コラム:自分戦略を考えるヒント(1)
エンジニアは“起業家マインド”で生き残る
〜まずは自分だけの「近代五種競技」を探そう!〜
堀内浩二
2003/7/10
はじめまして。堀内浩二と申します。このたび縁あって@IT自分戦略研究所で、皆さんと一緒にITエキスパートの自分戦略を考えていくこととなりました。このコラムでは、自分戦略を考えるヒントになりそうな事柄をざっくばらんに書き連ねていくつもりです。その中でわたしの自己紹介や起-動線の提案している「意志決定のフレームワーク」も織り込んでいこうと考えています。 |
■起業家はリスクヘッジできるキャリア
今回のテーマは、起業家として生きることこそ「合理的な選択」である。
わたし自身、「コンサルティング会社 → ベンチャー → 起業」という道のりを歩んできました。現在はたまたま1人で事業をやっていますが、面白い機会に出合えれば働く形態にはこだわりません。ですから自分は「起業家」だとは思っていません。
しかし、大きな会社から飛び出していろいろもがいているうちに、以前はハイリスクに思えた「起業家っぽいものの考え方」が、実は意外に合理的なのかもしれないと思うようになりました。これはエンジニアの皆さんにも当てはまるのではないでしょうか。
まず、下の話を読んでみてください。
●自分にとっての「近代五種」は何? | |
友人「きみとぼくとは実に妙な共通点があるな。つまり、われわれ二人とも、バイオリンを弾くでしょう」 私「うん」 友人「しかも競馬狂だ」 私「そんなもの、ちっとも珍しくない。オーケストラの中にいくらでもいるよ、競馬狂のバイオリニスト」 友人「いやいや、まだ先があるんですよ。しかもわれわれは二人とも玉を突く。そうして花札をやる。それもハチハチしかやらない」 私「なるほど、そういえばそうだ」 私「……」 友人「だからね、もしかしてね、突然社会が変ってですね、バイオリンが弾けて、競馬が好きで、ハチハチが強くて、玉突きと剣玉のうまい人が一番偉い、っていうようなことになったら、われわれ日本でも一番偉いほうになるんじゃないかしら?」 (出典:伊丹十三、「近代五種」、文春文庫『女たちよ!』) |
■ライバルと「差別化」できるか?
なんだこりゃ? と思うかもしれませんが、この「友人」の手前勝手な発想を頭に置いて、今度はこちらを読んでみてください。梅田望夫さんという方のblog から引用しています。
●起業家として生きることは競争力を持つ! | |
スタンフォードのビジネススクールを出た連中、一流大学のComputer
ScienceでPh.D(博士号)を持っているようなシリコンバレーのトップクラスの連中でさえ、職が簡単には見つからない(歳を重ねれば一般的には条件が悪くなる)のは、不景気もさることながら、よほど意識しない限り、個の差別化が難しくなっているからだ。 ちょっとしたスキルならば、すぐにインドや中国や台湾のアウトソーシング先リソースとの競争になってしまう。 就職する、つまり人に自分を選んでもらう、のではなく、自分で仕事を創出しながら自らの差別化要因を積み上げていける「起業家としての生き方」のほうが「より合理的な選択」なのだと、もっと多くの人が気づく日も近いのではないだろうか。 |
■採用される確率を高める方法
起業というと夢やロマンを追うイメージがありますが、その一方でハイリスクな選択でもあります。それがなぜ「合理的」なのでしょうか?
例えば、新聞の求人欄を見ると、企業がそれぞれの思惑で求人情報を掲載しています。その中で、応募できそうな企業はどのくらいありますか? 多少スキルや経験を自分なりに高く評価したとしても、せいぜい2割程度ではないでしょうか。もちろん、応募できたとしても、それが採用に結び付くとは限りません。
★転職希望者が注意すべきこと |
まさに、上記の確率をいかに高めていくか。そのためにどうすればいいのか、を考えることこそ、転職志望者が考えるべき道筋ではないでしょうか。
■ゼネラリストかスペシャリストの生き方
1つ目の考え方は、応募できる確率が2割であったなら、その数字を3割に上げること。なるべくいろいろな経験を積んでおき、どんなオファーがきても「その仕事はやった経験があります」といえるようにしておけば、少なくとも求人マーケットの土俵に上がる確率は上がります。
次に、「求人案件に応募できる確率」が2割から1割に下がったとしても、「(多くの応募者の中から)採用される確率」を5倍にするために自分の専門を磨くことです。
いい方を換えれば、前者はゼネラリスト、後者はスペシャリストということになります。もちろん、キャリアの育て方はこれほど単純に二分化できるものではなく、スーパーゼネラリスト ――つまり特定領域の深い専門を持ちながら、そこで培った「知恵」をほかの領域にも敷延していける人たれ――というようなこともいわれています。いずれにせよ、自分の競争力をどこに求めるかは注意する必要があるのではないでしょうか。
前出の梅田さんが指摘されているとおり、競争力とはすなわち「差別化」です。他人と同じ土俵で、真っ向から競争しながら自らを差別化していくのは大変なことです。
例えば、経営学修士や難関資格を取ったとしても、就職・転職市場では、自分とよく似たプロフィールの人たちと競争することになります。つまり、さらなる差別化が求められるのです。土俵は変わっても競争は続くということです。
梅田さんのメッセージは、「不景気によって競い合う土俵そのものがいきなり縮んでしまった、しかも(人材マーケットがグローバル化して)“参入障壁”が低くなってしまったということが、いまシリコンバレーで起きていることですよ」と理解できます。
■自分が日本一になれるフィールドとは?
「起業家としての生き方」―― あえて「起業」ではなく「起業家としての生き方」というところに注目してください。 それは第3の道です。
起業家とは、「もしかしてね、突然社会が変ってですね、バイオリンが弾けて、競馬が好きで、ハチハチが強くて、玉突きと剣玉のうまい人が一番偉い、っていうようなことになったら、われわれ日本でも一番偉いほうになるんじゃないかしら?」という考え方を持つものです。
★起業家としての生き方〜その1 |
★起業家としての生き方〜その2 |
■自分だけの「近代五種競技」を考えよう
とはいえ、メシが食えなきゃ仕方がない。次の大きなステップは、食っていくだけの社会的な価値をどのように生み出すかということです。それはそれで大変な道だと思いますので、合理的だからといってやみくもに勧められるものでもありませんが、少なくとも自分の「バイオリン+競馬+ハチハチ+玉突き+剣玉」は何だろうかと、常に考えておきたいですね。だいいち、そういう生き方は楽しいじゃありませんか。
伊丹十三氏のエッセイでは、近代五種競技(馬術+射撃+フェンシング+水泳+クロスカントリー)を枕に、冒頭の会話を経て、「だれしも、自分自身の『近代五種』を持っているように思う」と続きます。
近代五種競技は、運動選手の総合的な能力を競う最高峰の競技の1つです。こちらで戦うもよし、自分で五種をつくり出して、チャンピオンを名乗るもよし。(バイオリン+競馬+ハチハチ+玉突き+剣玉)名人が価値を持つシチュエーションをひねり出せれば、そのニッチはあなたのものです。
独立自営ばかりが、必ずしも「起業家としての生き方」ではありません。社内プロジェクトでも、上記のようなロジックで「自分のビジネス」をプロデュースしていけるならば、それは「起業家としての生き方」といえるのではないでしょうか。
筆者紹介 |
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。 |
関連記事 Index | ||||
|
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。