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特集:勉強会の夏、カンファレンスの夏

第5回 よしおか×角谷対談「勉強会に眠る宝物」

岑康貴(@IT自分戦略研究所)
2009/8/28

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勉強会はセミナーじゃない

―― 規模が大きくなってくると、どうしても講師と聴衆という感じになってきちゃうのかな、と思うのですが。

角谷 デブサミ(Developers Summit)のコンテンツ委員をやってみて感じたのは、デブサミではそこを課題の1つとしてとらえているのかなあ、と。「話す人」と「お客さん」という枠組みを越えた関係をつくりたい、と。スーツの人たちだけでなくてギークの人たちも巻き込もうとしているのも、そうした課題へのアプローチなのかな、と思っています。

よしおか セミナーっていうのは、一方通行のイメージがありますよね。勉強会は、そこの場所で講師も参加者も一緒になって、何かを作ろうとしているイメージ。ライブセッションなんですよ。観客がいないと成立しない。

 発表する人も、反応によってどんどん気付きが深くなるし、新しいことを発見するし。そういうところも勉強会の価値なのかな、と思いますね。

よしおかひろたか氏
よしおかひろたか氏

角谷 読書会のときは、読んで分からないところを発表するというスタイルもやってましたよ。

よしおか それ、いいですよね。そこから議論が始まる。

角谷 ネタを持っている人が一方的に教えるんじゃなくて、「ここまで調べてみたけど、ここが分からない」という人が話を振るんですよね。

―― セミナーのような形しか知らない人にとっては驚きでしょうね。

よしおか それがどうしていいんだろうな。言葉にできないですよね。

角谷 その方が面白いですよね。自分の分からないところを教えてもらえるので。

 勉強会とはちょっと違いますが、Asakusa.rbがそういう感じですね。Asakusa.rbは松田さん(松田明氏)がリーダーなんですけど、彼はRailsなら詳しいんだけれど、Ruby1.9はそこまで詳しくない。で、Ruby1.9でRailsがうまく動かないときに、Railsが悪いのかRuby1.9が悪いのかの切り分けが難しい。そこで松田さんは、笹田さん(YARV開発者の笹田耕一氏)のところに直接行って聞くんですね。で、場合によってはその場でRuby1.9を直してもらう(笑)。

 ほかにも、Railsの多言語対応のコードが入ったんだけど、これが正しいのか分からない。「じゃあ、成瀬さん(成瀬ゆい氏。Ruby1.9のm17n対応に多大な貢献をしている)に見てもらおう!」とか(笑)。ものすごい馬力。

よしおか それって、もはや勉強会というか、コミュニティ活動だよね。

角谷 そうなんですよ。でも松田さんはRubyはもちろんRailsの開発チームというわけでもないんですよね。浅草在住のRails好きの、いちハッカー。

よしおか 勉強会とオープンソースのバザールモデルって、すごく親和性が高いですよね。例えばOracleのセミナーで、Oracleのこの機能はちょっと使いにくいなあとか、分かりにくいなあ、こういう風に変更してくれたら便利だな、などという会話はされないし、そのようなことをいうことも期待されていないですよね。でも、例えばRubyに詳しい人が勉強会をやっていて、「このコードはちょっといかんと思うんだよねー」なんていって、そこで実際にコードの中身を見始めて議論が始まる、ということはある。実際、RHG読書会なんてRubyのコードを読む会だから、そんなことが行われてしまうわけです。それは勉強会だからこそ。

角谷 Asakusa.rbはそういうやりとりを見れるのが楽しいから参加してますね。「いいぞもっとやれ」みたいな感じで(笑)。

SIerのエンジニアたちと勉強会

よしおか SIer(システムインテグレータ)でSE(システムエンジニア)をやっていて、日々大変で、上司はわけが分からないこというし、同僚はやる気があるのかないのか分からないし……という人にとって、こういう勉強会の喜びは何のご利益もないものとして映るんですかね。

角谷 少なくとも、わたしが行ったことのある読書会は、そういう人こそ来てる、と思いますけど……。

 読書会の最中に電話で呼びだされて会社に向かうとか。仕事が忙しくて、読書会用に徹夜で資料をまとめてくる人がいたりとか。

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よしおか そのエネルギーはどこからくるんですかね。

角谷 やっぱり楽しいんじゃないんですかね。

―― カーネル読書会(よしおか氏が主宰する勉強会)には、SIerに勤めている普通のSEさんは結構来られるんですか。

よしおか いっぱい来てると思いますよ。ただ、1人ひとりの事情はあんまりよく分かっていないんですけどね。なんでその人たちがカーネル読書会に来てるのかは、正直よく分からない。

―― 勉強会って、オープンソースが好きだったり、ギークっぽかったり、Web系の人が中心で盛り上がっていて、ほかは興味がない……という状況なのかな、と感じてしまうことがあるんです。実際はそんなことはないのでしょうか。

角谷 わたしが行くような読書会は受託開発の会社のSEさんも多いと思います。来る人は来る。

よしおか でも一方で、勉強会で目立つのはそういう(ギークっぽい)人ばっかり、という感じ?

角谷 確かにネットで目立つのはそういう人なんじゃないですかね。でも例えば、角田さんが主催してる「JavaEE勉強会」は50回以上やってる。そういう勉強会もある。

 PofEAA読書会はRubyKaigiの準備があったりとか、みんな飽きてきたとかがあって途中で止まっちゃったんですが、JavaEE勉強会はずっと続いてる。すごいなあと思ってます。

仲間を会社内でどう探す?

よしおか 会社の偉い人には(RubyKaigiの活動を)評価してもらっているんですか?

角谷 それなりに評価はされていると思います。RubyKaigiのスポンサーにもなってくれていますし。

よしおか よく、コミュニティでは元気がいいんだけど、ハンドルネームで活動している人っていますよね。会社には黙って来ている人。そうすると、自分の仕事とコミュニティ活動にギャップが生まれちゃいますよね。それはちょっともったいない気がする。

 角谷さんみたいに、本名で活動して、コミュニティ活動を会社にも評価されるように工夫と努力はしました、というのは良いですよね。何か具体的にやっていることはあるんですか? 会社に愚直にフィードバックしたりとか。

角谷 そうですね。入社した2003年ごろはまだ、社内でRubyは完全にアウェイでした。「Rubyっていうのがあって」といってもスルーでしたねえ。

よしおか いつごろから潮目が変わったんですか。

角谷 やっぱりRailsの波が大きかったです。あとは東京で事業が拡大していって(編注:角谷氏が所属する永和システムマネジメントの本社は福井県)、だんだん人も増えてきた。その中に「俺はLLで仕事がしたい」といい出した同僚がいた。それがすべての始まりです。

角谷信太郎氏
角谷信太郎氏

よしおか 小さな会社ならそういう仲間は発見しやすいと思うんです。大きな会社の場合、どうやって見つければいいんでしょうね。

角谷 頑張って探すしかないんじゃないでしょうか。papandaさん(市谷聡啓氏)はそうやってますよね。大きな会社で社内の仲間を一生懸命に探している。

 社内SNSを活用したり、勉強会の張り紙をしたり、食堂で自作のCMを流したり。すごいなあ、と。SIerであっても、やる人はやる。彼のやっている勉強会も、まさにそういうSIerのSEの人たちがたくさん集まっている。

「勉強会ブーム」を超えて

よしおか 勉強会は、ブームが落ち着いてきて、定着するフェイズに入ったと思います。もう当たり前のもので、淡々といろいろな勉強会が続いていくという時代になる。

 勉強会を経験したことのない人に「勉強会の価値」を伝えたいと思う一方で、「来ない人を無理して引っ張ってくることもないかな」とも思うんですよ。

角谷 でも、純粋に「まだ知らない人」もいると思うんですよね。こういう世界があるということを。

よしおか わたしたちにできることは、いろいろなところで勉強会という場を提供して、面積を広げていくことなんじゃないでしょうか。広げた結果、今までと全然違う層の人が別の勉強会を始めたり。

 全国各地を回るOSCは(オープンソースや勉強会の)プラットフォームとしてすごく貴重な場だし、デブサミのようなスーツとギークが同じ場にいるというのも1つのやり方。RubyKaigiとかYAPC、PHPカンファレンスのような言語スペシフィックな、尖りつつ規模の大きなものもある。LLカンファレンスのような、ごった煮のものもある。一方でAsakusa.rbみたいに規模の小さな、手作り感あふれる勉強会もある。いろいろなパターンが出てきているということは、すごく健全だし、面白いよね。

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 1週間に渡ってお送りしてきた特集「勉強会の夏、カンファレンスの夏」はいかがだっただろうか。今回の対談でも話題になったとおり、勉強会は「当たり前」のものになり始めている。日々の仕事で悩んでいるあなたにこそ、勉強会に参加してほしい。そこにはきっと、あなたの助けとなる「宝物」が埋まっているはずだ。

 この夏、初めて勉強会やカンファレンスに参加した人、初めて勉強会を開催した人は、エンジニアライフの特設コラムのコメント欄にエピソードを投稿してほしい。その言葉が、新しい誰かを勉強会へといざなう鍵となる。1人でも多くのエンジニアが「勉強会」という場で宝物を見つけられることを祈る。

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