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ITエンジニアの新しい職種、Growth Hackerって何だ


技術者+マーケター?

ITエンジニアの新しい職種、Growth Hackerって何だ

長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2013/5/30

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グロースハッカーの必須スキル「モデル化」

 リブセンスでは、1つの開発チームが複数のサービスを開発するという体制を取っている。サービスごとにチームを分けることはしていない。これはグロースハッカーの力を引き出すための組織体制でもあるという。

 「例えばサービスごとに事業部長がいて、企画部門があって、開発部門がある。そのように明確に役割が分離された体制では、グロースハッカーは力を発揮できないでしょう。組織の在り方を考慮し、密に連携してアジャイルに回していける体制にしないと、グロースハックは実現できないと思います。

 開発チームがサービスに責任を持ち、かつそのメンバーが、企画や分析の能力も備えたグロースハッカーであれば、開発しながら市場を読み、どんどん改善していくことができます。『マーケティングとエンジニアリングを分けないで考える』のがグロースハッカーですから」

 このような組織に所属し、サービス開始後の拡大まで組み込んだ設計を行った上で、リブセンスのITエンジニアは各種サービスの開発を行っているという。では、彼らは具体的にどのように動くのか。一般的なITエンジニアとはどのように違うのだろうか。

 平山氏は、グロースハッカーと一般的なITエンジニアを分ける要素として「モデル化」を挙げる。「グロースハッカーがサービス立ち上げの際に行うのはモデル化です。モデル化ができているかいないかが大きな違いになります」

 ユーザーや情報の流れをモデル化し、循環させることで、グロースハッカーはサービスを拡大する。ユーザーがサイトを訪問して何らかのアクションをし、ほかのユーザーにも伝播し、そのユーザーが再びサイトに戻ってきて循環するというモデルを作ることが、サービスの拡大には重要だという。

 「モデル化は最近では体系化された方法論が提唱されており、『AARRR』のようなフレームワークで行っています。訪れたお客さまに対して(Acquisition:獲得)、魅力的なサービスを提案し(Activation:活性化)、サービスをリピートして使っていただき(Retention:保持)、既存のお客さまが新規のお客さまを呼ぶ(Referral:紹介)、その一連のサイクルの中でビジネスを展開する(Revenue:収益)という流れを作るのです」

 このモデルを作り込むことで、開始後の拡大まで組み込んだサービスの設計と開発が可能になるという。

 開発とその後の修正は短いサイクルで行う。関連データを精査し、弱い点を見つけてチームで改善案を出し、修正してリリース、2週間ほどで再びデータを精査するというサイクルを回す。

 「一般的なITエンジニアだったら、これらのことは一切考えないと思うんですね。『ナントカ機能を作ってください』『実現しました』で終わってしまうでしょう。

 『これ面白くない?』で作っても、運があれば成功するかもしれない。でも、うちの会社は規模が小さく、短いスパンで確実に成果を挙げる必要があります。そのためには、モデルを作ってそれに沿って改善を繰り返すという内容を、緻密に設計しないといけないんです。だからこそ、プロダクトの設計とマーケティングを融合して考えないと、話にならないというところがあります」

 このモデル作りを、自然に、開発の一工程としてできる人がグロースハッカーというわけだ。しかし平山氏は、「モデルを作れる人は、おそらく今の日本では多くない」と指摘する。

「仕組みが作れる」ITエンジニアは強い

 では、グロースハッカーでない一般的なITエンジニアが、「モデルを作れるようになりたい」「グロースハッカーのような働き方をしたい」と考えたら、どうすればいいか。

 平山氏は、「訓練すれば、グロースハッカーにはなれます」と断言する。「モデルの思考や、モデル設計を意識する場があれば、グロースハッカーの技術は身に付けられると思います」という。

 グロースハッカーに向いている人として、平山氏は「抽象化されたレイヤーで考えられる人」「幅広くできる人」を挙げた。

「グロースハッカーを目指す方法は、意外と単純かも」と笑う

 抽象化されたレイヤーで考えられる人とは、「プログラムを書いている」ではなく「プロダクトデザインをしている」と考えられる人のこと。「『プロダクトを作っている』と考えれば、お客さまのこともマーケティングも自然に考えられますから」という。

 「とはいえ、そのプロダクトの機能をスピーディに実現するにはやはり高い技術力が必要です。『プロダクトを作っている』という意識を持ち、要件に従って素早く技術を活用できる人が、グロースハッカーには向いていると思います。

 ITエンジニアにはときどき、『コードを書いているだけで楽しい』という人がいます。純粋に技術のみを追求する人は、グロースハッカーには向いていないと思います。

 似た意味で、『俺はPHPしかやらない』ではなく、仕様を実現するのにこっちの言語の方が早いからこれにしてみようとか、幅広く柔軟な考え方ができる人が向いていると思います」

 市場に受け入れられているプロダクトとしての最終形がイメージでき、その最終形にむけて最適な技術を適用できる人。コードはあくまでもプロダクトを実現するための手段ととらえる人。そんなITエンジニアがモデルの思考を意識して仕事をすれば、グロースハッカーを目指せるといえそうだ。

 意識の持ち方について、平山氏からはこんなアドバイスがあった。「例えば業務で、『Aというコンポーネントからライブラリ作ってください』となったとき、なぜそれを作るんだっけ? という意識を持つだけでも変わると思うんですよ。携わっているライブラリが構成するサービスの全体像を把握する、それをモデル化してみる、そういった訓練があればグロースハッカーになれます。意外と単純な気がするんですよ」

 今後、日本でもグロースハッカーは増えるのだろうか。平山氏は、「増えないと厳しいと思います」と答える。「プログラミングでは、海外のITエンジニアと比較して日本人の方が優秀ということはありません。クラウドソーシングなどでの海外発注も増え、ITエンジニアの競争はグローバルです。

 その中で強みを発揮できるのは、よくいわれることですが『仕組みが作れる人』だと思うんです。ITエンジニアにとっての『仕組みを作る』とは、プロダクトデザインをすることだと考えています。サービスの全体像を考えてモデル化する、つまり仕組み化する。これからのITエンジニアには、そのことが必須だと思いますね」

 業務において、いわれたことをただこなすのではなく、まずは少しずつ視野を広げ、自分が作っているものの全体像を把握する。そしてそれをモデル化してみる。グロースハッカーに興味を持ったなら、そこから始めてみてはどうだろう。

 そのうち日本でも、グロースハッカーの需要がたくさん出てくるかもしれない。


 

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