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エンジニアが社会人大学院で学ぶ意義

理論に裏付けされたスキルを――彼が大学院に通う理由

はがねのつるぎ(エンジニアライフ コラムニスト)
2009/11/20

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みんなで悪戦苦闘

 この原稿を書いているのは、学校帰りの電車内。もう夜も遅く、乗客はまばらです。家に帰れば宿題を片付けなければなりません。スキマ時間の活用は得意です。

 今日の授業は実習の時間でした。Dovecotの構築をやりました。前回の授業で構築したOpenSSL環境を組み込みつつ、ソースからインストール。それぞれに与えられた環境で./configureからスタート。安定版なんてものは用意されていません。いつだって最新版。何が起こるかは出たとこ勝負。教室内は「PAMがおかしい」「メールが読めない」などと怒号と悲鳴が飛び交います。

 まともに動かなければやり直し、ログを調べて、--helpして、history。原因を推測してリトライ。ググる前にやるべきことって、いっぱいあるものですね。

        ./configure
        make
        make install

 動作確認、make cleanの無限ループ。

 この作業は、1人でやっているわけではありません。みんなで同じことをやって、同じところでみんなエラー。ああだこうだといいながら悪戦苦闘します。通常、環境構築なんてものは1人でやるものです。この状況はまず、あり得ません。

 どうやらバグのようでした。先生はひとこと「ソース読んだらええねん」。いや、普通ムリだって。

 ビジネスモデルを考えたり、オープンソース開発に参加したりと、課題は山積みです。今日はLinuxのソースを解読しようか、なんて会話が飛び交います。まるで、お釈迦(しゃか)様の手のひらの上であがく孫悟空の気分です。日々、楽しく転がされています。

言葉では変わらない。行動あるのみ

 いくら真剣にシステムと向き合いたいと感じていても、頭の中で思っているだけでは何も変わりません。行動して、向き合って、結果を出さなければ、その程度の思いだったということでしょう。

 最近、IT業界の愚痴をあまりいわないことにしました。デスマーチの武勇伝とか、ブラック企業自慢とか。飲み会やブログで愚痴ったからといって、何も変わりません。

 残業の多さ、時給換算の安さ、環境の理不尽さ。いっていることはみんな同じに聞こえてしまいます。そんな話はもう飽きたのです。

 「幸福な家庭は皆同じように似ているが、不幸な家庭はそれぞれに不幸の様を異にしているものだ」(トルストイ、『アンナ・カレーニナ』)

 グチグチ文句をいって世界が変わるのなら、いくらでも不平不満をいいましょう。

 言葉では何も変わりません。そう思えばこその行動です。ネットで学校を調べて、資料を取り寄せて、願書を書いて、入試を受けて、入学式を迎えて……。1つ1つステップを踏んで、いつの間にか、大学院生の出来上がり。

学生は貧乏なものだ

 不況が始まったころには、もう入学が決定していました。

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 案件の少なさと、少ない案件に集まる人数の多さは、不況の波の激しさを実感させてくれます。もしかして、大学院どころの騒ぎじゃないのかもしれない――ふと、不安が頭をよぎります。

 でもね。お金がない。時間がない。それでも頑張ってきた人をわたしは知っています。

 講師なんてものをしていると、生徒の物語をたくさん聞くことになります。深夜はアルバイトをして、昼間勉強している生徒なんて、ごく普通の存在です。彼ら彼女らは、どんな思いで勉強していたのでしょうか。その気になれば、手はいくらでもあります。

 しょせん不況なんてものは課題の1つにすぎません。いつだって学生というものは貧乏なのです。

必要なものはたった2つ

 世界で通用する技術者になるとか、伝説のハッカーになるとか、そんな目標はわたしには必要ありません。

 大き過ぎる目標は、意外と役立たずです。目標は身の丈に合ったサイズであるべきだと思います。

 社会人大学院に入学する。無事に卒業する。わたしにはこれで十分です。積極的に授業に参加するとか、レポートを締め切りまでに提出するとか、学校が始まれば、いくらでも目標はできていきます。授業に遅刻しないために、定時で仕事を終えられるように頑張る、でもいいでしょう。

 必要なのは2つ。具体的に行動できる目標。そして、最初の一歩。それだけです。

 社会人大学院に通うということを決めた。決めたら通うために必要な行動する。たった2つ、それだけです。

 踏み出しさえすれば、不思議なくらい、うまく回りだしました。気持ちよく定時で帰らせてもらえたり、宿題のレポートに知恵を貸してもらえたり、このご時世に割のいい仕事を回してもらえたり。いま、大学院に通うことができているのは、そんな人たちのおかげです。感謝。

道は続く

 大学院通いも、次への布石です。卒業したら、起業するつもりです。

 最初は小さなソフト会社でいい。わたし1人が自由に動けるだけのサイズからスタートしたい。もちろん、もっともっと大きくして、エンジニアがエンジニアらしく働ける会社を目指します。

 環境や待遇に不満があるなら、環境そのものをつくればいいのです。それがわたしのソリューション。死ぬほど経験したデスマーチへの答えです。

 ずっと夢見ていたビジョンがあります。廃校になった小学校。教室の1つを借りて仕事をしているわたし。システム開発の合間を縫って、雑誌の連載を執筆。ホワイトボードなんてありません。黒板がありますから。ミーティングの後は、窓の外で、チョークの染み込んだ黒板消しをパンパンとたたく。

 チャイムが鳴れば休憩時間。お昼は家庭科教室で焼き飯でも作りましょう。什器(じゅうき)が必要になれば、図工室で工作です。

 晴れた日は、自転車で通勤するのがいいですね。夜は時間を気にせず、システム作りに没頭できます。たまには定時で終わらせて、ぶらぶらと街をツーリング。

 裏道を通った後は、再び大通り。いつもの景色が新しく見えました。わたしの道は、まだまだ続きます。

筆者プロフィール
はがねのつるぎ

音楽業界から転身して技術の世界に入る。オペレーター、ヘルプデスク、シスアド、プログラマ、システムエンジニアとジョブチェンジを繰り返してきた成り上がり系エンジニア。2007年に独立。ORACLE MASTER Gold 10g、LPIC Level2などの資格を取得。技術力を武器にフリーランスとしてさまざまな開発案件を経験するも、1人でやっていくことに限界を感じ、「次」を求めて学問の扉をたたく。2009年4月に社会人大学生となり、新しい自分と世界を模索する日々。

コラム:フリーなスキル(エンジニアライフ)

 

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