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コラム:自分戦略を考えるヒント(3)
「やる気」がわいてこないときの対処法

〜特効薬は自分の脳の中にあった!〜

堀内浩二
2003/8/19

こんにちは、堀内です。わたしはよく「起-動線ランチ」と名付けて勝手にいろいろな職業の人とランチミーティングすることを趣味にしています。つい先日も、会員の村上要一氏(仮名・30歳)と「やる気」についてこんな話をしました。彼は事業会社の情報システム部門で、いわゆる若手の“何でも屋”として活躍中のエンジニアです。彼は夏休みが終わってから、どうも仕事へのやる気がわかないという悩みを持っていました。

やってみることで「作業興奮」が高まる

村上 堀内さん、やる気の出るノウハウ本やセミナー・イベントとか知ってますか? 早めに夏休みを取ったのですが、どうも“社会復帰”できなくて……。仕事へのやる気がなかなかわいてこないのです。

堀内 やる気ですか。仕事へのモチベーションですよね。いきなり結論っぽいですけど、「実際に仕事をやってみる」ことがやる気を出すために効果的な方法らしいですよ。

村上 まあ、経験的にもそんな気がしますねえ。この間、ためにためたテスト成果物の作成を一気にやったのですけど、手を付けるまではおっくうだったのにやり始めると意外に没頭しちゃいました……。

堀内 『海馬/脳は疲れない』(朝日出版社)という本によると、それにはやる気にかんする科学的な裏付けがあるそうですよ。

「やる気」を起こす方法〜 『海馬/脳は疲れない』より抜粋
「やる気」を生み出す脳の場所があるんですよ。側坐核といいまして、脳のほぼ真ん中に左右ひとつずつある。脳をリンゴだとすると、ちょうどリンゴの種みたいに小さな脳部位です。ここの神経細胞が活動すればやる気が出るのです。

堀内 このように、側坐核から海馬と前頭葉に信号を送る伝達物質「アセチルコリン」の多い少ないが「やる気」のあるなしを左右しているそうです。

村上  「そうです」ばかりじゃないですか(笑)。

堀内 専門外のことだから仕方がない(笑)。ではどうすれば側坐核を活発にできるのか。さらにこの本の受け売りを続けますけど、「最初に刺激ありき」なんですね。やる気がなくてもやってみる。すると側坐核が自己興奮して、気分が乗ってくる。こうした「やっているうちに作業モードになる」という現象は“作業興奮”と名付けられているそうです。

 「石の上にも3年、ダマされたと思って……」などと、いわれてやっているうちに仕事が面白くなることがありますよね。ほかにも、習いごと、大学での専攻、会社での職務、みんな大なり小なり、そういう要素があるような気がします。

村上 面白いですね。つい、考えて考えて可能な限り深読みをすれば「客観的に見て最善の一歩」みたいなものが存在するような気になりますけど……。

堀内 この説によれば、まず最初の一歩を踏み出してしまえば、脳が自分の選択を後押ししてくれるということです。

なぜ目標を達成すると意欲が落ちるのか?

村上 でも、「実際にやってみると、さらにやる気がわいてくる」一方で、「やる気が満ちあふれていたのに、実際にやってみるとさめてしまう」こともありますよね。

堀内 確かに、それもあります。例えば転職についていうと「いまの職場ではちょっと上司と気まずいけれど、新しい環境で心機一転し、自分ブランドを作っていきたい……」。これが転職前。転職して一息つくと、「世の中おいしい話ばかりじゃないなあ」とため息をついてしまう。

村上 旅行もそうじゃないですか?「旅行は出発までが一番楽しい」っていいますよね。旅行のプランをあれこれ練っているうちはワクワクしていたけれど、いざ旅に出ると相方とケンカばかりで、「疲れに行ったようなものだよ」なんてね(笑)

堀内 たぶん「旅行の準備」と「旅行」は違うイベントなんです。準備のときはホテルの写真を見ながら盛り上がって「夢の旅行プラン」を作っちゃいますよね。ところが実際に旅行に出てみると、準備不足で思う存分楽しめなかったり、期待ハズレなことばかりが起こる。そして「夢の旅行プラン」からどんどん減点されていく。本当は「思いもしなかったような楽しいこと」に巡り合っているのに、事前の期待との落差ばかりが気になって心から楽しめない。

 「旅行の準備」をモノサシにして「旅行」を測るからつらくなるのであって、旅行に出たら旅行というイベントそのものを味わうことができれば、側坐核も後押ししてくれるのではないでしょうか。

村上 その考え方は分かります。ただ、そのような考え方で自分戦略を考えてもいいのですか? 起-動線は「『ポリシーある選択』をしよう」というのが合言葉だったではありませんか。

堀内 旅行でいえば、あくまでも「楽しむこと」が目的であって、計画どおりに旅行することはその次にくることでしょう。むしろ旅行を楽しむというポリシーを貫くためには、ドンドンつまらない“シバリ”を捨ててしまった方がいいわけですよ。旅行に「ポリシー」というのは、ちょっと違和感があるかもしれませんが……(笑)

状況に応じて「打つ手」を変える

村上 それじゃあ、(仕事にせよ、旅行にせよ、自分戦略にせよ)そもそも計画したり、期待値を持っても仕方がないということですか?

堀内 うーん……。計画したことをいざ実行するとまったく思いどおりにならないことは多いですが、その最たるものは何だと思いますか。

村上 デートプラン。

堀内 村上さん、既婚者のくせに(笑)。答えは戦争です。ここは「@IT自分戦略研究所」ですけど、戦略論というものはもともと戦争に勝つために鍛えられてきましたよね。僕もあんまり詳しくないですけど、どうせ思いどおりにならないのなら計画しないで戦争を始めちゃおう、とはなりません。準備段階では最大限に先読みをして計画を立てる。でも計画は計画ですから、実戦ではどんどん崩れてしまう。だから状況に応じて「考える間もなく」打ち手を変え続ける。そのとき指揮官の「戦略」の有無が問われるのです。

村上 考える間もなく、というところが“鍵”ですね。

堀内 そうそう。目的に沿ってポリシーのある選択を積み重ねることが勝利の確率を上げると思います。そういう揺るぎない判断基準みたいなものは、事前のシミュレーションをどれだけしっかりやったかに大きく依存するのではないかと思うのですよ。だから「動く」だけじゃなくて、事前に「考える」のも大事なのです。

 では、最後にちょっとまとめてみましょう。

やる気の出る「クスリ」は自分の脳の中にある
 本を読んだり、人の話を聞いたりして刺激を受けることももちろん有意義ですが、やる気の出るクスリがどこにあるかといえば、それは自分の脳の中にあるのです。そしてそのクスリは、「実際にやってみる」ことによって効いてくる。

軌道修正を恐れない
 「目標」に固執しすぎるとかえって「目的」を見失うこともあります。「やってみて初めて分かったこと」を大事にしながら、自らやる気がわき出てくる方向へと目標を変えていくことは悪いことではありません。「やるとやる気が出てくる」というのは、「そちらへ進もうよ!」という脳からのサインではないでしょうか。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

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