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コラム:自分戦略を考えるヒント(44)
突然の転職チャンス(リスク)に備える

堀内浩二
2007/8/31

 こんにちは。堀内浩二です。厚生労働省が今月(8月)発表した「平成18年転職者実態調査結果の概況」(以下「転職者実態調査」)を眺めていたら、意外に「突然転職する人」が多いように見受けられました。

 突然よい話をもらったり、突然会社が倒産したり、理由はさまざまだとは思います。「有事に備える」のも戦略のうち。今回は「突然の転職チャンス(リスク)に対して、何を備えたらよいか」を考えてみたいと思います。

誰にでもある「突然転職のチャンス(リスク)」

 「転職者実態調査」から一部を抜粋・編集したのが下表です(表1)。この調査はIT業界だけでなく、全業界にわたっています。

表 厚生労働省が発表した「平成18年転職者実態調査結果の概況」にあるさまざまな表から、いくつかのデータを抜粋して整理したもの。左から、転職者の中で、転職の準備活動をしなかった人の割合、転職活動をしないで転職した人の割合、前の会社から紹介されて転職した人の割合、転職活動をせず、かつ前の会社の紹介もなかった人の割合、倒産・整理解雇で転職した人の割合

 まず、「転職するにあたってどのような準備活動をしたか」という質問に対して、「特に何もしていない」が57.4%ありました(A列)。「準備活動」の中には、資格取得のための勉強はもちろん、「産業・職業に関する情報等の収集をした」なども含まれています。どこまでをもって情報収集と呼ぶかにもよりますが、割と準備なしでパッと転職する人が多い様子がうかがえますね。

 次に、「具体的に転職活動を始めてから辞めるまでの期間」を見ると、「転職活動なし」が4人に1人以上と意外に多いことに驚きます(B列)。これらの人は、辞めてから転職活動をしたか、活動はしなかったが辞める時点で次が決まっていたということになります。

 後者の有力な原因として「前の会社からの紹介」(C列)を挙げることができます。出向や倒産に伴う解雇などのケースの多くはここに該当するのではないでしょうか。今回は「突然の転職チャンス(リスク)に備える」がテーマですので、前の会社から紹介を受けられた場合を除いてみると、「転職活動をせずに辞め、かつ転職に当たって前の会社からの紹介がなかった(か、あっても蹴った)」人は2割程度であることが分かります(D列)。

 参考までに、転職理由として「倒産・整理解雇」を挙げた人の率をE列に示しました。当サイトの読者の平均年齢のあたりでも5%程度、40歳以上では10%以上が解雇によって転職しています。

転職戦略のフレームワークは「カネ・コネ・スキル」

 実はわたしも「倒産・整理解雇」を体験しています。意気込んで転職したベンチャー企業が力及ばず事業清算となってしまいました。それをきっかけにいまの会社をつくったのですが、再挑戦が可能だったのは、ベンチャーであるがゆえに「失敗したら、その次はどうする?」と考えてあった(考えざるを得なかった)からだと思っています。

 では突然の転職チャンス(リスク)への備えとして何を考えておけばいいか。

 ざっくりと「カネ・コネ・スキル」に分けて考えてみます。

●カネ:「防衛モードでの生活費」×24カ月

 「転職者実態調査」では、離職期間「なし」と「1カ月未満」の合計が55%近くに上っています。もちろん離職期間は短いに越したことはありませんが、先立つものがないために仕事探しがじっくりできない事態は避けたいもの。

 わたしは上で書いたベンチャー時代に木村剛さんの『投資戦略の発想法』(アスコム刊)という本を読み「まず24カ月分の生活防衛資金を確保せよ」という言葉にハッとしました。24カ月分の生活費が確保できていれば、転職活動はおろか起業にチャレンジしてから求職活動をしても間に合います。

 「24カ月分」は多いと思うかもしれませんが、「転職者実態調査」を見ると離職期間が10カ月以上に及んだ人も7.5%います。それを考えると12カ月分は欲しいですね。

 ポイントは「月々いくらで暮らしているか」と、「切りつめた場合月々いくらで暮らせるか」を把握すること。後者を「防衛モードでの生活費」と呼びましょう。車、外食、通信費、新聞など、いざとなれば2年間削れるものは何でしょうか。それが多ければ、生活防衛資金の見積額も下がってきます。

 わたしの場合、この考え方が「あと何カ月間頑張ってみよう」と考える根拠を与えてくれ、不安を抑える効果がありました。

●コネ:日々の仕事が培う「強いきずな」が「弱いきずな」を生かす

 「転職者実態調査」では、ほぼ3割の人が求職活動の手段として縁故(知人、友人など)に頼っています。インターネット以降、「電子メールを交わしたことがある」「名刺を交換したことがある」というレベルでの人脈をつくることはかなり容易になりました。「弱い紐帯」(詳しくは、「夏休みは『人とのつながり』に投資しよう!」を参照)という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。

 しかし、自分のことをよく理解したうえで推薦してくれる人がいなければ、広く浅い人的ネットワークも生かせないと思います。わたしはこれを「『弱い絆を生かす強い絆』仮説」と呼んでいます。

紹介する側にも責任が生じるようなことがらでは、ある「壁」が存在します。

 あの人だったら紹介できる。
 あの人を紹介できることを嬉しく思う。

最初の紹介者がそう思ってくれない限り、壁は越えられません。その壁を超えると、

 あの人の紹介だったら紹介できる。

というロジックで2次の紹介者が紹介をしてくれます。そして本人との距離が離れるほど紹介者の責任が軽くなるので、一気に情報が広まることになります。

 つまり、弱いきずなのネットワークを生かすためには、自分と直結しているきずなは強くなければならないというのがわたしの仮説です。以上、「人脈の広さと深さ、どちらが大事か」より引用。

 強いきずな、つまり仕事上の信頼を築くものは何か。実際の仕事ぶりに決まっています。ともに仕事をした人からの信頼が最も得難く力強い推薦であると考えれば、1つ1つの仕事をおろそかにしないことが結果的に最もよいコネづくりの方法でもあるということになります。

 ここでいう「仕事」とは、いわゆる賃仕事だけとは限りません。詳しくは「仕事のポートフォリオを作ろう」を参照してください。

●スキル:「継続」+「いま持っているスキルをきちんと表現する」

 スキルについては、

・スキルを高める

だけでなく、

・持っているスキルをきちんと表現する

という側面も考えられるとよいと思います。

 前者については「スキル創造研究室」に譲り、ここでは「転職アドバイスメール」などの経験から、後者について感じていることを書いてみます。

 明確に自信を持っているスキル以外の話になると、謙遜なのか自己卑下なのか、必要以上に「自信を持っていない」ものとしてアピールをあきらめてしまう(あるいは不安に思う)人が少なくありません。

 例えば「部下を持ったことがない。リーダー経験のなさを指摘されたら……」という相談をしばしばいただきます。確かにない袖は振れません。しかし「チームリーダー」という職位の経験がなければリーダー経験ゼロなのでしょうか。そうではないはずです。

 仕事はコミュニケーションの固まりであり、コミュニケーションのあるところリーダーシップが存在し得ます。上司や顧客に対して何かを主張して納得を得られた経験があれば、それがリーダーシップを発揮した経験や工夫を語る糸口になります(参考:「仕事の『縦』と『横』を考える」)。

 「いま持っているスキルをきちんと表現できる」こともスキルのうち。その気がなくても転職活動のシミュレーションをしてみる(職歴を書いてみる、転職セミナーに出てみる)のも有効だと思います。

習慣が備えをつくる

 書いてみて、どれもとっさにわいて出てくるものではないことにあらためて気付かされました。当たり前の結論になってしまいますが、日々の精進が重要ということですね。

 ただ幸いなことに、どれも「転職のためにする」戦略ではありません。自分の長期的な目標のためにやるべきことが、結局は備えの戦略にもなるという感じでしょうか。

 今回挙げたポイントのほかに「こんな準備をしていたから転職(やそのほかのチャレンジ)がうまくいった」という方は、ぜひ教えてください。

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役、グロービス経営大学院 客員准教授。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。シリコンバレーに移り、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。帰国後、ベンチャー企業の技術および事業開発責任者を経て独立。現在は企業向けにビジネスリテラシー研修を提供するほか、社会人個人の意志決定支援にも注力している。

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