「勉強会しましょうか」が世界を変える
岑康貴
2008/12/4
■動画中継は参加者を減らすか?
第3部は「運営をサポートするツール紹介」と題して、技術評論社の馮(ふぉん)富久氏、KaigiFreaks/日本PHPユーザ会の荻原一平氏、リクルート メディアテクノロジーラボの川崎有亮氏に加え、第1部でも登壇したOSC運営事務局の宮原氏の4人がさまざまな「イベントサポートツール」を紹介した。
馮富久氏 |
馮氏は2008年9月13日に開催された「エンジニアの未来サミット」で利用したインターネット中継システムについて説明。もともとUstream.tvで動画中継を行うことは決まっていたが、開催直前に「中継を見ている人や、会場にいる人の投稿コメントを会場のスクリーンに表示させる」というアイデアが生まれ、「てっく煮ブログ」を運営する「にとよん」氏のAIRアプリケーションをカスタマイズして使用した、という裏話を披露した。
中継は「動画中継職人」として知られる溝口浩二氏の技術協力の下で行われた。パネリスト向けのディスプレイにもコメントが表示されたため、中継を見ている人や、会場にいる人からのコメントを元にディスカッションを展開することが可能になったという。
荻原一平氏 |
荻原氏は「コミュニティでの動画配信の広がり」を支えるツールを紹介。この日の動画中継も荻原氏が行った。荻原氏は動画中継の普及の背景として「モバイルブロードバンドの普及とUstream.tvの登場というインフラ面が1つ。もう1つは、勉強会が盛んで、中継を見た人が今度は配信する側に回り、やがて『職人』が登場するというリソース面が大きい」と説明。Ustream.tvを利用した動画配信方法を解説した。
現状の動画配信の課題として荻原氏は「Ustream.tvへの依存」と「配信によってイベントの参加者が減るのではないかという懸念」の2点を挙げた。後者に関しては、客席から吉岡氏が「中継で伝えられるのはライブの10分の1。来る人は来る」と主張すると、宮原氏は「来なくなる、というのはあると思う。個人的には動画配信は好きだけど、なんでも配信することのデメリットもあるかもしれない」と反論した。
宮原氏は「オープンソース系イベントの出展申し込みシステム」について紹介。OSCの開催数増加と出展者の増加が重なり、手作業による出展者管理が限界になったため、システムの構築を始めたという。従来は「Excelシートに記入して、ポストイットで並べ替える」という状態だったが、これをWebアプリケーションに置き換えた。このアプリケーション自体、イベントで呼びかけたところ、開発を手伝うという人が手を挙げたのだという。
川崎有亮氏 |
川崎氏はリクルート メディアテクノロジーラボで開発したイベント開催支援ツール「ATND(アテンド)」を紹介。「リクルートはユーザーの生活を支援する」というコンセプトを踏襲して作られたツールだと川崎氏は語った。ATNDは「5分でイベント参加登録フォームが作成でき、アンケートやイベント告知ページも作れる」という。実際にオブジェクト倶楽部やCSS Niteなどのコミュニティ・イベントでも使用されている。
また、ATNDはOpenIDを採用しているが、「多くの人はまだまだOpenIDという言葉を知らない。イベント参加者はイベントに参加したいのであって、OpenIDについて詳しくなりたいわけではない」という考えから、ログイン画面でなるべく「OpenID」という単語を使わないなどの工夫をしている。
■会社や地域に縛られない、新しい生き方のヒント
第4部は「コミュニティの未来を語る」と題し、OSC運営事務局の宮原氏、日本PHPユーザ会/PHP勉強会の亀本大地氏、まっちゃ139勉強会の「まっちゃだいふく」氏がパネルディスカッションを行った。吉岡氏が司会を務めた。
まっちゃだいふく氏 |
宮原氏は「勉強会が盛り上がっているが、視点を引いて見ると違った側面が見えてくる。技術者をきちんと育成している企業としていない企業の二極分解が起きているように思う。だから勉強会がそうした基礎技術レベルの習得の場として代替されているのではないか」と、勉強会ブームの裏側を分析した。
「参加する人を増やす」という課題については、亀本氏が「いつも来る人と、1回来て、それから来なくなってしまう人で大きく分かれる」と指摘。参加した人に声を出させて、参加しているという意識を与える努力が必要なのではないかと主張した。まっちゃだいふく氏は参加者をリピーターにするための工夫として「自己紹介の時間を必ず設けるようにしている。また、必ず参加者全員に声を掛けている」と語った。
亀本大地氏 |
「運営のノウハウはコピーできるが、味付けはコピーできない」という客席の安田氏の言葉に、吉岡氏は「その通り。勉強会勉強会(MetaCon)はノウハウをコピーしてもらうために作った。その部分に力を割かずに、内容の味付けに力を入れてほしい」と応答。宮原氏も「運営は慣れている人に弟子入りすればいい」と語った。
この日のセッションを企画した小山氏が「コミュニティの草の根勉強会には、生き方を変えるヒントがあるのではないかと思っている。会社や地域に縛られない新しい生き方がある。だから『世界を変える新たな潮流』という副題を付けた」と語ると、亀本氏は「技術者1年生のときに初めて勉強会に参加して、人生が変わった。技術の先端を走る人たちと接することが、成長の糧となった」と小山氏の意見に同意した。
最後にまっちゃだいふく氏は「勉強会は参加者たちが作り上げて成立する。みんなで楽しみましょう」とまとめた。この日登壇したのは、「勉強会を楽しみ、勉強会で人生が変わった」人たちだ。その潮流が世界を変える日は近い。
参考:よしおかひろたかの「初めての勉強会」 インデックス via kwout
参考:溝口浩二――コードを愛する「動画中継職人」 via kwout
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