツールのバリエーションを増やしていくのがミッションでした。これからは、いろいろなサービスでとにかく使ってもらえるように、社内で普及活動を行っていく仕事が増えるでしょう」
あるときは開発者として、あるときは翻訳者として、またあるときは火消し役として。不思議なキャリアを積んできた渡辺さんの「楽天プロデューサー」としての奮闘は続く。
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関連リンク
提供:楽天株式会社
企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年1月31日
会社情報
- 会社名
楽天株式会社
Rakuten,Inc. - 設立
1997年2月7日 - 資本金
107,534百万円(2008年12月31日現在) - 本社所在地
東京都品川区東品川4-12-3
品川シーサイド楽天タワー - 従業員数
単体:2081人
連結:4874人
※2008年12月末現在
※役員を除く契約社員を含む就業人員ベース - 代表者
代表取締役会長兼社長
三木谷浩史
楽天エンジニア スペシャルインタビュー
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田口元の「楽天でつくるネットサービス」探訪 Special
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エンジニアライフ執筆中
楽天開発部コラム事務局
「おれたち世界一になれますか?」