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第1回 上原仁――絶望を救ったSNSとオフ会

岑康貴
2008/6/17

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newsing、そして起業へ

 「当時、Web 2.0というキーワードが1人歩きしていたころに、さまざまなベンチャー企業の経営者の方をゲストに招きました。みんなの前で彼らと話をしていて思ったのが、『そんなに(自分と)変わらないな』ということでした。いずれは経営者になりたいというのはもともと考えていたことでしたが、自分の考えるWebというものを経営マインドと結び付けたら、自分とこの人たちは住む世界が違う、というわけではないんだなと気付いたんです」

 そのころ、RTCカンファレンスにも頻繁に顔を出す参加者が出始めてきたという。懇親会で、「そろそろ自分たちでも、何かサービスをつくりたいよね」という話になった。そうしてつくられたのが「newsing」だ。

 「2006年3月くらいですね。1回何か作ってみようかということになりました。コンセプトは、『RTCカンファレンスをWebに応用する』でした。RTCカンファレンスがブログ的コミュニケーションのリアルへの応用でしたから、今度はちょうど逆になります。まだ会社としてというわけではなくて、週末に私の家に集まって、仕様や方向性についてディスカッションし、それぞれが平日の夜に自分の家で作業をする、という形でした。いまでいうクラウドソーシングですね」

 こうしてnewsingの開発は進められる。しかし次第に、これをやるんだったら真剣にやろう、会社という形を取ろう、という話になっていったという。newsingを作ろうと集まったメンバーが、そのまま創業メンバーとなった。

 オンラインのコミュニティに救いを見いだし、リアルなコミュニティに足を運ぶようになった。やがてリアルなコミュニティの運営に回り、今度はそこで出会った人たちと、オンラインのコミュニティサービスをつくることになった。これが上原氏の起業までの道のりだ。

 オンラインとリアル、双方のコミュニティに参加し、同時にそれらを作ってきた上原氏。彼はいま、コミュニティについてどう思っているのだろうか。

「タコツボ化」するコミュニティ

 
 

 上原氏はよく、「タコツボ」という言葉を使う。

 「Web業界はプレーヤーが決まってきている。オンラインでもリアルでも、もう長いこと同じ人たちが目立ち続けていますよね」

 狭い世界だなあ、と上原氏は苦笑い。そこには、上原氏なりの「コミュニティ論」があるようだ。

 「コミュニティは、まずオープンな形で始まって、そこの空気を好む人たちがだんだん集まり始める。でも、そのコミュニティには『器の規模』というのがあると思うんです。オフラインかオンラインかは関係なく、そのコミュニティの中で、人と人とが快適なコミュニケーションを取れると感じられる人数規模、という意味です。RTCカンファレンスの場合は80人くらいかなあ。そういうコミュニティの器の規模に、定着する人の数が追い付いてしまったときに何が起こるか。オープンだったはずのコミュニティが、くるんと反転して、クローズド化するんです」

 器の規模いっぱいにコミュニティが育ったとき、住人は「快適なコミュニケーションが取れると感じられる」ぎりぎりの大きさの中にいることになる。つまり、それ以上人数が増えると快適ではなくなってしまう。その結果、それ以上は「新しい人」が入りづらい空気が漂い始めるのだという。

 「その状態が数カ月か続くと、それはもうタコツボですよね」

 上原氏はコミュニティに救われ、コミュニティを作ってきた人物だ。器の規模いっぱいになるまでのコミュニティは「本当に素敵なもの」だという。しかし、コミュニティがいずれ器の規模いっぱいにまで大きくなり、タコツボ化していくのは、ある種の必然だと語る。

人はコミュニケーションを求める生き物

 上原氏はいま、新しく「オフラインnewsing」というイベントを始めている(取材した翌日に第2回が行われた)。また、マイネット・ジャパンの社内エンジニア勉強会から発展したエンジニア交流勉強会「gungi」も、上原氏が直接運営にかかわっているわけではないが、定期的に開催されている。

 「オフラインnewsingは、RTCカンファレンスに非常に近い形です。gungiはエンジニア特化型のRTCカンファレンスのようなもの。こうやって器を変えていくことで、コミュニティを刷新していくしかないだろうな、と思っています」

 gungiを始めたときも、参加したエンジニアから「こういう場が欲しかったんだ」という声が上がったという。上原氏は、「人はコミュニケーションや相互理解を求める生き物だ」と語る。

 「人はコミュニケーションを求めるもの。エンジニアの方が社外のコミュニティに向かうのも必然です。それを会社がどうこういうのは無理がある。だったら、いっそのこと自社でやってしまおう、というのがいまのスタンスです。自分たちが運営することによって、学びもありますし、より多くの人とコミュニケーションを取りやすい状態になって、1人1人にとってはプラスになる。さらにいえば、そこに『濃いコミュニケーション』が成立することで、人がもっともっと集まってくるんです。これをコミュニティの浸透圧、と呼んでいます」

 人材が流動的になってしまいかねないコミュニティを、積極的に仕掛けていくことのメリットはここにある。タコツボ化してもまた新しいコミュニティをつくり、濃いコミュニケーションの場を提供し続けていくことが、結果としてはプラスになると上原氏は主張する。

「きっといいことがある」

 コミュニティ活動について、上原氏にアドバイスを伺った。

 「きっといいことがあるよ、ということですね。明確に『人脈づくり』とか『有名になる』とか、そういう目的ありきで参加するより、何となく楽しそうだから、で入っていった方がいい。私も以前は無目的行動ができない人間でしたが、初めて行ったオフ会がヒーリングバーで集まりましょう、ですからね。でもその結果、たくさんいいことがあった。きっといいことがあります」

 上原氏は同時に、「コミュニケーションは怖くない」と付け加える。「本当はみんな、怖がりながらコミュニケーションを取っている。オフ会や勉強会に行くのは、最初はすごく勇気がいる。でも、実はみんなそうなんです」

 いまだに、イベントやオフ会で得るものは多いという。その中で、若い世代も少しずつ現れ始めている。彼らの中から、今度は自分が何かの勉強会やイベントを開いてみるという人が出てきてくれればいいな、と最後に上原氏はつぶやいた。

マイネット・ジャパンのオフィスにて

 

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