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ITエンジニアの新しい職種、Growth Hackerって何だ


技術者+マーケター?

ITエンジニアの新しい職種、Growth Hackerって何だ

長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2013/5/30

「グロースハッカー」というITエンジニアの新しいキャリアが話題になっている。果たしてどのような職種なのか? グロースハッカーの定義、具体的な働き方、必要なスキルなどを探る。

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 「グロースハッカー」(Growth Hacker)という言葉を聞いたことはあるだろうか。現在、シリコンバレーを中心に話題となっている職種だ。

 Growth Hacker、つまり(プロダクトやサービスの)growth(=成長)をhackする人たちということで、「ユーザー獲得担当エンジニア」などとも呼ばれている。FacebookやQuoraにユーザー獲得チームがあることはよく知られており、米国でのグロースハッカーの需要は高まっているという。

 日本ではまだなじみが薄い印象だが、2013年3月にハッカソンならぬグローサソン(Growthathon:Hackathon for Growth Hackers、プロダクトに関する課題が出され、参加者が解決策を提案し実装するイベント)が開催され、多くのグロースハッカーが参加したことからも分かるように、徐々に注目されつつあるといえる。

 まだ新しい概念で、さまざまな定義がなされているグロースハッカーだが、具体的にはどのような職種で、どのように活躍する人たちなのか。

 人材や不動産などの領域でサービスを運営するリブセンスにて、システム開発部を率いる平山宗介氏は、自社の目指す開発チーム像として「グロースハッカーの集合体」を挙げている。平山氏の考えるグロースハッカーの定義、そして働き方を聞いた。

「ITエンジニアとマーケターの融合」、グロースハッカー

 「グロースハッカーは、Web業界特有のITエンジニアの職種だと考えています」と平山氏は説明する。「よくいわれるのは、『ITエンジニアとマーケターの融合』。さらにブレークダウンすると、『プロダクト設計の段階でマーケティングまで考えられるITエンジニア』です」

リブセンス システム開発部長 平山宗介氏
リブセンス システム開発部長 平山宗介氏

 現在のWebサービスでは、サービス自体とそのマーケティングを融合して考える必要があると平山氏は指摘する。「Webサービスではインターネット広告やFacebook、Twitterなどのソーシャルメディアをはじめ、スマートフォン通知などいろいろなマーケティング手法を活用してサービスをドライブさせられるという背景があります。そのような状況で、サービスをローンチするだけでなく、その後の拡大まで組み込んだ設計ができる人が求められているのです」

 プロダクトの拡大=グロースをハックするのがグロースハッカーというわけだ。

 「グロースハッカーは、プロダクト全体のグロースのために、さまざまな点をハックして改善します。例えばリブセンスのアルバイト求人サイト『ジョブセンス』でいえば、サイトへの流入ユーザー数、問い合わせ率などがサービスの重要な指標となってきます。それらの指標をコントロールして改善し伸ばせる人。しかもそれを、1つの軸のみならず全体のサービスの流れとして最大化できる人。それがグロースハッカーだと思っています」

 例えば、「流入ユーザー数を増やそう」と考え、何らかの手段で100人から1万人に増やしたとする。しかしその結果、問い合わせ率が激減しては意味がない。「流入ユーザー数の増加」にどのような利点があるのか、ほかの指標やサービス全体にどのような影響を及ぼすのか、その結果をふまえて今後はどうするかなど、全体を俯瞰して考え、成果を挙げられる人こそが、グロースハッカーというところだろうか。

マーケティング手法の多様性が、グロースハッカーを生み出した

 グロースハッカーという職種が登場し、需要が高まっている背景として、平山氏は「低コストでマーケティングをする必要性」「低コストでのマーケティングを可能にする手法の多様化」を挙げる。

 「グロースハッカーは、特にスタートアップ領域で目立っていると思います。それはおそらく、資金がないからなんです。資金が潤沢にある大企業であれば、マスメディアを使用したプロモーションをすれば話は早いと思うんですよ」

 しかしスタートアップではそれは不可能だ。低コストでマーケティングをする必要がある。そしてWebサービスには、少ない予算で活用できるさまざまな手段がある。

 「マスメディアに出稿するためにはお金がいる。でも先ほども挙げたように、WebサービスであればFacebookやTwitterなどのソーシャルメディア、インターネット広告、スマートフォン通知などを活用し、低コストで拡散させられるのです。

 プロダクト設計の段階からマーケティングを考えて作りこんでいけば、お金をかけなくてもできる時代になった。それを実現できるのがグロースハッカーなのです。これが、グロースハッカーが登場し、もてはやされるようになった理由だと思います」

少人数チームの制限が、「グロースハッカーを目指す」という解に

 平山氏は、自社の開発チームが目指すところについて「“Growth Hacker”な集合体を目指している」と述べている。

 「まだ実現できていない部分はあるかもしれませんが、ITエンジニア1人1人がグロースハッカーであることを目指しています。

 現状、日本で注目されているグロースハッカーには、ソーシャルゲームのプランナーが多いと思うんです。しかし、リブセンスの運営するサービスは、『ソーシャルゲーム特化』のように1種類ではなく、ポータルサイトもあればCGMもあります。今後も『あたりまえを、発明しよう』という企業理念の下、誰もが使う『あたりまえ』になるサービスを、各種立ち上げて運営する予定です。

 その中でうちのメンバーには、それぞれの要件においてグロースできる能力を持っていてほしい。何か1つのサービスではなくて、どんな種類のサービスをもグロースできる能力。1つ1つのサービスを深く理解し、モデル化し、分析して改善していく能力。このような能力をリブセンスではメンバーに求めています」

 そもそもリブセンスでは、なぜグロースハッカー集団を目指すようになったのか。

 「リブセンスでは、いろいろな種類のメディアを少人数で運営せざるを得ないため、必然的にそれを目指しているというのが一番近いんです。ベンチャーで体力もなくて、人材、不動産をはじめさまざまな領域にサービスを展開するとなると、1人1人がマーケティングまで考えていかないと正直回らない」

 しかし、少人数で運営せざるを得ないという制限が、かえって強みを生み出すための方向性を決めることとなった。

 「大企業と違って、営業人員やマーケティング人員が少ない。そんな中、うちの強みは何か。そう考えたとき、『ITエンジニアがマーケターを兼ねないといけない』こと自体が強みになると気付いたのです。だからこそ、『みんなそれができるグロースハッカーを目指そうぜ』となったというのが本当のところですね」

 仮に少人数体制という制限がなく、「優れたITエンジニアと優れたマーケターを雇ってビジネスを行う」ということになっていたとしたらどうだろう。グロースハックの利点は引き出せなかっただろうと平山氏は指摘する。

 「もし、ITエンジニアではないマーケターが担当していたら……。サービスとマーケティングを分けてしまい、例えば、メールマガジンの配信をチューニングしてみよう、あるページにおけるユーザーの流れを分析し課題点を見つけて改善していこう、という話は出づらいと思うんです。

 役割が分担されてしまうと、グロースハックが回らない。つまり、サービスの拡大まで組み込んだ設計をし、効果を最大化するというアプローチは取れなくなってしまいます。

 いい換えれば、『マーケティングとエンジニアリングを分けちゃいけない』ということこそがグロースハッカーの本質だと思うのです」

 マーケティングとエンジニアリングを分けずに思考し、成長まで考えてプロダクトを設計し実装する。プロダクトの責任者、開発者、マーケティング担当など複数の役割を一身に担い、プロダクトの価値最大化に貢献する存在が、グロースハッカーなのかもしれない。

  

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