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不定期コラム:Engineerを考える(8)
文字コミュニケーションを円滑に〜行間の鎮火術

加山恵美
2004/9/9

文字だけの意思疎通の難しさ

 ディスプレイに表示された文字列から険悪な雰囲気を察し、緊張が走った――。例えば不具合の問い合わせや公開ディスカッションの場など、ちょっとした言葉のアヤで足をすくわれることがある。誰でも少なからず一度は経験したことがあるのではないだろうか。

 それだけ文字のみの意思疎通は時に危うく、難しい。普段なら口に出す前にいいとどまるのにキーボードではつい手が滑ったり、ディスプレイに表示される文字はどこか現実味がなく、まだ推敲(すいこう)が必要な文章でもつい「送信」や「投稿」ボタンを押してしまうなど、原因を作った側はさほど意図していないことが多い。

 それなのに、カチンときた相手は想像以上に気に障っていることがあり、時に憎悪は膨れ上がる。同じ文面を見続けると、思考範囲が狭くなり、うまく気分転換が図れないとネガティブな感情は悪循環に陥る。疲れていたりストレスを抱えていたりすると、この危険性は増す。最初はなだめていた側も、相手の怒りのペースに引き込まれると、怒りが伝播してしまうこともある。気が付くと、両者ともに冷静さを失い、喧々囂々(けんけんごうごう)たる議論になっていたりする。

文字からほかのコミュニケーション手段へ

 文字だけのコミュニケーションでは、まれに小さなボヤから大火事へと発展することがある。危険を察知したら手段を直接対話または電話に切り替えることをお勧めする。だが、早期段階ならまだ文字で鎮火することも不可能ではない。その場合、最重要なのは中身、つまり冷静かつ誠意ある態度を表現することが大事だ。その次に、これから述べるようなポイントも心得ておくと少しは鎮火に役立つかもしれない。

 これまでの経験と観察から、いくつか注意すべき項目をまとめてみた。険悪な雰囲気を鎮めるための考慮点だ。いい換えれば、不毛な論争へと発展しないように気を付けたいことである。

○問題点を絞る

 本質を見失うことが何よりも危険を招きやすい。まず冷静になって見解の相違や争点は何なのか明確にするのが大事だ。互いに指摘する部分が違えば議論は迷走し、枝葉末節の指摘だけで大げんかに発展することもある。どの点で対立しているのか、問題を両者で確認し合っておけば混乱を回避できる。それには相手の文章をよく読むことが大事だ。

 議論が悪化すると、とにかく相手を打ち負かそうと躍起になり、問題点のすり替えや解釈の飛躍が激しくなりがちだ。例え話はさらなる誤解を生む危険性があるので、できれば避けよう。脱線したら「問題が違う」と切り捨てる冷徹さも必要だ。主要な問題だけに限って話を続けること。そうしないと無駄に労力を費やすことになる。

○冷静さを保つ

 不快で挑発的な言葉や行為は慎む。両者が冷静さを失うとけんかになる。せめて片方だけでも冷静であれば、鎮火できる可能性は残っている。互いに「いい負かされたくない」と意固地になると泥沼にはまる。だから、絶対に敵意や悪意を見せないこと。持っていたとしても悟られないように装う演技力も欲しい。

○引き際が大事

 わだかまりが残ろうとも、争点が解決すれば下手に長引かせずに議論を終了させる。一方的に終止符を打とうとするとかえってこじれるが、ある程度まで意見交換をしたら見切りをつけること。議論の末に妥協点が見いだせればいいのだが、無理ならあきらめも肝心だ。

 特に公開の場では、レスをつけないと「反論なし=負け」と思いがちで、これも長引く原因となる。傍観者にとって勝敗とはレスの有無より、主張の合理性で判断されるものだ。対戦相手がどう難癖をつけようと、最後はうまく逃げることも大事だ。

○引用は避ける

 引用とは過去の発言をテープで再生するようなもので、繰り返すたびにその場の雰囲気を再現させる効果がある。確認に使ったり、仲良し同士でチャット的な会話を楽しむならまったく問題はない。だが険悪な雰囲気が漂う場では、その原因を相手に思い出させるような引用はしない方がいい。過去の表現にトゲがあるなら引用で繰り返さず、別の表現に変える工夫もしてみよう。

 引用を避けることにはほかにも効果がある。引用を繰り返すと、細かい表現で争うことになる。議論が激化すると、例えば「バグとは?」など表現の定義が妥当かどうか、文章の一部を引用して議論することで、当初の問題から違う問題へと移ってしまうことがある。問題を広い視野から把握するために、あえて別の表現にすると印象が変わる効果もある。

○文字の量や比率

 文字量の増減は書き手の心境を推測するいい基準となる。いつもは短い文章で終わる人物が突然長文になるときは要注意だ。良くも悪くも、文字量が増えるということは、相手の関心や感情の高さを示している。愚痴の文章が長ければ、不満がうっせきしていることになる。いつもより解説の文章が長ければ、そこには特別のこだわりがあるのかもしれない。

 さらに文字量の効果を利用して、内容の比率を文字量で調節するのもいい。相手に伝えたい感情や印象づけたい表現は文字量を多く、逆に気にかけてもらいたくないことは短くしてさらりと流す。もちろん目ざとい人には隠したいこともばれてしまうものだが。

 特に謝辞は無理にでも長めにするといい。どういう場面でどういう理由で感謝するのか、または申し訳ないと思った気持ちを長めに綴れば、少しでも謝辞の気持ちは多く伝わる。

○顔文字は避ける

 真剣なやりとりでは顔文字やアスキーアートは控えた方がいい。顔文字で笑顔を作り、緊張を緩和させることはできるが、過度な利用は不まじめにとられて逆効果になる。顔文字は文章にマンガの絵を追加するようなものだ。タイミングと量に気を付けよう。円満解決した後に見せる程度なら効果がある。

○時間を空ける

 緊急に対処しなくてはならない場合を除き、締め切りがない議論なら時間を空けるといい。一晩寝れば互いに頭がクールダウンし、新たな気持ちで取り組むことができる。鎮火方法としては原始的かもしれないが、かなりの効果がある。また熟考するといい表現や解決策が浮かぶこともある。時間は有効に使おう。感情的な文章はすぐには送らないこと。自分にも相手にもクールダウンを期待して、少し時間を空けてから返事を出すのもいい。

文字のコミュニケーションの特性を理解する

 どんなコミュニケーション手段でも緊張した場面では、十分に気を使って言葉を選ばなくてはならない。機械を通じた文字だけのコミュニケーションであればさまざまな記録方法があるので、会話に比べてより慎重にする必要がある。うっかり失言でもすれば、後から繰り返し攻撃される危険性もあるからだ。文字のコミュニケーションもかなり日常化してきたが、その特性は心得ておくべきだろう。

筆者紹介
加山恵美(かやまえみ) ●茨城大学理学部化学科卒業。金融機関システム子会社とIT系ベンダにてシステムエンジニアを経験し、グループウェア構築や保守などに携わる。そのかたわらで解説書を執筆していたが、それが本業と化す。技術資料を提供することで、日夜システムと格闘しているエンジニアをサポートできればと願う。幼少からバレエを始め、現在コンテンポラリーダンスを習っているが、いまだに身体が硬いのが悩みとか。双子座A型。

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