第4回 誰にでもできる! 勉強会の作り方
よしおかひろたか
2008/10/29
エンジニアの開催する勉強会が増えている。本連載では、かつてシリコンバレーで「勉強会の文化」に身を置き、自らも長年にわたって勉強会を開催し続けている「生涯一プログラマ」のよしおかひろたか氏が、勉強会に参加し、開催するためのマインドとノウハウを紹介する。 |
■勉強会大集合
「OSC(Opensource Conference) 2008 Tokyo/Fall」で「勉強会大集合」というパネルディスカッションを行った。勉強会の主催者に集まってもらい、勉強会開催の苦労話や、工夫していることなどを議論した。
参加した勉強会は下記の12グループだ(発表順/敬称略)。
勉強会名 |
主催(発表者) |
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わんくま同盟(東京担当 初音玲) |
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Ruby札幌(島田浩二) |
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java-ja(yoshiori) |
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1000speakers(西尾泰和、amachang) |
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Rails勉強会(諸橋恭介) |
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Geeklog Japanese(今駒哲子) |
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東京エリアDebian勉強会(岩松信洋) |
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カーネル読書会(よしおかひろたか) |
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小江戸らぐ(奥原浩) |
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Seaser Foundation(橋本正徳) |
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Cobalt Users Group(伊藤正宏) |
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shibuya.pm(竹迫良範) |
3分間のLT(Lightning Talks)スタイルで勉強会の紹介をしていただき、その後、パネルディスカッションを行った。モデレーションはわたしが行った。
LTのプレゼン資料をあらかじめ送付してもらって、わたしのノートPCにインストールしておいた。そのため、プレゼンテーションの切り替えをスムーズに行うことができた。通常はPCとプロジェクターのケーブルを切り替えるのに時間がかかるし、場合によってはプロジェクターが正常に作動しないこともあるので、そのようなトラブルにかかわる時間を節約できた。多人数でプレゼンテーションする場合、1台のノートPCに資料をあらかじめインストールしておくことは、運営をスムーズにするために必要であると感じた。
今回、この勉強会大集合を開催した動機は、空前の勉強会ブームのメカニズムを自分なりに理解したかったということと、勉強会共通の成功の法則があるのかないのか、もしあるとすればそれは何なのかを解剖したかったことである。
勉強会を開催するメリット>勉強会を開催するコスト(個人的な負担) |
(勉強会の法則) |
この勉強会の法則が成り立てば、勉強会は開催される。恒常的に成り立てば、その勉強会は継続的に開催されると考えている。だとすれば、どのようにして開催のメリットを上げ、開催のコストを下げるのか。メリットとは何か、どのようにして最大化するのか。コストとは何か、どのようにして最小化するのか。このメカニズムを解剖したかったのである。
苦労話、楽しみ、苦しみ、喜び、悩みなどを共有すれば、勉強会開催の敷居がもっと下り、もっと楽に運営できるのではないかと考えたのである。過去の経験から課題を抽出し、それを未来へつなぎたい。また、勉強会開催の未経験者をリクルートしたいという気持ちもあった。
勉強会を開催したことのない人たちにとっては、そもそも勉強会を主催するメリットもよく分からないだろうし、仮に開催したいと思っても、どこから手を付けていいのかが皆目見当もつかないというのが実情であろう。各勉強会の「こんな感じで開催している」という情報が共有されれば、開催の敷居も下がるし、ひょっとしたら、われわれの事例を参考にして勉強会を開催してくれるかもしれない。そのような下心があった。
■メタ勉強会
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勉強会大集合を開催し、勉強会の主催者に集まってもらった。大変有意義であったので、共通の問題について継続的に議論したいと考えた。そのような場が欲しいということで、勉強会に関するグループ「MetaCon」をGoogle Groupsに開設した。
ゆくゆくは勉強会同士での共同開催や、お題の共有なども行いたいが、当初は勉強会運営にまつわるあれやこれやをゆるゆると議論していく場にしたいと思う。時期をみて、勉強会カンファレンスを開催してみたいと思っている。
さて勉強会の運営のことを、わたしが主宰している「カーネル読書会」という勉強会のようなものを題材に、個別具体的に説明してみたい。
■カーネル読書会とは何か、何を目指すのか
カーネル読書会とは、Linuxやオープンソースにまつわる話題をゆるゆると議論する場である。横浜Linux Users Group(YLUGと略す)の有志を中心にして不定期(月に1回くらいのペース)で開催している。
カーネル読書会という名前から、Linuxカーネルのソースコードを、どこかに集まって熟読あるいは朗読する、という会合かと誤解されるかもしれない。しかし、実はそんなことはない。
「YLUG年表」によれば、1999年4月28日に第1回が開催された。
第1回の開催はまさに偶然の産物である。YLUGのメーリングリストに、わたしがLinuxカーネルのシステムコールの実装について質問をしたことに端を発する。メーリングリストで教えてもらったことをきっかけに、カーネルのコードを読む宴会みたいなことをしたら楽しいのではないかと思い付いた。そのように呼び掛けたところ、わらわらと参加者が集い、20人以上の人が集まってしまった。溝の口の川崎市高津市民会館の会議室を借りて開催した。1時間ほどシステムコールの実装、というかソースコードを眺め、その後は場所を飲み屋に移して宴会をした。この時点では、第2回を開催するつもりもなければ、それが延々継続して、来年には100回目に到達してしまうなどとは微塵も思っていなかった。
メーリングリストの感想を読んでみると、「非常に楽しかった」「またやりたい」という声がたくさんあったので、2カ月後に第2回を開催した。それがまた楽しかったので、その1カ月後に第3回を開催した。そのようにして何回か開催していくうちに、不定期ではあるが、継続して開催されるようになった。場所も、溝の口から渋谷マークシティ、2002年からは保土ヶ谷のOSDL、2005年からはミラクル・リナックスのオフィスと転々としつつも、いまに至る。先日、第90回の開催を数えた。9年半で90回なので、1年に10回のペースである。
カーネル読書会でわたしは何をやりたいのだろうか。何を目指しているのだろうか。
端的にいえば、Linuxという題材をさかなに、みんなでわいわい技術的なお話をしたい、それだけである。Linuxの実装を話すのは楽しいとわたしは思うのだが、そのように感じる人は、そんなに多くないと思っていた。しかしカーネル読書会を主宰してみて初めて気が付いた。そんなに多くはないが、全然いないわけではなかったのだ。特に、東京近辺には何人もいるということをわたしは発見した。インターネットはそのようなニッチな同好の士を発見することを可能にしたのである。
技術を語る場が欲しかった。それができたことに喜びを感じる。
勉強会開催の動機は人それぞれである。それは誰にもコピーはできない。わたしのようにたまたま開催してみたら、楽しくてやめられなくなったというカッパエビセンのような人もいるだろうし、崇高な志のもとに開催を続けている人もいるだろう。いずれにせよ、なにがしかの動機のもとに開催を決意したとする。
次ページ以降で、勉強会開催のプロセスを紹介しよう。
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