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第2回 和蓮和尚――ブログと勉強会で「キャズムを超えろ!」

岑康貴
2008/7/8

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「代表がいない? じゃあ、おれがやる」

 「リアルがきっかけでブログを作って、ブログが大きくなってきて、今度はそれをきっかけにリアルの人のネットワークが広がった。“人のネットワーク”が広がれば、僕のできることは増えるはずなんです。独立しても何とかなるだろう、と思えるくらいに人のネットワークができました」

 そうした中で知り合ったのが、Cerevoの創業メンバーでもあるインスプラウト 代表取締役の三根一仁氏と、ウノウ 代表取締役社長の山田進太郎氏だ。ブログと勉強会を通じて知り合った2人は、いずれも「ネット家電を作りたい」という思いを共有していた。しかし、2人とも別の会社の代表であり、新たに自分が代表となってネット家電の企業を立ち上げるわけにはいかなかった。

 「代表が必要だった。『じゃあ、おれがやる』っていったんです」

 家電メーカーを立ち上げるのは、ネット系のベンチャー企業を立ち上げるのとは違って、非常にハードルが高い。億単位の資金調達が必要となり、さまざまな人とモノのネットワークが求められるからだ。それにもしも失敗したら、在庫を抱えるというリスクもある。迷いはなかったのだろうか。

 「あまり心配はしていませんでした。ネット家電をやりたい、という人は、あまり表に出ていないだけで、実はたくさんいるんだと確信していたからです。実際に勉強会やカンファレンス、イベントで知り合って、飲みながら話していると、みんなから声が上がるんです。『ネット家電ってまだまだイケてないよね。でも、ちゃんとしたネット家電って期待したいよね』と。その人たちは、うちの商品の想定ユーザーでもあるし、社員候補でもある。そこへ来て、ネット家電を専門で扱う企業はうちしかいない、となったら。いいタイミングだと思いませんか」

 市場が変化してきたことも要因だという。「ファブレス生産(自社で工場を持たず、生産を100%外部に委託する経営手法)ができるようになってきた。アメリカではここ2年くらい、多くの家電ベンチャーがファブレスで面白いプロダクトを売り始めている」と岩佐氏は語る。

 難しい挑戦であることには変わりない。しかし、よく分からない自信があるという。お酒を飲み交わしながら得た、さまざまな人たちの声が、その根拠の裏付けなのだろう。

自らイベントを主催し、「分かっている人」を集める

 
 

 新会社設立の傍ら、近年は自らイベントを開催している。テーマはもちろんネット家電だ。「ネットと家電のキャズムを超えろ! 会議」と題して、5月に第2回が行われた。

 「これもブログと同じで、現状ではないものをやろうという考えがあります。ネット家電に関する勉強会はほとんどない。特に家電系の人にはなかなか普通の勉強会では出会えません。だから、そういう人が集まる場を作ったんです」

 家電メーカーの商品担当から、ネット系の企業の人間、研究者など、100人を超える参加者が集まる。会場のキャパシティが許せば、もっと集まるだろうと岩佐氏は話す。前述した「よく分からない自信」は、こうした点でさらに強固なものになっているようだ。

 最近ではもっとライトに、ブログ上で「『こういう人』と飲みたいので募集します」と呼び掛ける企画も行っている。当然、「こういう人」とは家電メーカーの社員であったり、組み込み開発系の技術者であったり、ユーザーインターフェイスに詳しい人であったりする。

 「ほかのカンファレンスでは会えない人と会える、という声が参加者からたくさん挙がっています。いままでになかったようなテーマを設定してあげることで、ブログも勉強会も、その分野が『分かっている人』が集まるんですね」

匿名でもいいから、始めよう

 ブログと勉強会を有効活用してきた岩佐氏に、ブログ運営と活用のコツを教えてもらった。

 「目標を立てるのがいいと思います。それは単純にページビューを取るという話ではなくて、自分が興味のある分野であるとか、仕事で扱っている分野の、コアな部分が分かる人をどれだけ読者として集められるか、ということです。すごくマニアックなキーワードで検索してきているとか、同業者が見に来ているとか、そういうことを目標にして達成感を得るのが、ブログを運営するコツだと思います。アクセス解析を利用すれば分かりますから。そうしたら今度は、実際のイベントや勉強会や懇親会で、ブログの話を出してみる。そこで『知ってる知ってる』といわれたら、すごい達成感だと思うんですよ。今度はそういうところを目指してみる。目標を立てて、達成すると、モチベーションの向上につながります」

 また、大企業では仕事関係のブログを書くのが難しい、という問題がある。岩佐氏自身、松下という巨大企業の社員時代を振り返り、こう語った。

 「匿名でいいと思います。僕も『和蓮和尚』というハンドルネームでブログを運営していたわけですが、匿名で困ることは何もありませんでした。一時期、ブログ実名論のような話もありましたが、実名でないと実際の仕事などに生かせないかというと、まったくそんなことはない。ハンドルネームでどんどん始めるべきでしょう」

 岩佐氏の挑戦は、まさにこれから始まるところだ。だが、少なくとも「挑戦」をするための基盤は、ブログと勉強会やカンファレンスから生まれている。彼のオンラインとリアルの境界を越えたコミュニティ活動は、フリーとして働く、あるいは起業を目指すエンジニアにとって参考になる部分が多いはずだ。

 「現在の悩みは、本名や社名よりも、ハンドルネームとブログ名の方が認知されているということ。名刺もハンドルネームで刷ろうか迷ったくらい」

 そうやって岩佐氏は笑った。ネットと家電のキャズムを超えようとする若き経営者は、人のネットワークをバックボーンに、第一歩を踏み出している。


 

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