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IT業界の冒険者たち

第5回 ハイパーカードの生みの親

脇英世
2009/5/18

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本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、IT業界を切り開いた117人の先駆者たちの姿を紹介します。普段は触れる機会の少ないIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。

ビル・アトキンソン(Bill Atkinson)――
アップルフェロー、ハイパーカード開発者

 ビル・アトキンソンは1952年生まれである。最近の写真を見ると、ビル・アトキンソンも年を取ったなあと思う。しかし彼はわたしより5つ年下であり、わたしも年をとったのであるが、あまり実感がない。わたしの思い出すビル・アトキンソンは、いつまでもハイパーカードの時代のビル・アトキンソンなのだ。

 ハイパーカードで名を上げたビル・アトキンソンだが、意外なことに彼はコンピュータ学科の出身ではない。学生時代ビル・アトキンソンはワシントン大学の神経科学科でコンピュータ画像を用いた脳のマップの研究をしていた。

 パソコンのソフトウェア開発にコンピュータ学科出身者が従事するようになったのは、つい最近のことである。パソコンの黎明期には、パソコンの開発者には正統的なコンピュータ学科出身者はほとんどいなかった。どちらかといえば、正統的な教育を受けていない人の方が多かった。

 マイクロソフト会長のビル・ゲイツはハーバード大学中退であるが、最も好意的な伝記でもハーバード大学在学中にコンピュータの正統な教育を受けたとは書いてない。第一、ビル・ゲイツは在学中講義というものをまじめに聴いた形跡がない。毎晩ひたすら、トランプのブリッジで憂さを晴らしていた。

 また、つい最近アップルに復帰したスティーブ・ジョブズもリード大学中退である。スティーブ・ジョブズはろくに大学に行かず瞑想(めいそう)や断食や東洋的神秘主義に凝った後、インドに修行に渡ってしまう。普通のいい方に従えば、こういう人たちのことをドロップアウトしたと称する。あぶれ人間やはみだし人間とでもいうのであろう。現在のパソコンの繁栄に大学のコンピュータ教育は無関係だったのである。

 ビル・アトキンソンは研究成果が発表されると、自分の貢献が正当に評価されていないことに気付いて失望し、1978年アップルに走り社員番号51の社員となった。

 アップルに対するビル・アトキンソンの初期の貢献はLISA上で動作するマックペイントを書いたことである。この貢献が認められて1983年、ビル・アトキンソンはアップルフェローになる。フェローになると、自分でテーマを見つけて研究ができる。大変名誉なこととされている。

 1984年、マッキントッシュが出荷されるが、ビル・アトキンソンをいたく失望させたことにビル・アトキンソンのマックペイントはバンドルされなかった。自社製品をバンドルすると、サードパーティがマッキントッシュ用のアプリケーションの開発に警戒心を持つようになるので、マーケティングの立場からはやむを得ないことなのだが、ビル・アトキンソンをひどくがっかりさせたようだ。

 1985年、ビル・アトキンソンはアップルフェローとしてマジックスレートの開発に取り組む。これは手書き入力とフルページのディスプレイとグラフィックス指向のインターフェイスを持つラップトップコンピュータになるはずだった。しかしマジックスレートは数ギガバイトのメモリ、無線リンクなどを必要とし、当時としては斬新すぎて製品化を目指した開発は中止になった。またもや挫折である。このためビル・アトキンソンは数カ月間仕事が手に付かないほど落ち込んだ。

 伝えられるところによれば、ビル・アトキンソンは毎夜ロスガトスの丘を徘徊し、深遠な闇に輝く星々を仰いで傷ついた心を慰めたという。ビル・アトキンソンの哲学には宇宙、挫折、漂泊、放浪、徘徊、陰影といった語彙(ごい)がふさわしい。

本連載は、2002年 ソフトバンク パブリッシング(現ソフトバンク クリエイティブ)刊行の書籍『IT業界の冒険者たち』を、著者である脇英世氏の許可を得て転載しており、内容は当時のものです。

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